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Realita reboot 第一幕  作者: 北江あきひろ
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11月8日-6


「…な、なぁ。そう言うたら瞬ヤンとこの家族って、母親とアンタと…絵依子

ちゃんの3人か? 他に兄弟とかはおるんか?」



 残っていたタコ焼きを全部たいらげ、空になった舟を見事なコントロールで

ゴミ箱に放り入れながら、やぶからぼうに真都がそんなことを口にした。


「……いないよ。僕と絵依子と母さんの3人だけだ。絵依子が生まれてすぐに

父さんは死んじゃったからさ」



「あ…そ、そうか…。……すまんかった。また要らん事聞いてもうて…」

「いいよいいよ。僕だってさっき聞いちゃったんだし、お互い様ってことで」


「そうか…そうやな。ほなそういう事にしとこか。くっくっくっ!」


 一瞬あわてたような顔をしてから、すぐにくすくすと笑い出した真都に

釣られて、僕も思わず笑ってしまう。でも、また真剣な表情に戻った真都が

静かに続けた。




「……瞬ヤン。一番初めに会ぅた時にウチが言ぅた事…覚えとるか?」

「…覚えてる。絵依子に気を許すな、だろ」



 あまりにあっさりと僕が答えたのが意外だったらしく、また目を丸くして

真都が驚きの表情を見せた。

 もっとも、覚えてはいるけれど、だからどうということもないし、信じても

いないのだけれど。


「…そうや。この際やからはっきり言うけどな、ウチはまだ絵依子ちゃんの

事を疑ぅてる。あの子には……何かある…」

「…………」


「…せやけど正味の話……、アンタら二人を見とったら、何やそんなんどうでも

エエ事のようにも思えてきてな…」


「…え?……」


「…アンタはあの子をホンマに大事に思ぅとるし、あの子も……アンタの事を

信頼しとるように思える。兄妹に…家族に…、いや、人と人との間にそれ以上…

何がある? 何が要るって言うんやろな?」

「真都………」


「そう思たら……なんかなぁ。くく…こんなん言うんも、朧露の號帥たるウチと

してはマズイんやけどな。これもオフレコで頼むで?」

「うん。了解」


「…オフレコついでに白状するとな、ホンマはウチ…こないだの焼き肉屋な、

結構…楽しかってん。あんな風にワイワイやれて…楽しかったわ…」


「そ、そうなのか? でも…全然そんな風には…」


 …思っても見なかった真都の告白に、今度は僕の目が丸くなる。ずっとかなえ

さんといがみあってたようにしか見えなかったのに。


「…そらウチにも立場っちゅーか、意地もあるからな。あの女みたいにヘラヘラは

出来へんよ。それにな…」

「……それに…?」


「さっきも言うたやろ。ウチらは思っとってもホンマのことはめったに言わへん

のやで?」



 どくん・・・・・・



 つい、と指を唇に当てて、悪戯っぽく真都が笑う。さっきのような眩しいその

笑顔に、一瞬心臓の音が跳ね上がった。

 こんな話をしている最中なのに、まるで猫の目のようにくるくると変わる表情の

真都に僕は思わず見とれてしまった。




「……ん? なんや、また口止め料寄越せってか…? しゃあないな…」

「い、いや、もうアメはいいって。そ、そんなことよりさ……」

「………?」


 僕の視線を誤解したらしい真都が、ごそごそとポーチを探ろうとしたのを止め

させ、とっさに話を変えようと、ふと思いついたことを尋ねた。


「前から思ってたんだけど、真都って…もしかしてけっこう朧露宗の中でエライ

人なのか? 立場がどうとかってさ」


「ん…、ま、まぁ…そうやな。號帥いうんは各地の忌門寮を率いる役職や。

金剛いうんはそん中でもトップの、日本全国でもウチを含めて8人しかおらん

精鋭中の精鋭、いうとこやな」


「…………!」


 にやり、と真都が薄く笑う。全国に何人、ああいうお坊さんがいるのかは

分からないけど、普通に考えたら何百人、何千人の中で8位以内に入るぐらい

強いってことだろう。

 とんでもないエリートじゃないか……。


 なるほど、あの大柄な坊さんたちに命令したり、偉そうな口ぶりで話していた

のも納得できる。

 ……そして…あの手のことも……。


「せやけど…エライかどうかは微妙なとこかもしれん……」


 でも、すぐにふうっ、と小さく息を吐くと、自慢げだった表情は消え、少しだけ

険しい色がその顔に浮かんだ。でも、怒り…ではないように見える。


「…それは…どういう…?」


「あの女…「高崎 かなえ」が言うとったやろ。評議会…ソキエタスは、今まで

何べんも「世界」を書き換えてきたんや。ウチらの知る限りでも、それは一回や

二回や無い」

「うん。覚えてるよ。正直意味がよく分かんないけど」


「……もしかしたら今のこの世界は、ついこないだ作られたばっかりなんかも

しれんし、それとも何万年、何億年も前から、ずっとこんな感じやったんかも

しれん。今もいちおう21世紀って事にはなっとるけど、それが真実かどうかは

ウチらには断言出来へんのや」


「は………?」


「総本山の奥の院には、結界で護られた「本当の歴史」が書かれた書がいくつか

あるらしいんやけどな、ウチら金剛では近寄ることも許されんのや。よっぽど

シャレにならん事が書いてあるんやろうけどな」

「………」


 …いや、今の時点で充分シャレになってないと思う。



「…朧露の精鋭、最強の金剛いうても、そんな程度のもんなんや…」

「で、でも、真都たちは世界を修復できるんだろ? 道路とか駐車場を直した

みたいにさ」


