プロローグ
吸血鬼が様々な種族と出会い成長していく物語です。
「お母さん、今日も街は平和だよ」
崩れかけた石のお墓に手を合わせる。
そろそろ、新しい石に交換しないといけないね。
固そうな岩を森で探し、爪で長方形に削る。
そして、いつもと同じ文字を爪で掘る。
【大好きなシェリルお母さんの眠る場所 シャーロットより】
お母さんのお墓は、村で一番見晴らしがいい場所に建てたんだ。
後から来た住民は、お墓より下にしか住まわせなかったよ。
お母さんを誰にも踏まれたくないからさ。
新しい石に交換した後、お墓の横にある街の人が建ててくれた立派な社で寝転がる。
街で問題が起きなければ、私はここで寝ている事が多いよ。
お母さんと住んでいた時はトンプ村という名前で大自然に囲まれた小さな村たっだ。
100人くらいの人間が住んでいたね。
今はシェリル街という名前で2000人くらいの人が住んでる。
結構増えたんだよ。
安全な場所だという事で近隣の村の人々が集まったみたい。
他種族の人も少しだけどいるよ。
お母さんは森で捨てられていた私を拾って育ててくれた。
すぐに人ではないと分かったんだって。
深紅の髪と瞳、真っ白な肌。
偶に血を吸われて痛かったって、笑って教えてくれたから。
今は血を吸いたいと思う事は無いから、小さい頃お母さんに甘えていただけだと思う。
人間じゃなく血を吸われても捨てずに育ててくれた、お母さんが大好き。
村の人もお母さんに甘える私を見て、怖がってなかったよね。
成長していく毎に自分の事が分かるようになってきた。
人間とは違う生き物だという事が、本能で分かるんだ。
出来ない事はほとんど無い気がする。
私はお母さんが寿命で亡くなるまでずっと側にいた。
歳を取ったお母さんの食事の用意もずっとしていた。
そして、お母さんと一緒に寝ていたんだ。
私はお母さんの宝ものなんだって!
お母さんは私の宝ものだったのに…。
私には人の寿命を延ばす事は出来ないみたいだ。
何でも出来ると思っていたのに、一番したい事は出来なかった。
私の眷属にすればもっと長生きする事も出来たけど、それはしたくなかった。
お母さんを支配するなんてしたくないからさ。
人間として最期を迎えて欲しかったんだ。
でも、お母さんが亡くなったのは凄く悲しかったよ。
どんどん弱っていくお母さんを見て、泣いている私を抱きしめてくれた。
消えそうなか細い声で言ったの。
「シャーロット、好きに生きてね」って。
だから聞いたんだ。
「お母さん、私の次に大切なものは何?」
寿命があるのかどうかも分からないけど、お母さんの大切なものを守りたかったんだ。
お母さんは答えてくれた。
「私にはあなただけ。次はないよ。シャーロットが私の事を覚えていてくれればそれで十分だから」
「分かったよ。お母さんの事は絶対に忘れない!どんな事があっても絶対に忘れないよ!」
「大好きだよ。シャーロット…」
お母さんは最後に一言呟いて話さなくなった。
「私もお母さんが大好きだよ!」
私の言葉を聞いて、笑顔を一度見せてくれたお母さんはそのまま息を引き取った。
お母さんが亡くなった後も私は村を守り続けた。
お母さんも元冒険者として村を守っていたし、お母さんが眠る場所で私も眠りたかったから。
人が増えていくと、私を怖がる人も中にはいたんだけどね。
周りの人に怒られていたよ。
長い年月が経ち…。
いつしか土地神様として人々から崇められるようになったんだ。
人間に育てられた吸血鬼の物語です。




