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Realita reboot 第一幕  作者: 北江あきひろ
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10月28日-10


「……あのね。さっきから思ってたんだけど。あなた坊さんのくせに目上の、大人に対する口の利き方ってのを知らないの?」

「はぁ? 大人? 目上? 誰が? そんな人、どこにおりますのん?」


「あたしに決まってるでしょ!!! お寺じゃ年上に向かってそういう態度取れって教えてるの?!」

「…アンタこそ何も物を知らへんみたいやな。歳だけ取っとったら偉いんとちゃうで!!」


「ふ、二人とも! ちょっ……」

 二人を止めようと、声を上げかけたものの、真都のマシンガンのような暴言は…留まるところを知らない!


「ホンマ、大人やら目上が聞いて呆れるわ。アンタらみたいなんはただ体がデッカイだけの子供やっちゅーねん! そんなもん、ただの子供よりタチ悪いわ!」

「もも、もう止めろって真都! こ、これ以上は…!!」


 …恐ろしくて、もはや僕にかなえさんの方をまともに見る勇気はなかった。


 かすかに目の端に飛び込んできたのは、うつむき、何かに耐えているようなかなえさんの姿だった。今だぐにゃぐにゃと捻じ曲がり続ける空気が…更なる惨劇を予感させる…!


「はっ。なんも言い返せへんとこを見ると図星みたいやな。子供だましのポンチ絵描きか思とったら、案の定中身までガキんちょかいな」


 …ふぅっ、と呆れたように笑いながら、またもかなえさんに挑発めいた視線を投げかける。

 っていうか……ヤバいって! これまでの暴言はともかく、絵描きに絵の悪口言うなんて…シャレじゃ済まなくなる!


「ままま! 真都!! ちょっ! す、ストッ……!!」

「…ふふん。言いたい事はそれだけかしら……?」



 …真都への静止の言葉をさえぎり、静かに、ゆっくりと顔を上げたかなえさんは……笑っていた。そして……かすかに引きつったような、どこか意地悪い笑み……を浮かべながら言い放った。


「…お子様なのはどっちかしらね~? ガリッガリのぺったん娘、小学生並みのBカップ!! ごときに言われてもねぇ~?! 女子的負け犬の遠吠えってやつかしら……?!」


 …瞬間、真都の顔が、さぁっ、と青ざめた。かと思ったら、今度は顔を真っ赤にして、猛然とかなえさんに食ってかかり始めた。


「な…! なんでウチのサイズ…、ぃ、いや、む、胸の事なんか、い、今は関係あらへんやろ!!」


 かなえさんの余裕に満ちた表情と言葉、そして大きく突き出された胸に…さすがの僕もすべてを理解した。


 実際、にらみ合ってる二人を観察してみると、確かに…かなえさんはかなり胸が大きい。ジャージの上からでも分かるぐらいなんだから、脱いだら相当すごいのかもしれない。それに比べたら、これまた分かりにくい黒衣の上からでも、真都のはだいぶ控えめだと見えた。


 そしてなぜか…今のやり取りで真都は相当ダメージを受けたらしい。さっきまでの勢いを失い、見るからに真都は動揺しまくっている。とっさに僕はフォローするべく、二人に割って入った。


「ま、真都、別にちょっと胸が小さいぐらい…」


 と、言い終わる前に……ぴくり、と真都の眉が跳ね上がった。


「…瞬ヤン。アンタ今……なんて言ぅた……? 何が小さいって…? ウチの聞き間違いかなぁ……?」




 …も…もういいっちゅーねん!!




