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Realita reboot 第一幕  作者: 北江あきひろ
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11月10日-8



 だんっ!と真都が大きく地面を蹴って、和夫にぐんぐんと迫る。後を追う

ように真都の少し後方についた絵依子も、真っ直ぐヤツに向かって走る。



色即是空(しきそくぜくう)空即是色(くうそくぜしき)! 受想行識(じゅそうぎょうしき)亦復如是(やくぶにょぜ)! 『破』ぁぁッッ!!」



 ズガアァアッッッ・・・・・・ッバアッッッンンンン!!



 ものすごいスピードでフルスイングされた錫杖が、轟音を立てながらヤツの

わき腹を直撃する。しかも当たった瞬間、またしても凄まじい爆音が轟いた!!



 そのすぐ後ろを走っていた絵依子が、真都と和夫を飛び越えるように高く

ジャンプし、くるりと空中で姿勢を入れ替えながら、両手を高くかざす。


 …あれは……ダークスターボンバーか!?



「真都!! 絵依子の飛び道具が上から来るぞ!!」


 絵依子の両手から、ばちばちと火花を散らしながら真っ黒な球が生まれ、膨れ

上がっていく。


 でも、球の大きさが前に見た時よりも格段に大きい……!!

 以前の1.5倍……いや、2倍以上はある……!!




 ズァアアァッッ!!


「……ッッ!」

 ダークスターボンバーがヤツに向かって放たれた瞬間、巻き添えを避けて

真都が後ろに転がる。そしてその巨大な黒い塊は和夫の頭上にぐんぐんと迫り、

ヤツを押しつぶしにかかった!



「な……にぃぃっっ!!??」


 …今のダークスターボンバーは、前に見た時よりもはるかに大きい。たぶん

威力も上がってるはずだ。

 なのにそれを和夫は…右手一本で受け止めやがった…!




「あお…え…ヒヒ……こレ……なンダ…ぁぁ…?おレと…アソびたい……ノか…?!」


 真都がさっき攻撃した、右のわき腹の辺りからぶすぶすと煙を上げながら、

和夫が訳の分からないことを口走っている。あの攻撃も、それほど効いちゃいない

らしい…!



 ……でも!!


「今だ! 真都! アイツは今手が塞がってる!! もう一度だ! さっきの

ところを!!」


「…おっしゃぁぁ!!」


 僕の意図を読んでくれた真都が、威勢のいいセリフと共に再び和夫に猛然と襲い

掛かり、今だくすぶり続けているわき腹を、さらに執拗に攻め立てる!


「お…オぐッ…! あ…い…テぇェ…! あギ…ッ!」


 …和夫が受け止め続けているとはいえ、直径が4~5メートルはあるダークスター

ボンバーがすぐ上にある、というのは、普通に考えたら危険だ。でも逆に言えば

チャンスでもある。

 ぶんぶんと虫を払うかのように、和夫は空いている左手だけであしらおうとして

いるけれど、常に右側に位置を取る真都には腕が届かない。


 そしてダークスターボンバーを撃ち、地上に降りてきた絵依子も剣を錬装して、

和夫を直接攻撃し始めた。二人がかりの攻めに、ほんの少しだけ、和夫が苦悶の

表情を浮かべたように見えた。



「い…いけるかもしれない……!!」



 真都と絵依子のコンビプレーもさることながら、新しい結界の形は予想以上に

効果的らしい。範囲を小さく絞る事で、和夫の力を相当抑え込めているのだろう。


 でも、結界の位置や大きさを和夫の動きに合わせて、その都度変えなければ

いけないのは、お坊さんたちにとってもかなりの負担に違いない。しかもいつ

和夫がそこからはみ出るかは、僕たちには分からない。


 つまり、ヤツが結界の中にいるのかどうか分からない以上、攻撃を食らわない

ようにするどころか、どこにも触れられてもいけない、と言うことなのだから……。



「はああぁぁぁっっ!! 『滅』ッッ!!」


「アおおッ…! ぐギ……ゴ……オぉ……ッっ!!」


 とはいえ、ダークスターボンバーを受け止めている限りは、和夫はほとんど突っ

立ったままで何も出来ない。何度も何度も錫杖が叩き込まれても、唸るだけしか

出来ていない。ただ打ちのめされ続けているだけだ。これならそう心配することも

ないだろう…。


 しかしその時。



「ぐガ……あァァッ……ッッ!! う……ウぜぇ…ェェ……ッッ…ッーー!!!」


 ……和夫の獣のような咆哮が轟いた!




 ヤツの声に真都がとっさに飛び退いた。

 それは半ば本能的な行動だったのかもしれない。それほど和夫の声には何か

得体の知れない不安と恐怖を呼び起こさせるものがあった。


「おおオおおオォおーーーーっっッ!!! オオ……おォーーーーッッ!!!」


 和夫の咆哮が続く。そしてスターライトボンバーを受け止めている右手が、

ぶん、と振れた!



「なッ……っっ!!」


 目の前で起きた事態に…僕は言葉を失いかけた。アイツ…たったの右手一本で

ダークスターボンバーを受け止めたあげくに…弾き返しやがった……!!


 ・・・ギュオオオオオオッッ・・・・・・!!



 …跳ね返されたダークスターボンバーが、凄まじいスピードでビルの群れに

飛んでいく。唖然としかけていた僕は、それを見て我に返った。

 ビルの屋上には、さっき僕たちに声をかけてくれたお坊さんたちがいる。もしも

あれが当たれば…その人たちが!



