訪れたマンション。
「ぜぇ。ぜぇ・・。ま、待って下さい・・き・・キイチさん。」
キイチさん、早すぎです。もっとゆっくり行って下さい。
「・・・トロい。」
言っちゃいました。言っちゃいましいたね?キイチさん。僕だって、ちょっとは気にしてるんです。
「仕方ない、タクシーで行くか。」
「え。何処へですか?」
キイチさんは、付箋紙をひらひらと振りながら、答えた。
「△△に新しく出来た、○○マンション。」
ああ、知ってます。そこ。テレビのCMで見ました。
お金持ちの人が住みそうな、贅沢なマンションですよね?
「△△の○○マンションまで。」
タクシーを通りで止めると、キイチさんは行き先を伝え、右手の人差指を唇に当てて黙り込んだ。
「まさか、そこに?」
・・・スルーされました。
はい、黙りますよ。行けば判りますもん。
マンションまでは、三十分程で到着した。
美咲の自宅から二回曲がって、橋を渡るとショッピングモールがあり、その隣に消防署。その向かい側にそれはあった。
一棟四階建て八世帯の建物が、四棟で中庭を囲む。上から見ると、”回”の字に見えるだろう。
道路から、一番手前の棟にA棟、時計回りにB棟,C棟,D棟と建物の上の方に英字が書いてある。
A棟の一階が管理室になっているらしく、僕とキイチさんは、管理室へと向かうことにした。
管理人室を覗くと、住み込みの四十後半ぐらいの男性の管理人が小窓から顔を出してきた。
「すいません。こちらのマンションに真嶋貴史の部屋があるとお聞きしたんですが、部屋番号までは判らないんです。」
教えてくれというと、あんたら何?と訝しむので、事情を説明して美咲が来ていないかの確認をさせてもらう。
管理人さんに付き添われて、C棟まで中庭を回って行くと、四階までエレベーターで上がる。
ピンポーーン。
いったて普通のチャイムを鳴らすが、出てくる様子は無い。
「いないんじゃないのかい?」
管理人さんはそう言うが、キイチさんは帰ろうとしない。
「マスターキーをお持ちですよね?開けてくれます?」
ニコニコと愛想笑いをするキイチさんだが・・・。
怖い。その笑顔は、脅しですよね?悪人面に磨きがかかってますよ?
引きつりながらも、管理人さんが腰につけていたマスターキーを外すと、部屋の鍵を開けてくれた。
「本当はダメなんですからね。何か問題があった場合には、お宅さんに責任・・・ん?」
玄関ドアを開けると、微かに腐臭が漂ってきた。
「なんでしょう?この匂い・・。」
三人で中に入り、靴を脱いで匂いを辿るように奥へと進んだ。
一番奥の部屋の扉を開く。
「!!!なっ・・・!」
たたた大変です!!誰か倒れていますよ!
キイチさんは、素早く倒れている人に近づいて様子を確認する。
僕も近寄って、その様子を見守った。
「きゅ・・救急車・・・」
管理人さんが言うが、キイチさんが否定し首を振った。そして、言う。
「手遅れですね。警察に連絡を。管理人室に電話あるでしょ?」
管理人さんが慌てて、警察を呼ぶべく管理人室へ取って返す。
その間、僕とキイチさんは部屋の中を捜索したのだ。
キイチさん・・・。携帯電話ですればいいのに、態と管理人室って、言いましたね?
そんな事は、お構いなしに部屋中をくまなく見まわしている。勿論、白い手袋を嵌めるのも忘れていない。
そして、死体の状態を確認すると、言った。
「・・・死後硬直が完全に緩解してるな。死後、三日ないし四日は、経ってるか。メモを考えると、十八日に亡くなったと考えるべきか。」
付箋紙メモをちらりと確認してから、再度、口を開く。
「・・・メモに残された日付と時間。この時に殺された可能性が高いな。」
ええええええ。えーと、今日は二十二日だから・・・、四日間もここで放置ですか!?