「……いや、小規模なモンや単純な物の破壊ぐらいやったら何とかなるけど、

もっと大きい『世界』ごとの改変になったら、いくらウチらでも…元には戻せん。

巻き込まれんようにするんがせいぜいや」


 悔しげな表情を浮かべた真都がぽつぽつと語る。でも、その語られる内容に

何かが引っ掛かると言うか、ふとした疑問が僕の頭をかすめる。


「…なんか……想像も出来ないな。だって世界が変わってしまったら、普通は

大騒ぎになると思うんだけど。なのに、今まで誰も疑問に思わなかったり、

気づきもしないなんて、そんなことが本当にあるのかな…」


「別に不思議な事でもあらへん。人間の記憶なんかエエ加減なモンやからな。

新しく出来た「事実」や「常識」に従って、自分自身の過去や記憶を、自分

でも気づけへんうちに勝手に改ざん…書き換えるんよ。ソキエタスが手を下す

までも無くな」


「…………」


 …そういえばいつだったかにテレビか何かで、似たような話を見たような

気がする。

 確かそれは痴漢か何かの事件で、犯人だと思われて訴えられていた人が、

無実を証明して逆転無罪となったのだ。


 裁判の結論としては、被害者はその人が犯人だというイメージとストーリーを、

自分の脳内で作りあげていただけで、痴漢したという事実はなかったのだと。


 でも、その被害者の人は訴えられた人を陥れようとか、悪意を持っていたの

ではなく、本気で、ただそう信じていただけなのだ。

 結局この被害者の人は、自分で作り出したイメージや記憶を偽物だと信じ

られず、無罪となった人を今も憎んでいるという。


 いつもの僕の夢は例外として、たいていの夢が夢の中ではそれを夢だと気づけ

ないように、何が偽物で、どれが本物の記憶であるなんて、もしかしたら自分

自身では判別なんて出来ないのかもしれない。

 考えてみれば怖い話ではあるけれど……。



「そっか……なるほど………」

「まったく……、忘れたい事はいつまでも覚えてたりすんのにな。難儀なもん

やで、人間っちゅーんも」


 また、どこか自嘲めいた笑いを真都が浮かべた。

 その瞬間、突然僕は理解した。この真都の自嘲の訳を。


 ……真都は自分の力に絶対の自信と誇りを持っている。でもその力は何も

生み出さず、ただ「敵」を…会士や怪物を打ち倒すだけの「力」だ。


 「世界」を自在に改変できる会士と渡り合えるだけの力を持ちながらも、何も

変えられない自分自身を…滑稽に思っている。

 そんなものになってしまった自分を、哂っているように…僕は感じてしまった。


 真都は確かに会士を、ソキエタスを憎んでいるように感じる。でも、それ

以上に……自分自身をも憎んでいる。

 なぜか…そんな気がしてならない……。




「…まぁ、とにかくソキエタスいう連中は、そういう力を持っとる奴らなんや。

そんな連中を…あの女やアンタの妹を野放しにしとくわけにはいかん事ぐらいは、

アンタもぼちぼち判ったやろ」

「真都のいうことも分からなくはないよ……。でも……」



「デモもストもあらへん! ウチが朧露であるように、あの子らも会士なんや!

結局は…「敵」なんや! ウチは朧露宗の…『八輝金剛、號帥の御八尾 真都』

やねん…!」


「…真都。真都がソキエタスを憎んでいるのは…そうしろって言われたからか? 

それとも自分の意思で…憎んでるのか?」


 僕の言葉に、真都は一瞬だけ押し黙ったものの、すぐにきっぱりと口を開いた。


「朧露宗には…孤児のウチを拾ってくれた恩がある。朧露は今のウチの親みたいな

もんや。その親が敵や言うんなら、そいつはウチにとっても…敵や。それに…」

「………」


「……朧露の教えはな、「世界は世界のまま、人は人のまま、あるがままに受け

入れよ」とある。この世界はな、人間が好き勝手にいじってエエもんやない。

ましてや人の身でありながら、あんな鬼神のごとき力を勝手気ままに振るうなんて

事は、あってはならんのや! だってそんなん…そんなん不公平やないか…!!」


 真都の吐き捨てるような声が、いつの間にかすっかり人がいなくなり、静まり

返った公園に響いた。でも、荒々しい口調とは裏腹に、声には悲しみと…やはり

自嘲の色があった。


「…それが真都がソキエタスを、絵依子やかなえさんを…憎む理由か? 真都は

もしかしたら……ソキエタスに……」


「………っっ!!!」


 僕の言葉を遮るようにして、急に真都がベンチから立ち上がった。そして背中を

向け、ぽつりと呟いた。


「まさか…こんなとこで内観の続きをやるとは思ってもみんかったわ…。ウチは

もう帰るわ」

「………真都……」


「…瞬ヤンもそろそろ帰り。絵依子ちゃんが…家でクビ長ぁして待ってるで。

はよ帰ったり」


「…いや、僕はこれからバイトに…っていうか、タコ焼きは……?」

「…貸しにしとくわ。また今度、きっちりおごってもらうで」


 夕陽を背に小さく振り向いた真都の横顔は、まるで触れればそれだけで壊れて

しまうガラス細工のように、ひどく脆く、そして悲しく美しく見えた。


 ゆっくりと暮れなずむ公園に溶けるように、真都の姿が遠ざかっていく。僕は

それに掛ける言葉もなく、ただ立ち尽くすことしかできなかった。


 僕は絵依子やかなえさんと違って、会士でも何でもない、ただの、ごく普通の

人間だ。

 でも、だからこそ出来ることもあるんじゃないのか…?




 それが何であるのかはまだ見えない。でも、いつかそれを見つけたいと僕は

思った。



 「御八尾 真都」という…一人の女の子のために。


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