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プロローグ

 埼玉県南部の深夜。どこかに雷が落ちるのを一匹の猫が見ていた。

 落雷と共に夜よりも暗い影が二つ現れる。

 背の高い影と、背の低い影。

「ここが勇者のいない世界……なのか? 蘭丸」

「間違いありません王子。ここはかつて自分のいた世界。日本でございます」

 看板や打ち捨てられている雑誌から日本語を見取って、背の低いほうの影が断言した。

「なんとか逃げおおせることは出来たわけか」

 王子と呼ばれた背の高い影が安堵して息をつく。

「余は父上が世界最強と思っていた。その魔王がああも容易く殺されてしまうとは。勇者とはなんという恐ろしい生き物なのだ」

 信じられないというふうに頭を振る。

「恐れながら王子、勇者というのは人間であります」

「人間があれほど強いわけなかろう」

「勇者とは特別な能力を授けられた人間なのです」

「突然変異体のようなものか? 」

「いえ。この世界で紆余曲折を経て死んだ人間が神とやらの気まぐれで反則ともいえる特殊能力を貰い受け、王子の世界へ転生した者が勇者なのです」

「それは真か? にわかには信じ難い話しだが」

「私のときもそうでしたから間違いは無いかと。因みに勇者に選ばれる人間は大抵がダメ人間です」

「ダメ人間? 」

「何の取り柄も無く、努力もしない人間のことです」

「すると父上はこの世界のダメ人間とやらに殺されたということになるのか」

「恐れ多き事ながら……」

 白けた様な間の抜けた空気が王子と従者の間に流れて消えた。

「まぁ良い。どんな経緯があれ、敗れたものが敗者なのだ。その真理は変わらぬ」

「ご明察、恐れ入ります。ところで王子の装束を私にお渡しください」

「どういうことだ? 蘭丸」

「私が自分の召し物と一緒に金に換えてきます」

「金とはなんだ? 」

「王子の世界でいうゴールドでございます」

「蘭丸、お主は由緒ある魔王家の正装を売れというのか! 」

 さすがに空気が震えた。

「この世界では最早意味の無いものでございます。それにここは金が無ければ何も出来ない世界でもあります」

「そういえば人間はゴールドで武器や鎧を手に入れていたな」

 逡巡しゅんじゅんしてから王子と呼ばれる影が着ているものを蘭丸という影に渡す。

「では行ってきます」

「早く帰って来いよ。なにやら心許ない気分だ」

 背の低い影が消える。

「ただいま戻りました」

 一刻して影が再び二つに増えた。

「お前にしては手間取ったな」

「しまクロで新しい服も調達してきましたから」

 影がいそいそと服を着る。

「なかなか悪くない着心地だな」

「王子、名は何とします? 」

「呆けたか蘭丸。余にはノヴァ・トゥリーズ・ベルウッド・アシュカン・エラスティック・ハイ・タイド・ハットフィールドノース13世という由緒ある名があるではないか」

日本ここではその名は目立ち過ぎます。事を起こすまでは無難な仮名かりなを名乗ったほうが宜しいかと思います」

「実は余も名乗ったそばから名を忘れたわ。蘭丸よ。日本ここはお前の故郷。当然、余よりも勝手を知っておろう。余に名を付けてみせよ」

「では信長というのは如何でございましょう」

「ノブナガ……」

「この国で魔王を名乗った人物の名でございます」

「うむ。信長か……気に入った! 余は今宵から信長だ! 」

 ここより剣と魔法の世界からやってきた(逃げてきた)二人の世界制服劇が幕を開けるのだった。

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