魔女と因縁。
さて、初めましてだな。
私の名は森野 夜夏である。よなつではない、よかだ、よか。馬鹿。
由来は説明するまでもない。そのまま夏の夜に生まれたからだそうだ。だからと言ってそのままは無いだろう、この名前微妙に分かりづらいんだぞ。
突然だが普通に驚かないで欲しい。
出来れば普通ではない驚かないという反応をして欲しい。
あと、私は断じて頭はおかしくない。
私は魔女である。
それも年食ったお婆さんの魔女だ。西洋での魔女のイメージにぴったりだろう。
腰は曲がり、しわしわで白髪である。あと黒いマント的なものに木の棒をついて歩いてた。
在り来たり? 五月蝿い、決まりなんだよ。
これでも最強だの世界一だのなんだの謳われ尊敬されつつも恐れられている。
ああ、失敬。
正確には「恐れられていた」、だ。
なんの最期はあっけない。
最強とか世界一とかやたら重い看板を沢山背負っておいて死に方は他人に殺される、だ。
長い長い人生の寿命が来たらまだしも。不意打ちの事故で亡くなったならまだしも。
よりによって他人に手を掛けられるとは、一生の不覚である。
その日は確か城に掛けられた長年の呪いを解いて欲しいとかいう(嘘だったらしいが)理由で城に招かれており、年寄りのしかも魔女には縁の無いような煌びやかな大ホールの中心部まで招かれた。
言われた通り呪いとやらの気配を城全体にまで掛けて探ってみたものの、恨みは相当溜まっていたが呪いだなんてもの見つかりやしない。変である。
不審に思い、杖を鳴らしながら王族の方へ振り返り問いだそうとした。
ら。
頭上から盛大な音と共に馬鹿でかいシャンデリアが。全く、必要なのかと思う程デカかったのぅ・・・おっといかんいかん。デカかったな。
常にはってある防衛の魔法のお陰で傷一つつかず逆にシャンデリアの方が粉々になったが。
が、しかしわし・・私の後ろからまさかの魔法が効かないだなんてふざけた性質を持ったふざけた何百年も前の私のライバル(勇者とも呼ばれてたな。言っとくが私は魔王とかではないぞ。魔王並みに恐ろしい力を持った只の魔女だ)が造ったふざけた見付かるはずのないこの世で一本しかない聖剣とかいうふざけた名前の剣で刺されたのだ、急所を。防衛魔法も何もあったもんじゃあない。日本語がおかしいのはご了承願いたい。
勇者め、百年単位の時間差でしかも忘れ形見みたいなモンで攻撃してくるとは。
体の内部にも治療魔法やら防衛やら変わり身やら散々魔法を掛けていたものの、聖剣の傷なので(略)。
好意で(気まぐれともいう)来てやったのに嵌められたと気付いたわし、私は、激怒し城を大破壊。あっという間に瓦礫の山。死傷者多数。
出血しながら張本人のイケメン王とイケメン王太子の下へ行く。
笑いながら最大の攻撃魔法を放とうとした所でまともや体に衝撃。目を真っ赤にさせたチビ第二王子が聖剣持ってわしをぶっ刺してた。しかも今度は心臓。
血の映像を最期に最強 兼 世界一の魔女人生完。
以上。
・・・ではなかった。
前世が余りにも衝撃的で無念で憎たらしかったのか、なんと中身の人格とか精神とかそのまま婆さんで生まれてきてしまったのである。記憶付き。
見た目は赤ん坊★ 中身は婆さん★
とかたまたまやってたテレビになぞらえて心で呟いてみたものの、実に笑えない。
生後三日で気付く。
どうやらここの人間達は魔法は使えないらしい。何てことだ。哀れである。
いや、前の所も極少数しか魔法は使えんかったが。
取り合えず生きてみたらこれは予想外に面白愉快な世界だ。
わし、ええい、いいやもうわしで。わしが前世で知らなかった知識や法則が山ほどある。化学分野が特に面白いな。数字であれこれ極めようとする人間達も面白かったぞ。
