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Realita reboot 第一幕  作者: 北江あきひろ
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11月8日-3




「……まぁ食べ。ほれ」

「いや…だから僕はいいよ…」

「そんなん言うてたら、無理やり食べさすで? って、それ狙いか? 策士

やなぁ瞬ヤン。くっくっくっ!」


「…………」

 …そこまで言われては仕方ない。僕は差し出されたタコ焼きにぷすりと

爪楊枝を刺し、ぽいっと口に放り込んで噛み締めた瞬間。



「あ、あ、あふぅっッッ!!!」

「…アホやなぁ。そら熱いに決まっとるやろ…。ホンマに後先考えへん

やっちゃな」

 絵依子と違って、僕は別に猫舌というわけじゃない。でもこの熱さはちょっと

限界を超えていた。

 想像以上の熱さに悶絶していると、呆れたような真都の声が聞こえてきた。



「……とりあえずこれ飲んで流し」

「あぐぐぐぐ………、あ、ありがろ……」

 どこからともなく取り出したペットボトルのお茶を渡され、あわててそいつを

口いっぱいに注ぐ。キンキンに冷えたお茶が、火傷しそうになっていた口の中を

急速に冷やしていってくれた。



「どや? ちょっとはマシになったか?」

「…うん。……助かった…」

「…あんな? タコ焼きっちゅーのは食べ方があるんや。エエか? 見ときや」


 ようやく落ち着いた頃、真都がそう言いながらタコ焼きに爪楊枝を2本刺し、

割るようにして少しだけ穴を開けた。


「…こうやって中を冷ますんや。ほんでから一気に…口に入れる!」


 割った穴にふぅふぅと息を吹きかけていると、ここまで熱気が伝わるような

勢いで湯気が立ち上る。

 何度か息を吹きかけてから、真都がおもむろに丸ごと口に入れた。しかし

こんなことぐらいで、あの熱さがマシになるとはちょっと思えないのだけど。


「はふはふ…、ほんであとは…口ん中に空気を入れて、ベロの先っちょに直接

当てんようにするんや。やってみ?」

「…………」


 そうは言われても、さっき火傷しそうになったほどの熱さのタコ焼きをもう

一度口に入れるというのは、正直遠慮したいところだ。だいたい、もう少し

待てばほどほどに冷めるのだから、わざわざ冒険することもないだろう。



 …とは思いながらも、実に美味しそうな表情で食べている真都を見ていると、

うらやましいような、悔しいような気持ちが沸き上がってくる。

 さっきは熱さにやられて、味も何も分からないままお茶で胃に流し込んで

しまったけれど、真都の言うとおりにすれば、真価が分かるということなん

だろうか。


「むうぅ……」


 …ここは覚悟を決めて、もう一度チャレンジしてみるとしよう。

 僕は真都の言ったとおりに、まず穴を開けてふぅふぅし、舌の先に当たらない

ように、そしていっぱいの空気ごと口に入れてみた。


「………!!」

「…どや? 美味しいやろ?」


「…ホントにおいしい! 外はカリっと、中はとろとろで…このタコの弾力が

また…!」




 驚いたことに、真都から伝授された食べ方だと、確かにさっきのような熱さは

感じられず、ただただタコ焼きの美味しさだけが、噛むたびにじゅわっと口の中に

広がっていく。


 ……これはまるで……小麦粉とタコとソースと青のりのカルテット…いや、

オーケストラやでぇ!!!!




