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Realita reboot 第一幕  作者: 北江あきひろ
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11月9日-2



 がららっ……



「まったく…今日も朝から散々だよ…くそ……」

「おいっすー。今日は珍しく余裕しゃくしゃくじゃん。なんかヘンな物でも食った

かぁ?」

「……おはよ。谷口くんじゃあるまいし、そんな訳ないって」



 ……そのヘンな物を食べさせたのは、他ならぬ僕だと言うことはこの際置いて

おこう。きっと本人ももう忘れてるに違いないし。


 そりゃそうだとゲラゲラ笑う福沢くんの前を通ろうとした時、ふと彼の机の上に

置かれたあった物に目が留まった。



「…あ、これ今週の週ジャン? もう読んだんだったら見せてよ」

「おぅ。貸すのはいいけどな、今週はちょっとなぁ…」


「…? どう言うこと?」

 とにかく読め、と言わんばかりに本を開くよう促され、よく分からないまま僕は

ジャンヌを手に取った。



 ぺらり。さて、今週の巻頭カラーはと…。


「今週は「ツーピース」が巻頭かぁ。これは後にしてと…。…ん? あ、あれ…?」



 ぱらぱらとページをめくっていくと、何かがおかしい。見たこともないマンガが

立て続けに2本も載っているのだ。


 マンガの扉絵には、特別読み切りと書いてある。ということは、何かの穴埋めと

いうことだろうか。


 とっさに巻末までページをすっ飛ばし、目次を読むと、案の定「作者取材の

ため、お休みさせて頂きます」の文字がいくつか見えた。


「…!! 「BARUTO」も休載!? そんなぁ…」


「……「BARUTO」だけじゃねーんだよ。「悪滅の刃」も「日の丸相撲」も休載だぜ。

こんな事、今までに無かったってのによ」

「ほ…ホントだ。一度に3本もなんて…信じられない…」


「……聞いた話だけどよ、漫画のアシスタントって何本も掛け持ちしたりする

らしいんだ。それで、病気にかかったアシスタントがあちこち掛け持ちして、

あっちこっちの漫画家センセイにも病気が移っちまったせいなんじゃないかと

俺は思うね…!」


「…………ッ!!」


 なぜか得意げに、福沢くんが自説をとうとうと語る。

 でも…僕にはもうひとつ思い当たる節があった。




 それは…「作 和夫」の存在だ。



 …かなえさんは言っていた。あいつは『メディウム』という怪物を使って、

『ヴィレス』というエネルギーを人から吸い取って、自分の力を高めていると。


 実際、あいつ自身が絵依子から、何か『力』のようなものを吸い取っていく

のを、僕はこの目で見ている。


 そして以前、絵依子からも僕は聞いていた。あの怪物……メディウムは絵を描く

人間を狙うことが多いと。

 つまり……ジャンヌの休載は福沢くんが言うような病気が理由なんじゃなくて、

和夫は今度は一般人ではなく、絵のプロである漫画家を狙い始めたかもしれない

ってことなんじゃないのか……?


 …和夫に襲われたせいで、この人たちは連載を落としてしまったのでは…?



 ぞくり、と背中に汗が伝った。



「おいーーっす! お、今週のジャンヌか。後で俺の「ヤンガマ」と交換な。

つーか、今週のヤンガマ、ひでぇんだよ。「パラパラ」も「FMコースト」も

休載してやがんの!」


 いつの間にか教室に現れた石井くんが文句を口にしながら、週刊ヤング

ガマニオン、通称ヤンガマを僕たちに放り投げた。


「……それだけじゃねーぜ。「彼岸花」もだ。つーか、ありえねーよ」



 ふて腐れた様子の竹内くんも、自分の席にカバンを放り投げながら教室に

入ってきた。が、少し狙いのそれたカバンは机の角に当たり、跳ね返って

女子の鈴木さんの机に当たってしまった。


「ちょっとぉー! 何してんのよ竹内!! アタシらに当たったらどうして

くれんだよ!」

「ぎゃあぎゃあうっせーよ! 動物園みてーなのは顔だけにしとけ!!」


「な……何だとこのヤロー! ヤンのかコラ! あたしらナメてたらブッ

殺すぞ!!」

「バーカ! テメエらなんかと誰がヤルか! チ○ポが腐るっての!」


「てんめぇ~~~~!! 上等じゃん!! アタシら「楼膳・雌慰伝(ローゼン・メイデン)

ナメんな!! 後で裏まで顔貸せよ! 逃げんじゃねーぞこのヤロー!!」




 …竹内くんと女子グループの間で、凄まじい舌戦が繰り広げられている。こう

いうのを見ると、やっぱりうちの学校はあまりお上品ではないことを改めて実感

してしまう…。




 しかし、それはともかくとして、ここまで雑誌の休載が多いとなると、正直

言って…ただごととは思えない。

 そして…、ふいに僕は恐ろしい…あってはならない状況を…想像してしまった。



 …和夫が漫画家の人に狙いをつけて襲っているのだとしたら…。


 ……もしかしたら、かなえさんも奴に…?




