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9.王城での茶会(後編)

そういえば出されたお菓子にまだ手を付けていなかった。

改めて見てみると、国内では穫れない珍しい果物を使ったケーキやタルトが並んでいた。

侯爵家でも普段のお茶会ではクッキーやフィナンシェといった焼き菓子が中心で、国内産でも生の果物はすぐ痛むし、生のまま保存する場合は手間がかかるため非常に高価になる。

そのため旬の一時期やお祝い事の時にしか食べる機会がない。

個人との茶会にこうしたものが出てくるのは流石王族だと思う。


ちなみに基本的に国内の作物は元の世界にあったものと同じだが、文化や植生の境目がそのまま国境になっているような感じで、他国になると作物が一気に変わる。


そうした事情もあり、俺は目の前にある珍しいケーキを早く食べたかったのだが、王子がまだ口をつけていないため我慢していたのだ。


「そうだな、ではお茶会を楽しもう。」

そう言うと王子はビスコッティに口をつけ、アンナ様もそれに続いた。


それを見て俺もようやく目の前ものを食べることができた。

未知の香りや食感でついつい夢中で食べてしまう。


「僕の分もやろう、手土産用は別に準備してあるから安心して食え。」



最近気づいたことがある。

それは俺自身が幼くなっていることだ。

身体の年齢に引き寄せられているのか感情の起伏の波が大きく感じるし、それをうまく制御できていない。

前世ではもっと抑揚なく平穏で、ムキになったり、食べ物にがっついたりすることはなかった。

俺らしくないなと考えてかけて違和感を感じた。

今考えた俺とはアキラのことであり、13歳のルシオとしては普通のことではないかと。


「ありがとうございます。…なかなか珍しいものばかりで我を忘れて食べてしまいました。」


「それはよかった。そういえば、もうすぐお前の誕生日だろう。よかったらまた取り寄せて持参させよう。」


「さすがにそこまでは…。」

パーティ規模となるととんでもない額になるだろう。

助けを求められないかとアンナを見遣ると、意図のわからない笑顔でこちらを見ていた。


「それなら誕生日は何が欲しい。」


断ると事態が悪化するのは目に見えている。

なるべく無難な何かを提示して収めないと。

貴金属類は定番だが、王族が贈るとなると高額だったり貴重な品になる可能性がある。

正直俺は物欲はそんなになく、欲しいものが全く思い浮かばない。


「…そうですね、お気持ちだけで十分ですよ。」

以前Gに言ったのは関わらないための方便だったが、今は心からの言葉だ。


「僕の気持ちを所望するとはなんとも大胆だ、面白い。」

言葉を間違えたか。


「いえ!気持ちというのはそういうことではなくて、あの、その、贈り物をしたいというその気持ちをということであって…。」


「そういうこと、とはどういうことかな。」


「…えっと、その…」

恥ずかしさでうまく言葉が出てこなかった。

勝手に勘違いして墓穴を掘ったか。


「あっはっは、冗談だよ。まったく、本当にからかいがいがあるなお前は。」


「もう、俺で遊ばないでください!」


「ルシオは俺というのか、そうかそうか。」


「今のは聞かなかったことにしてください…。」

勢いで素の一人称が出てしまった。

どこか視界の隅にクイックロードボタンがあったりしないのか…。


その後もしばらくお茶会は続いたが、アンナは相変わらず笑顔のままで黙々とお茶を飲んでいた。

主人公のポンコツ化が止まりません。


王子が「また取り寄せて」と言っている通り、実は今回のお菓子達は王子が主人公のために取り寄せて準備をしたものですがアンナしか気づいていません。

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