「ふぅぅぅ………」


 ちょうど小腹の空いてくるおやつ時だったせいか、勢いで僕はそのまま2つも

勝手に追加で頂いた。でも真都は怒りもせず、立て続けにタコ焼きを食べる僕を

ニコニコ笑いながら見ていた。

 さすがお坊さんだけのことはある。意外に人間ができている。やっぱり真都は

いい人だ。


「……ごちそうさまでした。美味しかったよ、ありがとう真都」

「…エエ食べっぷりや。やっぱ男の子はそれぐらいやないとな」


 なぜか嬉しそうに目を細めながら、真都が僕の食べっぷりを褒めてくれた。一息

ついていると、ふと僕はここに連れてこられた目的を思い出した。

 バイトの時間にはまだ余裕はあるけれど、あまりのんびりもしていられないのも

確かだ。



「…そういえばさ 前の話の続きだっけ。えーっと…何だっけ? オンボロ…」

「お・ぼ・ろ・し・ゅ・う・! わざとか! わざとやろ!!!」


 いい頃合いだと思って切り出した僕の言葉をさえぎって、さっきまでニコニコ

笑っていた真都が急にマジギレ寸前の形相で迫る。



「あ…あはは。そ、それそれ。で…仲が悪いんだよね? ソキエタスと。でも…

なんでまたどうして?」


 すると今度は一転して、ふうっ、とため息をつきながら、呆れたような表情で

真都が僕を睨む。まったくコロコロと忙しいやつだ。



「アンタ…それ本気で言ぅてるんか? あの女が言ぅとったん、聞いてへん

かったんか? 評議会…ソキエタスの連中はな、この「世界」を我が物のように

弄んどるんやで!? それが悪やのぅて何やねん!」


「…でも、僕にはかなえさんが悪い人には思えないよ。確かにあの男…

「作 和夫」は悪人なんだろうけど、あんなのばっかりでもないんだろ? 

ソキエタスって」


「………!」


 僕の答えが不満だったのか、あるいは図星だったのか、ぶすっとした表情を

浮かべながら、真都がぶすぶすとタコ焼きを串刺しの刑にしていく。


「…会士のひとりひとりが悪人とか善人とかは関係あらへん。さっき言うたように

ソキエタスは「悪」そのものなんや。その悪と戦っとるウチらは正義やねんから、

仲が悪ぅて当然やろ」



 吐き捨てるような口調でそれだけを言い放つと、穴だらけにされたタコ焼きが

真都の口の中に放り込まれた。串刺しの次はプレスの刑とは、正直タコ焼きに

同情の念を禁じえない。




「……前にも言ぅたけどな、ウチら朧露の役目は「守護と修復」、…要するに、

ソキエタスの連中から世界そのものを守る事にあるんや」


 ごくんとタコ焼きを飲み込んでから、大きく息を吐いた真都が静かに言った。


 確かにそれは以前にも聞いた。絵依子がえぐった道路や、あの駐車場の修復は、

真都たちオンボロ、いや『朧露宗』の行ったことなんだろう。もし真都たちが

いなければ、きっと大変な騒ぎになっていたに違いない。

 真都のいう「世界の守護」とは、そういう意味もあるのかもしれない。


 と、急にまたごそごそとポーチを探り出したかと思うと、真都がそこから

今度は一枚の紙片を取り出した。



「…あいつらが「カード」を使う代わり、ウチらは『符札』を使うんや。こんな

感じのな」



 小さく丸められた紙を丁寧に伸ばしていくと、真ん中に「強」という漢字が

書かれてあるのが見えた。


 急に辺りをきょろきょろと見回した後、立ち上がった真都が草むらから細い枯れ

枝を拾ってきた。そして、その木の棒をおもむろに僕に突き出してきた。


「瞬ヤン。これ、折れるか?」

「……? いくら僕でもこれぐらいは出来るぞ。バカにしてるなぁ…」


「エエからやってみ。折れたらタコ焼きおごったるよ」

「じゃあ……折れなかったら…?」

「そら瞬ヤンのおごりで、タコ焼きもう一丁や。当然やろ」



 …いったい全体、真都がなんでこんな負けると決まってる勝負を言い出した

のか、見当もつかない。でも、落ちてるタコ焼きは拾う主義なのだ。僕は。



「……オッケー。その勝負、乗った! でも悪いけどタコ焼きはいただくよ!!」



 真都が突き出した棒を握り締め、そのまま一気に力を込める。いくら僕が貧弱な

文化系でも、こんな枯れ枝を折るぐらいは朝飯前だ。 


 ふっふっふっ…後悔させてやるぞ! 真都!




「ふんぐ…ぐぐっ……っくっ…ぐ……っ!?」


「おやぁぁ~~~? 気合だけはいっちょ前やけど、いっこも曲がっとらんで?」


「ぐぐぐ…くくっ! そ…そんなバカな……!!」


 そう、こんなバカな話は有り得ない。さっきから僕は両手で思いっきり力を

込めているのだ。なのに枯れ枝は…まるで……びくともしていない!


「うおおおおおおお!! ぬぐっ……くっ…くくッ…」




 …掛け声だけがむなしく公園に響く。どう見てもただの枯れ枝ごときが…なんで

折れないんだ?!





落ちてるタコ焼きを拾って食べてはいけません。

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