表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/3

あったかいをおくります(子ども向け童話)



あったかいをおくります (子ども向け童話)




ミーちゃんちのリビングは、いつもとてもにぎやかです。パパもママもミーちゃんも、おしゃべりが大好きだからです。


ある冬の寒い朝のこと。信じられないようなことが起きました。


いつもにぎやなかなはずのリビングが、今朝はとても静かなのです。


しーん。

お寝坊さんのミーちゃんが、ようやく目を覚まして二階の部屋からおりてくると、リビングは、すでにこんなありさまでした。


「おはよお」


三歳のミーちゃんはまだよく開いてはいない目をこすりながら、リビングのイスによいしょと腰かけました。どうやらミーちゃんの足はまだ、床に届かないようですね。


「ミーちゃんおはよ」


ママの優しい声です。けれど、ママの言葉はそこでぷつりととぎれてしまいました。いつもなら、「ミーちゃん顔洗っておいで」とか、「トーストなにつける? バター? それともイチゴジャム? パパはどっちよ?」とか、続くのに。


「ミーちゃんおはよ」


こんどはパパが声をかけてきます。けれど、またぷつりと言葉はやんでしまいます。

いつもなら、「ミーちゃん今日もツバメの巣だな」と笑いながら、ふかふかした頭をナデナデしてくれるのに。


そう、パパは今日、布団からも出てきません。


「ママ、」


ミーちゃんが話しかけたところで、んー? と言って、ママはなにげなくテレビのスイッチを入れました。

ジャンジャカジャンジャカ。


「ちまじろーだ‼︎」


テレビに映ったキャラクターが目に飛び込んできました。

ミーちゃんは嬉しくなり、イスから飛び降りて、キャラクターの動きと音楽に合わせて、おしりをフリフリしています。


パパとママがお話をしないことに気づいてはいましたが、テレビのアニメが面白すぎるようですね。そのまま1分と20秒ほど踊り続けたミーちゃんは、ママにトーストを早く食べるようにとせかされて、ようやくバターとイチゴジャムがぬってあるトーストを食べたのでした。



✳︎✳︎✳︎



「じゃあ、買い物にいってくるね」


積み木で遊んでいたミーちゃんがその声でママを見ると、ママはマフラーを首にぐるぐる巻きながら、リンゴの絵のついたエコバックを持っていました。


「ママあ、カバンこっちじゃないの?」


ミーちゃんがフックにかかっているクマちゃんのエコバックを指さします。これは、パパがママのお誕生日に買ってあげたプレゼントで、いつもならママはこのエコバックを肩にかけ、踊るような足どりで買い物に出かけていくのです。


