46.天職
休みはあっという間で気がつけばもう新学期になっていた。
夏休みはリカルドの一件を除けばほとんど収穫と勉強しかしていなかった。
そのおかげか今回の試験も満点だった。
「ルシオは相変わらず優秀だな。」
教室で王子が話しかけてきた。
「休みの間も勉強ばかりしていたからね。」
「たまには手を抜け。並ぶことはできても追い抜けないではないか。」
「並ぶだけでもいいのでは。」
「それができたら苦労しない。このままでは万年2位の王子という不名誉な名前で呼ばれることになるぞ。」
「別に呼び名くらいどうとでもなるからいいじゃないか。いつか希代の名君と呼ばれれば過去の全てが美談になるよ。」
「…本当に口が回るやつだな。」
「名君を支えるなら主席という肩書きだけじゃ足りないからね。あの名君すら1度も勝てず言い包められたらしいぞって皆恐れ慄くかもしれないな。あはは。」
「笑い事か。」
「半分は真剣だよ。だから俺は手を抜かない。アダルは良き王を目指す。それでいいんだよ。」
「早速言い包められてるのか僕は。」
「それなら、手を抜かれてお情けでやっと1位を獲れた王子って呼ばれたいのか?」
「それは嫌だな。」
「つまりさっき言った案が最適解なんだ。」
「…くそ、言い返せないな。」
「別に言い返す必要はないよ。」
「結局勝てないことに変わりはないではないか。」
「俺も人間ですから間違えることもある。アダルも常に全力で挑めばいいじゃないか。少なくとも満点を取れば同順位、俺に勝てるかもしれない。あと2年あるしな。」
「ふん、まあいい。…今日のお前は可愛くないな。」
午後はカルロの授業だった。
彼は銀色の長い髪の中性的な雰囲気で唯一眼鏡の攻略対象なのだが、家庭教師として家にいた頃から最低限の接触しかなく今も授業や生徒会という共通点はあるもののほとんど話していない。
授業後、俺はリカルドの件について報告するために声をかけた。
「なるほど、そのようなことがあったのですね。」
「はい。結局不要な気回しだったようですが。」
「リカルドさんはよい居場所を見つけられたようでよかったです。」
少し含みを持った言い方が気になった。
「先生にとって学園はよい居場所ですか?」
「…ええ、結局はこれが最善なのです。」
「そうですか、先生は教えるのがとても上手ですから天職かもしれませんね。」
「私自身も楽しいので、そう言っていただけるのは嬉しいですね。」
カルロは昔から優しく穏やかだが、どこかそこが知れないところが苦手だったことを思い出した。
しかし、実害がない限り俺が気にする必要はない。
報告を終えた俺は挨拶をして寮に帰ることにした。