「……っ!!」

 とっさに僕はケータイを取り出し、以前かなえさんからもらった、くしゃ

くしゃの名刺に書かれてある番号の数字を震えながら押した。




 ぷるるるる・・・ぷるるるる・・・ぷるるるる・・・・・・



「……出ない。ま、まさか……」



 キーンコーン・・・カーンコーン・・・



 くそ…ホームルームが始まってしまった…。

 …とにかく学校が終わるまではさすがに動く訳には行かない。だから終わったら

速攻で動くしかない。それしか…ない!





 …万が一と言うこともある。とりあえず僕は今日の授業は全て睡眠に充てる

ことにした。

 キーンコーン・・・カーンコーン・・・




 チャイムが鳴ると同時に、僕はカバンを引っつかんで教室を飛び出した。

 …まずは絵依子を捕まえなきゃいけない。あいつのいる教室の前で待って

いれば、すぐ見つかるだろう。




 …でも、あいつの教室…って…何組だっけか…?


 綾のクラスは、確か1-1だったはず。絵依子と同じクラスではなかったはずだから、

それ以外のクラスだろうけど、どこだったのかがとっさに思い出せない。


「…っ! しらみ潰しで探すしかないか…!」


 そう思って一階のフロアに駆け下りた瞬間、下駄箱のところで、ちょうど外に

出ようとしていた絵依子を、運良く見つけられた。


「おい! 絵依子! ちょっと待て!!」

「……!! お、お兄ちゃん!? やばっ……!」



 …朝のことをまだ根に持ってると勘違いしたらしい。あわてて絵依子が逃げ

ようとする。今はそれどころじゃないってのに…!


「違う! いいから止まれ! もう怒ってないから!」

「…え? ホントに……?」



 …僕の必死の声が聞こえたのか、ようやく絵依子の足が止まってくれた。




 もちろん怒ってないというのはウソだ。いつか復讐してやろうとは思っている

けれど、それはこの際後回しにするしかない。


「はぁはぁ…。き、緊急事態だ…。今からかなえさんの家に行くから、おまえも

来い…、はぁ…はぁ…」


「え? な、何? かなえセンセに何かあったの?」

「そ…それはまだ分からないけど…もしかしたら和夫が動き出したかもしれない

んだ。それを確かめるためにも…かなえさんの家に行かなくちゃいけないんだ」


「……!! う、うん。判った! じゃあわたし、一回家に帰って着替えてくるよ」

「よし、待ち合わせは駅前のマルジュウにしよう。僕はその間に真都を呼ぶから。

あと、ついでにいつもの僕のバッグも持ってきてくれ」


 判った、と小さくつぶやいて、絵依子がたったっと駆け出していった。僕も急が

なくては…!

 小走りで駅に向かいながら僕は考えていた。真都を呼ぶ、とさっきはとっさに

言ったものの、僕は真都の連絡先なんか知らないのだ。


 …どうすればいいんだろうか。この間のように、偶然街で見つけられるとも

思えないし……。




「……!! そうだ! 真都のお寺は「丞善寺」って言ってた! この近くのはず

だし、交番で聞けば…!」


 我ながらナイスアイデアだ。駅前に着いた僕はさっそく交番に飛び込み、お寺の

電話番号を聞く事に成功し、すぐさまケータイから電話をかけた。




 ぷるるるる・・・ぷるるるる・・・ガチャっ。




『はい、ただいま秋の特別キャンペーンで、戒名の名付けがなんと30%オフ!

の、宗教法人『朧露宗』は丞善寺でございます!』




 …あぁ、あんなのでも一応は宗教法人なんだ……。でもお寺がキャンペーン

って…。


 い、いや、今はそんなことより!



「あ、あの、すみません」

『はい! お葬式のご相談ですか? それでしたら、ただいまお得意様限定の

金利5%プレミアムローンをご用意させて頂いております。ぜひこの機会に…』

「い、いや! そうじゃなくて…」


『ご法要のご相談でしたら、こちらもキャンペーンと致しまして、役僧として

当山の僧侶を二名まで、指名料金無しでお選び頂ける、プレステージパックを

ただいまご用意させて頂いております。ぜひこの機会に…』


「ちち、違います! あ、あのですね!! そちらに「御八尾 真都」という人が

いると思うんですが…」


『…………』



 …畳み掛けるように、あれこれと売り込みをしてきた電話の向こうの声が、

突然止まった。


『…そのような者は当山にはおりません。失礼いたします』



 ガチャっ・・・つーっ・・・つーっ・・・つーっ・・・・・・




 …さっきまでの態度から一転して、感情をまったく感じさせない冷たい声が

聞こえたと思った瞬間、電話が切れた。



 ……どう言うことだ…?



 少しだけ間を置き、僕はリダイヤルのキーを押した。



 ・・・ぷるるるる・・・ぷるるるる・・・ガチャっ。



『はい、ただいま秋の特べ…』

「すみません。さっき電話した者ですが、御八尾さんをお願いします」


『…………』


 ガチャっ。つーっ・・・つーっ・・・つーっ・・・。




 ……今度は何も言わずにガチャ切りか…。でも、向こうの態度には明らかな

不自然さを感じる。

 こうなったら……根競べだ!




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