それがどうしたことでしょう。


「こっちでいいの。ミーちゃんお留守番おねがいね」


ママはクマちゃんのエコバックから顔を背けるようにしてドスドスドス、あらら玄関まで一直線。

なんだか、素っ気ない返事ですね。パパへのいってきますもありません。


「パパあ、ママおでかけよ」


ミーちゃんがリビングの隣の和室、もこりと山のようになっている布団へと呼びかけました。


「んー」


布団にもぐってそっぽを向いているパパは、持っているタブレットから目も離しません。

ミーちゃんは少し悲しくなりましたが、ママがすんなりとクツを履いてしまったので、慌ててママへと手を振りました。


「ママ、きをつけてね」


いつもパパが仕事に行く時に、ママがかける言葉です。


「はーい」


ママが玄関のドアをガチャと開けます。


すると突然。

外からびゅおおっと強い風が入ってきました。


「うわっぷ」


ママがのけぞります。

しかもそれはとても冷たい風でした。ファンヒーターで暖かかったはずのリビングが、冷凍庫に顔を突っ込んだ時のように、あっという間に寒い部屋へと様変わり。


「さむっ、さむーい。じゃあミーちゃんいってくるねっ」


ママはそう叫びながらすかさず外へ出ると、バタンと大きな音を立ててドアを閉めました。


ミーちゃんは外の様子が気になりました。


リビングの大きな掃き出し窓まで小走りすると、カーテンを両手で思い切り開けて、外を見ます。すると、ママの運転する車がブロロロロと車庫から出ていくところでした。


びゅおおお、びゅおおお。


風がすごい速さで走っていくのが、右に左にと大きくしなっている木の枝でわかります。


びゅおおお、びゅおおお。


風の音は、一向に鳴り止みません。


「おそと、さむいよ」


パパの、もこりとした布団に話しかけてみましたが、返事がありません。眠っているのでしょうか? いや、さっきまでタブレットを見ていたはずですね。


ミーちゃんは、いつまで待ってもパパの返事がないので、とととっと走っていき、そしてパパのくるまっている布団に飛びかかりました。


すると、パパはやはりタブレットを見ていました。ミーちゃんが飛びついた時、タブレットを落としてしまったのですから、間違いありません。


「おわっ」

「パパっ‼︎ おそと、さむいよっっ」

「いててミーちゃん、重いってえー」

「パパー、ママさむいさむいよ」

「わかってるって。なにもこんな時に買い物なんか行かなくてもいいのになあ」

「ママはごはんをつくるんです」

「あーー……だなあ。わかってる……って? ミーちゃん? なにしてんの?」


突然、ミーちゃんがパパの上から降りて(転がり落ちて?)、自分の履いているくつ下を脱ぎ始めました。


「ミーちゃん? 足が冷たくなっちゃうよ? ちゃんと履いてないとダメよ」


けれど、ミーちゃんはききません。


くつ下をスポンっと勢いよく脱ぐと、ミーちゃんは二つのくつ下を両手にそれぞれ握って、リビングへと走っていきます。


そして、こたつ布団にダイビング。小さな手で布団をがばっと持ち上げて、こたつの中にもぐり込んでしまいました。


『あたかいー』


中から、くぐもった声が聞こえてきます。


『あたかいよー』


そんなミーちゃんを見て、パパが布団の中から這い出してきます。四つん這いになったままでこたつの中をのぞき込みました。


「ねえミーちゃん、なにしてるの?」


ほわっと温かみが、のぞきこんだパパのお顔を包みます。ほんのり赤色に色づいた顔で、ミーちゃんはくつ下を広げています。


「ママかえってきたら、これであっためてあげるの」


パパが、ふーんと言いました。


「これねえ、このあったかいくつ下ねえ、ママへのあったかいプレゼントよ」

「そーなんだ」

「ママ、さむいさむいだもんね」

「なあミーちゃん、さっきさあ、トースト食べてる時さあ、ママなんか言ってた?」

「うん」

「え⁉︎ なんて? なんて言ってた?」

「イチゴのジャムがもうすぐなくなっちゃうわって、いってたー」

「……ミーちゃん、ママのモノマネ上手だね」

「ママのことだいすきだもん」

「パパは? パパのことは好き?」

「すきよー、でも……パパはママのことがすきー」

「……ミーちゃん、もう暑くなってきたからこたつから出なさいよ」

「はあい」


パパとミーちゃんは、こたつからはい出てきました。そして、パパはよっこいしょと言いながら立ち上がると、のろのろとリビングを出ていきました。洗面所の方で、ガタンバタンとなにやら音がします。


そして、少しすると。


『ピッピッ……オユハリシマス』


お風呂を入れる時のアナウンスが、リビングに響きました。どうやらパパは、ママのためにお風呂を入れたようです。


ミーちゃんはそのアナウンスを聞いて、洗面所へと走っていきました。


「パパはママにあったかいのプレゼントね」

「ママが帰ってきたら、お風呂沸いてるよって、ミーちゃんが教えてあげてな」


パパはそそくさとまた布団の中へと潜り込んでしまったので、ミーちゃんもリビングに戻って、テレビの続きを観ることにしました。


「ちまじろう‼︎」


テレビを観ているミーちゃんの横顔。どうやらこれで満足したようです。


ミーちゃんとパパの「あったかい」のおくりもので、静かなリビングも、もうすぐにぎやかになるはずですね。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