閑話 ポセイドン 八つ当たり
お2人が来てから娘たちの目が違う。
完全に獲物を狙う目だ。
何が始まるのかドキドキしていたら、鬼ごっこだった。
子供の遊びだと安心していたら、娘たちがとんでもない速さで泳ぎ出した。
妻がそれとなく言っていたが…。
既に魚人なんて相手にならないぞ。
とんでもない速度だ。
偶に砂埃が上がったりする。
シャーロット様は砂浜の底に張り付いて魔石を投げている。
娘たちの視線を完全に把握している。
突然魔力が視界に入ったら追い駆けてしまう。
しかも、全ての魔石の魔力を同じ量にしている。
シャーロット様は娘がばらけた後に砂に潜る。
ヴィーネ様は娘の速度より速い速度で移動している。
もう無茶苦茶だのう。
シャーロット様が障害物や魔石をばら撒いたのは知っておるが、ここまで本気で鬼ごっこをする為だったとは思わんかったわい。
娘たちがシャーロット様が潜った砂に潜る。
やはり、魔石しか出てこない。
完全に娘たちの頭には、あの魔力量が入ってしまっているな。
シャーロット様が時間を確認する為か、砕いた魔石の中から顔を出す。
そして、儂の元に来て終了を宣言する。
とんでもない鬼ごっこじゃった。
娘たちは儂より速く泳げる。
とんでもない成長じゃ。
終わった後にヴィーネ様が言った言葉が衝撃だった。
海中での鬼ごっこに慣れていない為もっと速く泳げると。
人魚はあれ以上の速度で泳ぐ事ができるのか。
「お父様。何かアドバイスはありますか?」
「魔力の大きさに意識がいっておった。シャーロット様は色々と変えておったぞ」
「それで、どうやったら捕まえられるのですか?」
「動く魔力の大きさを意識するしかないのう」
「つまり、お父様はあの速度の魔力の大きさを正確に把握できるのですか?」
シャーロット様は自分が動ける速度で魔石を投げている。
あの速度で正確に把握はお2人以外無理じゃないかのう。
つまり、捕まえるのは厳しい。
「今のままじゃ捕まえるのは厳しいと思うぞ」
「つまり、今より何を鍛えればいいんですか?」
「は、速く泳ぐ練習じゃないかな?」
「へぇー。お父様は100対1で鬼ごっこしてくれるのですか?」
「わ、儂は大きいから無理じゃな」
「練習して速く泳げばいいじゃないですか。まさか、できないんですか?」
「儂は速度より力じゃからのう。無理じゃな」
「力はヴィーネ様よりあると言う事ですか?」
「比べる相手が悪すぎるぞ!世界一強い相手と比べんでもいいじゃろうに」
「シャーロット様の言った通りね。意味は無いわ。訓練しますよ」
「「はい、お姉様!」」
八つ当たりじゃ。
完全に負けた八つ当たりじゃぞ。
儂、海の王じゃぞ?
しかも参加もしてないぞ。
少し前まで怯えておった気がするが…。
全力鬼ごっこは恐ろしいのう。
おお、妻が帰ってきた。
「聞いてくれんか。娘たちが鬼ごっこで負けた八つ当たりをするんじゃ」
「どこで鬼ごっこしたのですか?」
「ここじゃ。海中でお2人とした訳じゃ。娘たちは儂より速い速度で泳いどるんじゃ。アドバイスできんわい」
「お2人は何て言っていたんですか?」
「シャーロット様は、儂に聞いても意味ないと言っておったな。ヴィーネ様は、海中での鬼ごっこに慣れてない、もっと速く泳げるよ、と言っておったよ」
「結局あなたにアドバイスを聞いたけど意味が無いからでしょ?」
「できる訳無いじゃろ。今の娘たちなら魚人すら瞬殺じゃ。儂より力はないかもしれんが、速さが桁違いなんじゃ。娘たちに勝つお2人がおかしいんじゃよ」
「それでも勝ちたいから聞いたのでしょう。やはり、学校は素晴らしい環境です。お2人がこうやって刺激を与えてくれるから、より努力するのですね。あなた、アドバイスもできないなら明日の商品を獲ってきて下さい」
「明日でいいじゃないか。明日の商品じゃろ?」
「どれだけあっても売り切れるんですよ。あればあるだけ売れるんですよ?獲ってきて下さい。魚を獲るのも娘たちに任せますか?」
「ああ、今の娘たちなら恐ろしい早さで終わるぞ」
「じゃあ、あなたのお酒は抜きで娘たちにお願いしましょう」
「な、な、なんでじゃ?それは酷いじゃろ!」
「あなたは仕事しないのでしょう?アドバイスもできないし魚獲るしかないじゃないですか」
「行けばいいんじゃろ。行ってくるわい!」
「サンゴも忘れないで下さいよ」
完全に八つ当たりじゃ。
娘にアドバイスできない父親を責めておるんじゃ。
全力鬼ごっこを見ていたらアドバイスなんて思い付かんわい!
お母様には考えがあるのかもしれません…。




