口内火傷と開閉式胸部装甲
胸部装甲は作者が人の体に欲しいと思ってるものです。装甲というか胸が開いてスペースがあったらいいな、くらい。装甲で心臓は守られるし一石二鳥。
ただ、収納スペースが内蔵を圧迫しそうなので、無理っぽいですね。いや、肋骨がある時点で成立しないか。
俺の名前は佐藤巧。
ん? 前にどこかで見たことがあるかもしれないって? いやいや、何もおかしいことじゃないだろう。お互い同じ地球にいる人間なんだから、偶然二回も遭遇することがあるかもしれないからな。もしそれが勘違いだったなら、「はじめまして」だけどな。
まあそれはいいとして、俺はクラスメイトの平野恵里の作ったチーズケーキを食べている。なぜかって? 頼まれたからだ。平野はなんか小動物みたいで、悩んでたりするとほっとけなくて、ついつい声をかけてしまう。そんなことを続けてるうちに、頼られるようになった。それでもって、たまに手作り菓子の試食を頼まれる。毎回美味しいものを作ってくるだけに、これを貰うやつは幸せ者だろう。ただ、今回は口内を火傷して、上の粘膜が剥がれてるから正直痛い。美味しいんだが、痛い。わかるだろう、誰もが一度は味わったことがあるだろう、この地味な痛み。そんな痛みを感じていると。
「佐藤くん、どうしたの? 」
「え、なんで」
「いや、いつもより少し笑顔が弱いなって」
「いや、口内を火傷しちゃってさ、ちょっと痛いだけ。これは美味しいから」
「あ……、ごめんなさい、気づけなくて」
「いやいや、こればっかりは仕方ないって。普段は見えないしね」
普段は違うが、たまにこういう鋭さを見せる。ちょっとした違いに気づけるのは、彼女の利点だろう。
高校生にしては静かで、若者の「カワイイ」とはかけ離れているが、それはそれで落ち着きがあって、別の良さがある。
好かれてるやつは是非とも彼女を大事にしてやってほしいものだ。こんなにも健気で可愛いのだから。
私の名前は平野恵里
え? どこかで会わなかったか? 私には覚えはないけど、もしかしたら貴方は私を見かけてたのかもね。同じ世界にいるんだから、絶対会ってない、とは言いきれないの。それに人違いの可能性も無くはないからね。
それはそれとして、私はクラスメイトの佐藤巧くんに、手作りのチーズケーキを食べてもらってる。もちろん私が頼んだ。私が困ってると、たまに助けてくれる。すっごく優しいの。だから、その優しさを利用して恩返し。建前は試食を頼んでるだけ、けど実際は、それを口実に、私のお菓子を食べてもらいたいだけなの。お菓子は佐藤くんにしか作らない。佐藤くんを見てるだけで高鳴るこの気持ちを、伝える勇気はまだないけど、この時間を共有できるだけでも十分幸せ。今の私はきっと、世界一の幸せ者。けど、今日は少し笑顔に陰りが見える。何かあったのかな。
「佐藤くん、どうしたの? 」
「え、なんで」
「いや、いつもより少し笑顔が弱いなって」
「いや、口内を火傷しちゃってさ、ちょっと痛いだけ。これは美味しいから」
「あ……、ごめんなさい。気づけなくて……」
「いやいや、こればっかりは仕方ないって。普段は見えないしね」
私ならご飯以外には食べるのを断るところを、頼みなのにしっかり聞いてくれてるの。優しい……。
もし、私の体が機械だったら、胸部装甲を開いて薬を出してあげるのに……。この気持ちで、薬を作ってあげられるのに。人間の体って、収納面とかそういうところ不便。
私と会う度に、笑顔を見せてくれる彼。 私は好きだけど、彼はどう思っているのかな。この幸せを分かり合えていたら、同じ気持ちだったらいいな。