44.リカルド(前編)
店に入ってから時折リカルドの様子を見遣るが料理が出てきても懐かしんだり動揺したりしているようには全く見えなかった。
「お待たせいたしました。本日はお越しくださいましてありがとうございます。店主のサリと申します。この度はこのように店を構えさせていただき大変光栄でございます。アルタヴィラ侯爵家の方々やジェローラモ様のご助力のおかげでございます。」
「私に対してはそのように礼を尽くしていただく必要はございませんよ。その礼は父の時に取っておいて、どうか頭をおあげください。」
部屋に入るなり頭を下げてきたサリをまずは落ち着かせる。
俺は伝言役だけで、実際に動いているのはジェローラモや父なのだ。
「それでは…。」
落ち着いたサリが頭を上げると、ようやくリカルドに気づいたのか今度は膝を落とし驚き震えていた。
「あ…あなた様は!」
「どういうことだ?」
ジェローラモも突然のことに驚いている。
ダンテは相変わらず仏頂面だ。
リカルドは様子を見ている。
「……生きていらっしゃったのですね…よかった、本当によかった。
ああ、殿下。本当に大きくなられて…わたくしめを覚えておいででしょうか。」
サリはそのまま泣き崩れてしまった。
リカルドを見ると、声をかけるでもなくそばに寄るでもなくただ見ていた。
この場を鎮めるためにも何か手を打たなければ。
「リカルド、何か声をかけてやったらどうだ。」
「確か…料理長をしていた方ですね、サリ。あなたも無事生き延びられたのですね。」
「ええ、色々ありましたが…ジェローラモ様に拾っていただきこちらに至った次第でございます。」
「そうでしたか…。」
「殿下が生きていらしゃることが知られればきっとヴィゴーレの者達は希望を持てるでしょう。ご存知かもしれませんが、現在国内は反乱主導した貴族の領主が共和制を目指し治めておりますが、反乱に加担していなかった貴族達を冷遇し実質独裁状態になっております。
以前の君主制へ王政復古を求める声も少なくありません。」
「…。」
リカルドは黙ったままだ。
「もちろん現在混乱状態にありますので、今戻ると危険でございます。ひとまず秘密裏に殿下の存命を知らせて落ち着いた後に…。」
「私は既に死んだ身です。万が一、死者が蘇り王位に就いたとしても新たな火種が生まれ、また国が荒れることに変わりはないでしょう。」
「…そんなことは。」
「父は善政を施していたと思います。平和な国でした。それが気に食わない一部の貴族の反乱で簡単に覆ってしまった。」
「…。」
サリも先ほどの勢いは無くなりすっかり黙ってしまった。
「何が起きたとしても責任を取るべきなのは治める者の責務だ。気に食わず再度覆すものがいるのならその者が次に責任を取ることになるでしょう。私にその意思はない。」
リカルドは俺に向き直り続けた。
「…両親や兄弟がその身を挺して、自分の思うように生きろと逃してくれたのです。それでまた国に戻って討たれでもしたら家族に顔向けもできません。
命辛々この国へたどり着いたものの着の身着のままだったため手持ちもなく、物乞いをしながら死者の一歩手前の状況でした。
…ついには歩くこともできなくなり座り込んで天命に委ねたところ…ルシオ様に文字通り命を拾われたのです。」
リカルド以外誰も口を開くことはできなかった。




