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未来こうあればいいな 京アニ

作者: 白上好


 目の前で、二人の人物が活き活きと掛け合いをしている。

 小洒落た台詞。それに合わせて動く彼ら。

 一つ一つの仕草につい目を奪われる。

 ころころと変わる表情に、「充てられた」声の方がついてくるようだ。


 場面が切り替わる。大きな橋が、そこにはあった。


 その橋を私は知っていた。

 通勤途中、川沿いを走る時、左手にいつも見ている橋だった。

 日曜日、家族サービスで外食をする度に、幼い娘が車の中から、「はーしー!」とその小さな人差し指を向け、10年来の友達のように呼ぶ橋だった。

 

 その見知った橋の上に、彼らはいた。

「画面」の中の橋の上、向かい合う男女。

 どちらの表情も。

 降りかかる光も。

 着ている制服も。

 それを揺らす風でさえ。

 背景の一部でしかないはずの橋の「手摺」でさえ。

 全てが鮮やかでリアルで、最高だった。

 

 ――彼らは戻ってきたのだ。


 あの事件が起こってから、随分と長い時が経っていた。

 そんな誤魔化しきれないほどの時を経て、彼らは戻って来た。

 全ては戻らなかっただろう。

 その悲しみが如何ほどのものか、私なんかに押し測れるはずもない。

 ただそれでも、彼らは戻って来た。

 新たな作品を私達の心に届けるために。

 

 画面の中で「アニメーション」は笑っていた。

 どうだ、すごいだろうと得意げに笑っていた。 

 受け継がれたものを誇るように笑っていた。

 一抹の寂しさと、今なお乗り越えられていない悲しみ、垣間見える怒りを抱え込みつつも、それでも笑っていた。

 


 ✢


 

 私は妄想をやめた。

 私の目の前には見知った橋も、得意げなアニメーションもない。

 真っ白な壁を遮るように、沈黙を続ける黒いテレビ画面が、目を瞑った時と同じくそこにあるだけだった。

 

 現実は厳しい。


 何がどうなれば、せめて残された者の未来が明るくなるのか。

 そんなことは私にはわからない。

 他人が代わりに考えるべきものでは、到底ないのかも知れない。

 ただもう一度、「ギー太」を鳴らす少女のあの躍動感溢れる姿を、新たな物語に見出したいと無責任に考えるばかりだ。

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