「っていうか! また話を戻しますけど!」

 このままだとどうにもなりそうになかったので、無理やり軌道修正することにした。隣ではまだ顔を赤くしたままの真都が、ぶつぶつ言いながら僕をにらんでいる。


「……その…かなえさんたちが入ってるっていう『ソキエタス』っていうのは、一体どういう集まりなんですか? 何かの組織みたいな…?」


 僕の言葉に、思い出したようにかなえさんが「あぁ」とつぶやき、少し考える仕草をした後、にっこり微笑みながら身を乗り出してきた。


「瞬弥クンは日本史得意?」

「は? え…? ……えぇと…?」


 僕の質問に返ってきたのは、答えではなく、余りに脈絡の無い質問だった。予想外のかなえさんの言葉に、思わず僕はぽかんとしてしまう。

 今度もまた急にいったい…何を言い出すんだ? この人は…。


「と、得意じゃないですけど…、た、たぶん一般常識ぐらいなら…」

「充分よ。じゃあ問題です。第二次世界大戦の、日本の終戦日は西暦何年?」


「…? えっと…確か…1945年…いや、1944年…だったかな? たぶんその辺りだと思うんですけど…」


「ブッブー!! 不正解!」


 授業中にパラパラマンガを描いたり、歴史の人物に落書きしてたツケが、まさかこんなところで出るとは…。


「答えは1995年4月15日です。まぁ、ほんの一昔前、歴史的にはついこの間の事ね」



「………はい……!?」



 …この人は何を…何を言ってるんだ?



 いくら僕がまともに勉強してないバカでも、さすがにそれが有り得ないことぐらいは分かる。

 だって、それじゃまだ戦争が終わって半世紀も経ってないってことじゃないか。そんな最近まで戦争をしてたなんて、ニュースや新聞、母さんや先生たち大人の話にも出たことなんかないし聞いたこともない。


「あ…あの……」


「ちなみに日本に落とされた原爆の数は5発。広島、長崎、岡山、京都、そして北海道。対抗して日本も一発をニューヨークに落としてるわ」





 …あまりの荒唐無稽さに、思わずそんなバカな、と口走りそうになった。

 瞬間、さっきのかなえさんと、あの男…和夫との戦いの時にいたお坊さんの言葉がアタマに蘇る。



『ーあたしたちの住むこの世界は、人の意思で作られてるの。物質も科学も法則も。全てが人の意思でねー』


『…そうだ。この世の理を自在に捻じ曲げ、意のままに世界を描き換えるあの者たちを見て、それでもまだお主は彼奴等を人間と思えるというのか?』



 まさか…今、僕が知っている歴史は…すでに『書き換えられた』もので、かなえさんが言ったものが本当の『史実』ということなのか…?



 まさか……この人たちの力は、過去…「歴史」すら書き換えるというのか…!? 




 ……はっきり言えばとうてい信じられない話だ。でも、さっきの話が本当なら、そんなことさえも出来てしまうのかもしれない。

 この世界そのものが、人の意思によって成り立っているのなら、あるいは世界全部をまるごと、歴史も何もかも上書きして…書き換えることだって出来るってことだ。


 強大な……意思の力さえあれば…!


「………っ…」

 かなえさんの語った『真実の歴史』と『世界の真実』に僕はどう応えていいか分からず、ただじっと…かなえさんの真剣な表情を見つめ返すしかなかった。

 その時。



「…ぷっ。あ…はははっ! なーんてね!冗談よ、じょ・う・だ・ん! もう、変な顔しちゃってぇ!」


「は…? …あ…あの…?」


「ぷぷぷ…。だから今のは冗談よ。と言っても、キミの言った1944年は不正解。正解は1945年でーす♪ ホントにもう、こんなに簡単に騙されてくれると、お姉さん嬉しくなっちゃう♪」

「…………」


 ……思わずあっけに取られていると、さっきまでの真剣な表情を崩してかなえさんが笑う。人を小バカにしたようにけらけらと笑うその態度に、さすがの僕も感情を抑えられなかった。

 人が…人が真面目に聞いてるのに…この人は……!