 ズ…カァっッ……!!



 ビルの角を舐めるようにかすめ、ダークスターボンバーが暗い夜の空に消えて

いった。かすめた角の部分を……ごっそりと巻き添えにして……!!




「ろ、呂号隊っ!! 無事かぁッッ!!??」

 真都の悲痛な叫びに、お坊さんの声がノイズ交じりに返ってきた。



『呂号隊…重傷者二名! 軽傷者一名! 継続……不能ッ!!』


「く…!! おのれェェッッ!!!」



 …それを聞いた真都が猛然と和夫に迫る。


 まずい……。今の和夫はもう両手がフリーだ。さっきと同じようにはいかない!

それが分からない真都じゃないはずなのに、仲間がやられたせいで…頭に血が

昇ったのか!?



「お、落ち着け真都っっ!! 絵依子ッッ!! 真都のフォローだ!!」

「う、うん! 判った!!」


 新しく槍を錬装した絵依子が、真都の反対側…、和夫の背中に向かって回り

込む。そしてがら空きの背中に、絵依子が何度も槍を突き立てる。

 が……、槍はわずかに食い込んだだけで、まるで突き刺さりなどはして

いなかった。


「違うっ! 絵依子っ!! 脇だ! 全力で右のわき腹を狙え!!」

「りょーかいっッ!! はぁぁぁぁぁあああッッ!!!」


 とっさに僕は叫び、絵依子がすかさずそれを実行に移す。今までも何度となく

そうしてきたように!


 そして……!!



 気合を込めた一撃が…見事に和夫のわき腹を深々とえぐり取った…!!



「アごォ…おオオお……ッイぎ…あァァぁぁぁああッッーーーーーーーッ!!」


 和夫の……耳をつんざくような絶叫が轟く。だが、ぐらりと身体を揺らし

ながら、ヤツが振り向きざまに裏拳を絵依子に振るった!


「え…絵依子っっ!!」


 それは…ゾッとするしかない一瞬だった。さっきの真都の言葉が一瞬頭を

よぎった。たったの一撃でも食らえば、それだけで…絵依子は…!!



「……ふっ!!」


 大きくのけぞり、胸をそらした絵依子が、かろうじて和夫の攻撃を回避した。

しかし、変化したヨロイ……錬装衣の胸元が、ごっそりと削られ…いや、消滅

させられていた。



 ……おそらくはわずかに当たったんだろう。でも、かすった程度であの威力

なら…まともに食らえば本当に当たったところ全部が消滅しかねない。

 …真都の言っていたことは嘘でも誇張でも無かったというのを、今さらながらに

僕は…痛感した。



 慌てて飛び退いたせいで、わずかに絵依子の身体がぐらつく。それに追い討ちを

かけようと考えたのか、のろり、と和夫の足が上がった。


 だが次の瞬間。


 一連のやり取りの裏で、密かに和夫の後ろに忍び寄っていた真都が、後ろを

向いたままの和夫に一撃を見舞うべく、錫杖を大きく振りかざしていた!


「死にさらせぇェッッ!!! 『潰』ッッッ!!!」




 メギャ…っアァッッンン!!!


 凄まじい衝撃音が辺りに轟いた。余りに凶悪な一撃を受け、ぐにゃり…と和夫の

首が折れ曲がったのが、僕のいる場所からでもはっきりと見えた。



 なのに………!!


「………っっ…??!!」

「ぐギギ……おマえも……オれと…アそブのかア…? ぐゲゲげげゲ……!!」


 肩に耳がくっつくぐらいに折れ曲がった首のまま、和夫が得体の知れない声を

発した。


「そんなバカな…! 人間だったら即死してても…!」

 思わず呟きかけた言葉を僕は途中で飲み込んだ。そうだ、かなえさんが言って

いたように、アイツはもう人間どころか……生き物ですらないんだ…!



 今さらながらに恐怖で足がガクガクと震えてしまう。

 ……僕たちは…何てモノと戦ってるんだ…。




 ぐるんっ!、と今度は真都の方に和夫…、いや、「ロスト」が振り返った。首を

元に戻した勢いで、真都を錫杖ごと地面に叩きつけた。

 そして転がされた真都に向かって、ゆっくりと……ヤツが右腕を突き出した。

 

 ……あれは…まさか!?



「くっ……!」

 転がされた真都もとっさに受身を取り、すぐに身体を起こした。しかしまだ起き

上がれてはいない。

 次の瞬間、ばきばきっ! と、ただでさえ異様なロストの腕が大きく膨れ上がり、

長く巨大な剣が錬装された…!


 …とっさに僕は直感した。あれは、あの技は和夫が以前に絵依子と戦った時に

使った技だ。光ったかと思った瞬間、駐車場のコンクリの壁を粉々に吹き飛ばした

……あの技!!



「ま、まずい! 避けろ真都!! 絵依子っ…!! なんとか…しろッッ!!」


 …叫びながらも、それが無理であることは…分かっていた。

 今の真都の体勢では避けきれないのは明らかだった。

 僕の指示に従って駆け出した絵依子も、今からじゃ恐らく…いや、絶対に間に

合わない…!!


 それでも僕は……叫んだ。叫ぶことしか…今のこの僕には…出来ない!!




 …そしてとうとう…ヤツの腕が光を放った…!




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