不審者扱い。
警察署からの帰り道、僕は気になっていた事をキイチさんに質問した。
「あの、キイチさん?村上とぉ・・村上さんは、まだ若いのに無関係な僕たちを警察内部に、よく入れる事が出来ましたね?」
村上亨は、まだ若い。刑事にだってなったばかりだろうに。
「ああ、あいつのな、親父が警察のお偉いさんなんだよ。ちょーっとばっかし、融通がな利く訳よ。」
うは。親の権力って。
眉を顰めていると、キイチさんはフォローするように言う。
「俺が無理やり頼んだんだよ。初めは渋ってから、本来はそんな事しないんだろな。ま、こちらとしては、有り難い。」
使えるものは、使っとけ主義のキイチさんらしいです。
「でも、自分から事件に関わるなんて、ダルダルのキイチさんにしては珍しいです・・・。痛っ!」
誰がダルダルだ。と、文句をつけながら、デコピンをしてきた。
「まあ、受けた依頼に関わってたしな・・。」
そうなのです、キイチさんは一度関わると、何だかんだと放って置けないのです。ね?キイチさん。
僕は、ニコニコしながらキイチさんを見上げると、照れたように咳払いをして、更に強くデコピンを食らわせてきた。
・・・照れてもいいですけど、痛い事は止めて下さい。キイチさん。
でも、なんで僕は嫌われているんでしょうね?
天気に恵まれた昼下がり、僕とキイチさんは現場マンションに来ていた。
僕たちが立っているのは、マンション敷地内ではなくて、通りを挟んだ消防署側だ。
A棟の後ろ側を眺める形になる。
そして、少し進んでB棟の側面が見えた。その奥にC棟。
C棟の建物の後ろは、雑木林だ。キイチさんは、通りを渡ると雑木林の方へと進んだ。
今度は、雑木林の更に後ろに回り込む。
雑木林の後ろにも道路が通っている。こちらは、消防署前の通りよりも小さな通りになっている。
道路の向こう側は、住宅の塀が奥の方までずっと続く。街灯は遠くに一つ見えるくらいで、夜は暗い通りになることだろう。
雑木林を挟んで、マンションの方を見るが、木々が邪魔をして見通しが悪い。
「こっちからだと、マンションがあまり見えませんね。」
「死角になってるな。」
二人で確認し合っていると、消防士の紺色の作業着を着た一人が消防署とは反対の方から歩いてきた。
「こんにちは。」
消防士さんが話しかけてきた。
「こんにちは。消防士さん、何してるんですか?」
「ああ、ここ最近、この辺りで不審火があってね。たまに見回りをしているんですよ。」
と、キイチさんに視線を向ける。
は。キイチさんが不審者に見えるんですね?なんか、判ります!」
なんて思っていると、キイチさんは察したのか、愛想笑いで消防士さんに話しかけた。
「ああ、新聞で見ましたよ。不審火でボヤ騒ぎが二件ほどあったそうですね。
で、パトロールですか。それは、有り難い事です。夜も見回りを?」
不審火騒ぎは、確か・・・二週間ほど前からだったか。
消防士さんは、不審者を見るような視線をそのままに、質問に答えてくれた。
「夜中に多いんでね、夜中も勿論見回る時はありますよ。まあ、空いてるやつが自主的に行ってるだけですけどね。」
そうですか。御苦労さまと労って、お辞儀をしてやり過ごした。
「キイチさん・・・ふ・・痛っ。」
まだ不審者の”ふ”しか言ってないです。突っ込むのが早いですよ。