「か…かなえさんっ…! 僕は真面目に…」



 そう言い掛けた時、急にかなえさんの表情が、すぅっ、とさっきまでの真剣なものに戻った。

 …いや、今まで以上に…真剣そのものの表情に。


「…確かにさっき言ったのはデタラメよ。でもね、さっきあたしが言ったことが、もし本当だとしたら…どうする?」


「……え……、ど、どうするって……」

「キミが知る『正しい歴史』がウソだと知って、それでもキミはその歴史を元に作られているこの『世界』で生きていける?」

「ぅ……あ……」


「あたしたちが「力」を使って世界を書き換えなくても、世界中の歴史書が口裏を合わせてウソを書いたら、それはいずれ真実になるわ。その時代に生きている人間の記憶さえも、捏造された「記録」の前には容易に改竄されてしまう」

「……………」


「キミが正しいと信じてる知識が本当にそうだなんて、誰も、何も保証なんてしてくれないのよ。正しいかどうかはキミ自身が決めることなの」


 そこまでを一気に言って、かなえさんがグラスをちびり、と舐めるように傾けた。真都はじっと目を閉じ、かなえさんの話を聞き入っているようだった。


 …照明のせいか、その表情には少し暗い影のようなものが…見える。


 少しの間の後、ことん、と小さくテーブルが鳴った。グラスを置いたかなえさんが再び僕を見つめる。


「…確かにさっき言ったのは冗談よ。でも丸っきりのウソでもないわ。今のこの世界は…そうやって何度も何度も書き換えられてきたのは本当なの。書き換えられるたびに、それまでの歴史は無かったことにされ、あるいは「今の世界」の都合のいいように、いろいろと脚色されてきたのよ。そうやって幾度となく世界を書き換えてきたのが『ソキエタス』って訳」


 …正直、もう声すら出ない有様だった。かなえさんの説明は、それほど常軌を逸している。

 この世界は人の意思の力で作られていて、強い意志の力さえあれば、世界を自在に変えることができ、実際に何度も世界が書き換わってるだなんて…。


「…まぁ、とはいえ実はそれも昔の話でね。今はあたしたち会士の互助会っていうのが正確なところなんだけどね」

「ご、互助会……?」

「っそ。時代が時代だからねー。中途半端に書き換えても、バレたら大事になるし。大規模な…世界まるごとの改変なんて、ここ100年ぐらいは起きてないわよ」


「はぁ…なるほど……」

「昔もたまーに書き換えが上手く行かなくって、前の痕跡が残ったこともあるんだけどね。オーパーツなんて言うのもその類いよ。知ってる?」


「あ…いえ……」

「そ。まぁとにかくそういう事。ん…なぁに? 「信じられるか!」って顔してるわね。んふふふっ!」


「…い…いえ! そういう訳じゃないですけど…」


「ふふふっ。でもそれでいいのよ? 人から聞いた話なんかを鵜呑みになんかしちゃダメ。今あたしが話した事も、全部本当とは限らないんだから。見えるものの全てが真実とは限らないし、見えなくったって真実はある…うぅん、もしかしたら見えないものの方が真実かもしれないわよ?」


「見えないものが…真実ですか……」


「何が真実で、何を幻とするのか、何を幻として、何を信じるのかはキミ次第よ。それがキミの「世界」なの」



「僕の…世界……」


 オウム返しに、僕はそれだけをつぶやくのがやっとだった。




「さて、次は漢字派ね。さっき言ったようにお寺の人たちがそう。えっと…正式名称って何だっけ?」


「…朧露宗や」


「そうそう、そのオンボロ…」

「お・ぼ・ろ・し・ゅ・う!!」


「…細かいなぁ、もぉ。なんかあたし疲れちゃったから交替ね。そっちはそっちでやっちゃって」


…ふて腐れたように、かなえさんはぷいと横を向き、またちびちびとグラスを舐め始めた…。


「…ほなまたウチからも多少説明させてもらお。…と言いたいとこやけど、やっぱパスや」



 どこか呆れたような表情をしながら、真都が僕から顔を逸らし、逆の方向を向いた。


「ま…真都…」


 言いかけて思わず僕も真都の視線を追いかける。と、そこには…


 ……よだれをテーブルに垂らしながら、くーくーと寝息を立てる絵依子のアホ

姿があった。


「…もう時間も遅い。その話は今度でエエやろ。今日はもうこの辺でお開きにしとこ」


 話に夢中ですっかり絵依子の事を忘れてた。途中からやけに静かだと思ってたら、こういうことだったか…。



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