見知った顔。
「キイチさん、で?どうでした?」
事務所に着くなり、僕は前のめりになりながらキイチさんに尋ねた。
「ドアホ。落ちつけ、教えてやるから。」
ドードー、と宥められて、僕は応接セットのソファーにすとんと、素直に座る。
「事件当日とその前後の監視カメラの映像をな、見てきたんだが、マンションの住人以外に映っていたのは・・・。」
映っていたのは?
「新聞配達員一人、宅配業者が二人とスーツ着たセールスマン風の男。」
むむむむ。
業者装いパターンですかね。
「で、全部本人確認が取れている。」
「え?・・・て、事は・・。」
あれあれ?監視カメラには、怪しい人物は映らなかった・・・と?
「そうだ、カメラには、侵入者らしき人物は残っていなかった。・・・気になる点は、あるがな。」
「え?気になる所?」
「ああ、まあまずは容疑者五人についてだ。」
と前置きして、容疑者五人の現時点で判っている情報を話しだす。
まず、婚約者の真嶋貴史。
性格は、自己中心的で我儘な坊ちゃんタイプだ。そして、いろんな所で浮名を流している。その事で、よく美咲と喧嘩をしていたと。
当日は、九州だ。事件発覚の前々日から、医者としての研修で二泊三日で九州へ行っていた。
なぜ九州かというと、そちらに親父つまりは院長の旧友(これまた総合病院の院長だが)がいるため、他の病院内を見るのも勉強だとかで行っていたらしい。
まあ、貴史本人が、言いだした事らしいが。
で、そちらさんの院長に電話で確認を取っている。
知人だからな・・・、別の人間にも聞かないと確証はな・・・。とボヤクキイチさん。
次に、元恋人の高山宗志。
こちらは、真嶋とは正反対に真面目な青年だ。誰から見ても好青年だそうだ。
美咲と破局になったのは、昨年の事らしい。美咲から突然に、別れを切り出されたのだと。高山本人は、納得していなかった、友人から見てらしいがな。
被害者が殺害された当日は勤務日で、消防署に詰めていた。その日の勤務日誌にも、ちゃんと出勤しているとあった。
まあ、場所的にはマンションと道路を挟んで、目と鼻の先。近いわな。
それからホストの沢谷幸也。
こいつは、同伴で自分の勤めるホストクラブから近隣のフランス料理店で、お食事だとよ。
夕方に待ち合わせてから、ずっと一緒にいたと女が証言している。
立ち寄った、所々の店でも沢谷を見たと、証言を得ている。
ダンサーの宮内圭だが、こいつは一昨日から海外公演だとかで、今は国内にいない。
当日はというと、公演のためのチェックを兼ねた出演者全員での通しレッスンが二十一時に終わると、さっさと帰ってしまった。
かなり機嫌が良さそうだったから、皆で彼女と待ち合わせか?と思っていたらしい。
これは、居残り組から聞きこんだ情報だ。
その後の足取りは、掴めていないため、今のところアリバイはない。
最後に、安渕修一だが・・・。
これが、いまいちはっきりしない。
本人は、ここ三か月ほど、家から一歩も出ていない。と、言い張っている。
三か月前に、ストーカーの件で警察に勧告を受けたからな。自粛のつもりで、引籠りだとよ。
両親と同居しているが、安渕が部屋にいる時は声を掛けるなと言われていて、何をしているのかも解らないと。
つまり、安渕にもアリバイがない。
で、それぞれの写真だ。
そう言って、キイチさんは村上亨から入手したらしい、顔写真のカラーコピーをテーブルに広げた。
「あ!」
僕は、思わず声をあげてしまった。
そのカラーコピーには、見覚えのある顔があったのだ。
「なんだ?知ってる顔でもあったか。」
そそその通りですよ。キイチさん。
「こここここ・・。」
新たな攻撃、来ましたね。両手で頬を押さえないで下さい。僕の顔が潰れてしまいます。
「この人・・・・と、この人」
僕は、五枚並んだ顔のうち、二枚の顔を指さした。
「今日、見かけました。」
「あぁ?どこでだ?」
怪訝そうに眉を顰めて、僕の指先が指した顔を見ていた。
「ええと、こっちのちょっとぽっちゃりした人は、現場マンションの近くの橋あたりでマンションを見ながらウロウロしてたんです。僕が、声を掛けたら、マンションで何かあったのかって、尋ねられちゃいました。」
「マンションの近くだと・・?」
ますます眉間に皺を寄せる。
僕は、携帯電話のカメラで写真を撮った事を思い出し、画面に表示し見せる前に閉じた。
ごめんなさい。ブレすぎて、何の写真かまったく判りませんでした。
それを誤魔化すように、慌ててもう一方を指さす。
「で、こっちの人は、消防署の前で僕がぶつかっちゃったんです。消防士さん。あの人、いい人でした~」
僕は、高山の温和そうな垂れ目を脳裏に浮かべながら、答えた。
「あ、そう言えば、気になる点ってなんです?」
キイチさんの言っていた、気になる点について思い出した僕が問い掛ける。
「ああ、マンション住人だという若い女性の連れがな。顔は帽子で良く見えないんだが、どうも気になってな。似てるんだよな・・・。」
キイチさんは、写真のカラーコピーに視線を遣りながら言った。