また、体は若い上に生まれた国がたまたま自由っぽい国だったんで、お洒落とかも楽しんだ。後々調べたらどうやら他の国では女性は云々とかもあるらしいな。
運動は得意ではなかったが、学問分野では常にトップだったぞ。さすがわし。魔女を舐めてもらっちゃ困る。
前世は人と余り接さず、親しくしてくれる人間も居なかったのだが、友も沢山出来た。
どうやらわしは少々変わっているらしい。
変だな、十分気をつけては居たんだが。魔法も使わなかったし。原因は未だ不明である。
そんな青い春絶賛謳歌中のわし。森野 夜夏、15歳、高校一年。中高一貫に通う(中身婆の)女子高生だ。
・・・謳歌中、だったのに・・・
「いい加減もうそろそろ帰してくれんか。瀬奈と待ち合わせの途中だったんだ。あの子はそそっかしい上に妙に感が鋭いから今頃慌てて私の手掛かりを探しているぞ。」
親友の瀬奈は、魔法とか使えんのにこちらまで乗り込むと言ったらやりそうな子である。
「だーめ。ねえ、聞いてるでしょ? そのセナって誰? 女? 男? 恋人? ・・・もしヨカの恋人なら、俺が焼いて牢屋に入れてあげるけど。」
「・・・。」
し つ こ い。
瀬奈は女に決まっているが、今はそんなのどうでもいい。
「ヨカ、好きだよ。俺のお嫁さんになって?」
わしの手を取って上目遣いで眺めてくる齢20歳の第二王子はぶっちゃけキモい。いや、顔は整っているのだろうがごめん、わしからしたら皆赤子。ときめかない。この年でときめくとかもどうかと思うが。
そう、わし、1週間前にファンタジーな異世界トリップしました。
生身で次元を渡るのは実に興味深いので、後でじっくり検証したいな。
・・・。いやいやそうではなく。問題発生。
トリップした先がわしが死んだ世界だった。
超見覚えある。馴染みありすぎる。
しかも現時点でのわしの身柄保護してる奴がよりによってわしに止め刺した第二王子。
チビは立派に成長しておった。
更にこの第二王子、自分が昔止め刺したあの婆魔女だとは気付かずに正に「一目会ったその時から」好きだと言い出す始末。一目惚れらしい。
周りの者はそんな第二王子の姿に眩暈を起こしてたので理由を聞いたら昔十数年前に起こったある魔女事件以来、すっかり捻くれて育って腹黒王子と有名だそうだ。その王子が女性に言い寄っている、と。ふむ、どうでもいい。
わしが死んだ時居た王は寿命でわしの後直ぐに死に、今現在は長兄の王太子が即位して王となっているらしい。
「そんな事聞いてどうするの? 兄上に興味がある訳じゃないよね?」
わしをふっかふかなベットに押し倒し笑いながら(目は笑ってなかった)聞いてくるので取りあえず曖昧に微笑んどいた。どけ、餓鬼。
「ヨカが兄上だろうと他の男の下へ行くなら、俺は相手の奴を殺すけど。」
なんて物騒な青年だ。
そんな事を言うもんじゃないだろう、と注意したら今度は上機嫌になってゴロゴロ擦り寄ってくるのでどっちにしろ邪魔である。言わなきゃ良かった。
一つここで忘れないで欲しい。
傍から見たら若い男女の姿でも、わしの頭というか心の中では自分の姿には老女のフィルターが掛かっているのだ。
ぶっちゃけキモい。吐きそう。やめてくれ、わし全然嬉しくないから。
生まれ変わってしまったので15年ちょい経った今、この王子や王族に対し怨みも何も感じはしないが(成長しただろう)、それでも複雑なのである。
「お嫁さんになってよ、ね?」
だからお前、わし一回殺してるだろが。
この重い王子にわしの正体を明かしたらどうなるのかは、
正直余り考えたくない。
(念の為薄く防御魔法を使っておこう・・・)
すまん、瀬奈。
パフェを食べに行くの、もう少し遅くなりそうだ。
短編。
異世界トリップ、一回書きたかった・・。
・・・何かズレたけど・・
2011/01/30 一部変更しました