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Realita reboot 第一幕  作者: 北江あきひろ
51/95

11月1日-4

「……ここか。なんか結構人が入ってるなぁ」



 窓から覗いた教室の中はそこそこ賑わっているように見えた。それでもいくつかの席は空いてるようで、これなら何とか座れそうだ。



 ガラっ・・・・・・



「な、なによ! また来たの!?」

「……へ?」


 …入るなり罵声を浴びせられ、僕は一瞬呆然としてしまった。しかも目の前にいるのは他でもない、綾だ。

 …もしかして朝のことをまだ根に持ってたんだろうか。



「しゅ、瞬くん…!? あ、あの、その…これは……」


 でも、よくよく見ると、目の前の綾は思いっきりわたわたしている。

 自分で言っておいてその態度はいったい…?



「あ…、とりあえず…空いてる席でいいかな?」

「…………」


 無言のまま、小さく頷いた綾が奥の席を指差した。狐につままれたような気分で席に着くと、僕たちの後をトコトコとついてきた綾が、またしてもとんでもないことを口走った。



「い、言っとくけど、メニューなんか無いんだからね! コーヒーとジュース、ど、どっちにするの!? は、早く決めなさいよ!」


 ……もう訳が分からない。普段の綾からはまるで想像もつかない口調だけど、それが逆に違和感でもある。よくよく綾の様子を見てみると、当の本人からは…思いっきり「言わされてる」感が漂っていることに…僕は気がついた。


 その時、ふと僕は…綾の後ろの黒板に、でかでかと「ツンデレ喫茶ビター&スゥイート」などと書かれてあるのが見えた。 



 ……つ、ツンデレ喫茶……!?



「の、飲んだらさっさと帰ってよね! いつまでも居られちゃ…め、迷惑なの!」


 とどまる所を知らない綾の暴言を聞きながら、思わず回りを見渡すと、他のテーブルでも同じような光景が広がっている。そこかしこで店の女の子が、お客さんに罵声を浴びせているが、なぜかみんな妙に嬉しそうだ。

 ますます訳が分からない…。


 運んできてくれたジュースを机に乱暴に置くと、泣きそうになっていた綾がとうとう奥に引っ込んでしまった。


 絵依子と一瞬顔を見合わせてから、追うようにして僕らもあわてて奥に向かった。




「あ…瞬くん、エコちゃん……。そ、その…さっきは酷いこと言って…ごめんね…」

「うん…それはいいけど…。あーや、ここって何なの? ツンデレ喫茶って?」

「う…うん…。あの…どう言ったらいいのかな……」


 僕の聞きたかったことを絵依子がズバリ直球で綾にたずねた。またごにょごにょと口ごもりながらも、綾の口が開きかけた時…。


「…それは俺が説明しよう!!」


「……!! た、谷口くん! 生きていたのか!!!」

 先日のカレーパン事件をきっかけに、まったく学校で姿を見なくなっていた谷口くんが…そこにいた。




「…勝手に人を殺すんじゃねーよ。ったく渡城よぉ、てめーのせいで俺は地獄を見てきたぜ…」

「あ…あはははは…。いや、さすがに僕もそんなことになるとは思ってなかったというか…」

「…まぁいい。その話はまた後だ。とりあえず俺がこのツンデレ喫茶について説明してやろう。何故なら、俺がこの店の店長だからな!」


「「な、なんだってーー!!」」



 思わず僕と絵依子の声がハモる。彼が…谷口くんが店長!? それも他所の…、学年すら違うクラスの…模擬店の!?



「ふっ…。驚くのも無理は無ぇ。俺が今まで姿をくらませてたのは、このための工作だったという訳よ……。多くは語れないがな…」

 …ニヤリと笑いながら、谷口くんが呆然としている僕たちの方に向き直り、勝手に先を続けた。


「そう、そしてこれからはツンデレ喫茶! メイド喫茶なんてのはもう古いんだよ! 普段は「ツンツン」してる女の子が、時折見せる「デレデレ」のギャップ! そこに人は、男は萌えるのだ! そしてそれを巧みに取り入れたのが、このツンデレ喫茶という訳よ!!」



「………はぁ…」


 何を言いだすかと思ったら…。

 というか、世俗にうといと言われてる僕だって、別に「ツンデレ」とかなんとかが流行ってるなんて聞いたこともない。なんならそれこそ古いぐらいなんじゃないのか。

 谷口くん……あのカレーパンで脳までヤラレちゃったのかな…。



「ふん。俺の言うことが信じられーみたいだな。だが客たちを見ろ! あれこそが……何よりの証明よ!!」

「た…確かにお客さんは入ってる…!」


「ククク…。もちろん単にツンデレしてりゃあ良いってもんじゃねー。昨今のコンカフェが失敗してるのは、本物じゃなかったからだ。「本当に可愛い女の子」がツンデレしてなきゃな。だからこそ俺はこのクラスを選んだのさ! しかも今日の加賀谷はメガネっ娘モード! これで客が来ない方がおかしいぜ! クァーッハッハッハッ!!」


