52.エリオット
学園祭の夜、俺は呼ばれて珍しくエリオットの部屋に来ていた。
「単刀直入に聞こう。ルシオは…アキラなのか？」
「え？！」
「カレー、作ったんだろ？」
「ああ、そうだが…もしかしてエリオットも転生してるのか？」
「俺はヒロだ。以前の記憶もある。」
「そうだったのか！全然気づかなかったよ。」
「ルシオはアキラと似てたから…、でも決定的な要素も無いし、変な奴とも思われたくなくてあまり気にしないようにはしてたよ。」
「そうか、この間エリオットがカレーって言った時、なんで知ってるんだろうって思って聞き返したけどはぐらかされたから…。一度思い出すとどうしても食べたくなって結局作ったんだ。」
「さすがだな。」
「でもそうか、ヒロもここにいるってことはあの事故に…。」
「…そうだな。アキラの最後の瞬間は今でも夢に見るよ。俺はしばらく意識もはっきりしていたんだが結局多分助からなかったんだろう。」
「…誕生日が1日違いというのはそういうことか。」
「多分な。あと少し前に疑問が確信に変わりそうだったのが酢漬けだな。」
「酢漬け？…ああ、実は昔からおばあちゃんがよく作ってくれててな。俺も好きだったんだ。だからなますとからっきょう漬けとかに寄ったのばかり作ってた。」
「そうか。前世でも今世でも酢漬けってピンポイントすぎるし変だって思ったんだよ。」
「確かに。でも本当に酢漬けくらいしか無かったんだよな。それにしてもエリオットはガタイのいい男前になれていいよな。俺は元々日本でも平均あるかないかくらいだからこっちだといつまでも子供みたいだよ。」
「確かになんでアキラだけそのまんまなんだろうな。…やっぱり主人公だからかな。」
「やっぱりってどういうこと？」
「ハマってるってよく話してくれたゲームと似てるじゃん。王子とか。」
「それは…そうだね…。」
「俺ってこの後どうなるのかな。」
「全くわからない。そもそも王子ルートしかプレイしていないんだけど、聖女はいないし、悪役令嬢も悪役じゃ無いし、カルロも全然姿現さないし…ゲーム通りの箇所を探す方が早いくらいだよ。」
「俺って攻略対象なんだよな？それじゃ俺のルートがあるってことだよな。」
「うん、そうだね…ゲームでは。プレイしてないけど。」
「王子が…好きなのか？」
「嫌いではないんだけど…好きになったら王妃になるんだよ。男なのに。なぜ側近とかじゃダメなのか。」
「ドレス着せられるのかな。」
「いやいや、女装はもう嫌だよ。」
「したことあるんだ？」
「母方の実家で子供の頃着せ替え人形に…。」
「写真とか…はないか、姿絵とかないのか？」
「そんなもん無いよ！」
「ははは、それは残念。」
「そういえば、ヒロとエリオットの笑い声が同じで、なんだか懐かしかったんだよな。俺じゃヒロとエリオットを重ねてたんだなって思う。どちらも幼馴染だし。」
「そっか。元々攻略って誰がいるんだ？」
「エリオット、王子、ジェローラモ、カルロ、ダンテ、リカルドの6人だよ。」
「多いな…。カルロ先生以外は皆近いところにいるよな。」
「そうだね。イベントらしいイベントは王子とジェローラモくらいかな。リカルドも怪しいけど。」
「誰のルートにも入らないというのは無理なのか。」
「どうだろうな、俺なりに足掻いてみたけど逃げられなかった。王子は逃げると逆効果だったし。」
「それで…誰のルートに進もうとしているんだ？」
「わからない。俺はただ平穏な人生を過ごせたらいいんだ。」
「それなら俺はどうだ。貴族のしがらみは無くなる予定だし、自由に暮らせるぞ。前世…昔話だってできる。」
「せめてゲームならよかったんだが…。誰か1人を選ぶには知り過ぎてしまった。」
「とはいえ誰も選ばないと誰も報われないだろう。それならアキラ…ルシオが心から望む1人を選んだ方が他の人は受け入れられるんじゃないか。」
「そうだよな…頭ではわかってる。」
「なあ、ルシオ。…俺はアキラの頃からずっと好きなんだ。
ルシオに転生してるとは知らなかったが似た姿にずっと想いを重ねていた。初めは領主になって、いずれ家を出るルシオに来てもらおうとしていたんだ。
領地運営や農家の勉強も頑張った。でも勉強すればするほど厳しい現実が分かってきたんだ。ルシオに苦しい生活はさせたくなかったから…。
実は…事故の日、…俺は告白しようと思っていた。
でも幼馴染の関係が終わってしまうのが怖くて言えなかった。
そして、ずっと今でも後悔しているんだ。
…あの時言っていれば恋人になれたかもしれない。
…タイミングがズレて事故に遭わなかったかもしれない。
…せめてアキラだけは助かったかもしれないって。」
「そうか…、すまなかった。」
「俺は俺を、エリオットを選んでほしい。でも、ルシオが自分で選んだ道なら俺は応援できる。だからせめて…誰かのためにとか最善だからという理由で選ぶようなことだけはしないでほしいな。」
「わかった。ありがとう。」