 ははぁ…、……それでずいぶんと綾のことを気にしてたのか…。

 あまりピンとは来ないけれど、確かに綾はこの学校の中ではそこそこ可愛い部類に入るという話だ。

 その綾にツンデレさせるというアイデアと、今のこの結果を見る限り、谷口くんの作戦は大成功と言うワケか。今日の文化祭には絶対に来い、と言われていたのも、つまりこのためだったんだろう。



 なるほどなるほど……そういうことだったのか…。




「あ…あの……」

 そんな僕たちのやり取りの中に、突然おずおずと綾が割って入ってきた。


「あん? どしたの~? 綾タン?」

「その…先輩…、申し訳ないんですけど…もう…もうイヤです! こんなの無理です!!」



「「な、なんだってーー!!」」

 今度は僕と谷口くんの声がハモる。なんかイヤだ。



「……な…何と言われても嫌です! 知り合いの人や見ず知らずの人に、あんなひどいこと言うなんて……。 こんなのもう耐えられません!!」


 …珍しく綾がものすごい勢いで自己主張している。まぁ綾の性格を考えると、朝からあんな調子で無理やりツンデレさせられてたんじゃ無理もないだろう。そのせいで相当ストレスが溜まっているらしい…。


「だ……ダメだ! いま綾タンに抜けられたら、せっかくネットで広がりつつある評判がガタ落ちになっちまう!」


 言うが早いか、谷口くんは持っていたスマホの画面を僕たちに突きつけた。なになに…。




「可愛い娘の多いメイド喫茶を探せ!! スレ131店目」


814 名無しのご主人様 ID:1qhPaNuE0

>>813

メイドカフェじゃないけど、うちの近くでやってる文化祭の模擬店のツンデレ

喫茶が可愛い娘多いよ!


815 名無しのご主人様 ID:1qhPaNuE0

>>814

>メイドカフェじゃないけど、うちの近くでやってる文化祭の模擬店のツンデレ

喫茶が可愛い娘多いよ!


場所どこですか!? 行きたいです! 教えて!


816 名無しのご主人様 ID:1qhPaNuE0

>>815

場所は詳しく書くと迷惑かかるから。○田の周辺でやってる文化祭をググって

みればすぐわかるよ。


817 名無しのご主人様 ID:1qhPaNuE0

>>816

行ってきました! すごく可愛い子ばっかりで

最高でした! みんなも行った方がいいよ! 超おすすめ!


818 名無しのご主人様 ID:mLPNbxHQ0

>ID:1qhPaNuE0


自演乙。氏ね!



「・・・・・・・・・・・・・」

「なっ!? すげぇ反響だろ!?」



 …僕は何も言わず、スマホを静かに谷口くんに返した。




 でも、ネットの評判とやらはともかく、ここのクラスに可愛い子がそれほど多くないのは確かだ。だから綾を引きとめようとする谷口くんの気持ちも分からなくはないけれど、綾の意思はかつて見た事が無いほど固いようだった。エプロンを脱ぎ、椅子に座ったまま、テコでも動きそうにない。


「ぐぐ……こ、こうなったら…渡城! この間の借りを今こそ返してもらおうか!」



「「「な、なんだってーー!!」」」



 今度は僕と絵依子と綾の3人の声がハモった。それはつまり、この僕にツンデレをやれと!!??


「ば、バカか!! おめーじゃねぇ!! そこのおめーの妹を貸せって言ってんだよ!!」

「…ふぇ? わ、わたし!?」


「渡城ぃ…イヤとは言わせねぇぞ…? 俺の見てきた地獄を、おめーにも見せてやろうか…?」

「きゅ、急にそんなこと言われても………。だ、第一、僕の一存じゃ……」


 じり、じり、と谷口くんが僕ににじり寄る。なにか…異様なオーラで彼の自慢のドレッドヘアがスーパーサ○ヤ人ばりに逆立っている。


 こ…怖い。怖すぎる……!!




「…うん。わたしは別にいいよ? やってみるよ、お兄ちゃん!」


 と、その時、あっけらかんとした絵依子の声が響いた。



「は……!!?? ほ…本気か!? 絵依子!?」

「え、エコちゃん……?! 本当に……?」

「ちょっと面白そうだし、ぜんぜんいいよ☆ それにわたしがやらなかったら、またあーやがやらされちゃうんでしょ?」

「う……そ、それはそうかもだけど……」


「おおお! やってくれるか! よーし、じゃあ簡単にやり方を説明するからこっちに来な」

 絵依子の言葉に、コロッと表情まで一変した谷口くんが、絵依子を連れて奥のさらに奥に引っ込んでいった…。




「だ……大丈夫かな…絵依子のヤツ…」

「……エコちゃん…私のために……」




 5分ほどして、エプロンをつけた絵依子が僕たちのところに戻ってきた。

「だいたい分かったよ。それじゃ行ってくるねー♪」



 谷口くんからレクチャーを受け、ツンデレをマスターしたらしい絵依子が、お盆を手にさっそうと教室に出ていった。



 

 本当に大丈夫なんだろうか…。





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