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37.望み

夜、手紙が届いていた。

ただ「来い」とだけ書かれた差出人不明の手紙。

正直なところ明日どんな顔して会えばいいかわからず頭を抱えているところだったため、今日中になんとかなるのであればスッキリと眠れると、前向きに捉え王子の部屋に向かう。



コンコン


「入れ。」


「失礼いたします。」


「…。」


真顔のまま無言で見つめてくる。


「…夜分遅くにいかがなさいましたか?」


頑張って愛想笑いをしてみる。


「その気色の悪い顔はやめろと言っただろ。」


俺も真顔に戻す。


「…。」


「…なぜ俺の返事も聞かずに帰った。」


「王族の方相手に出過ぎた真似をしてしまい恥じてしまいました。」


「ああ、あのように熱く抱きしめられたのは両親の他にはお前だけだぞ。」


「それは光栄なことでございます。」


敬語についても反応してほしいが、王子の私室だからそのままの方がいいか。


「あの時近くに誰もいなくてよかったな。誰かに見られたら明日の王都新聞に一面に載っていただろう。」


「やましい気持ちは一切ありませんが、あの言葉にも偽りはありませんよ。官僚として出世してアダル様に腹心を目指すのですから。」


覚悟してあの宣言はしたが、結局目指すこと、すべきことは今までと大差ない。


「僕を熱く抱きしめたと思ったら顔を真っ赤にして出て行ったものだから、てっきりそういう意味で慕われているのかと思ったぞ。」


「先程もお伝えした通りです。側で支えたいと思える程度には。」


「最初は鬱陶しかったその敬語も、照れ隠しだと思えば可愛いものだ。」


何も言わなかったのは確認犯だった。


「アダルはなぜ俺にこだわるんだ?元々そんなに面識があったわけでもないだろう。」


「敬語をやめたということは図星だったのかな?」


「…。」


何と返しても揶揄われそうで無視することにした。


「お前はいつだって僕のことを1人の人間として扱うじゃないか。皆は王子として接する。

今のそんな態度は家族やアンナですらしないぞ。かといって王子としての俺に対する振る舞いもできる。僕の公私を支えるためにいるようなものだ。」


「でも、初対面から扱いが違った気がするけど…。」


「僕が参加する催しといえば同年代に関わらずこぞって参加するが、アルタヴィラ侯爵家の次男だけは同い年にも関わらず挨拶にも来ない、貴族のくせに何事だと最初は思っていた。

それが社交デビューも兼ねたお前の誕生パーティでようやく会えたのだ。

しかし初めて挨拶した時、お前はまるで何度も見慣れた顔に会ったかのように落ち着いていた。

今までの同世代の子女だけじゃない、大人ですら初めての挨拶は多少驚くなり平伏なりするのだ。

ひと目で興味を持つには十分だったと思うが。」


「確かに、昔から緊張が顔に出にくく年齢不相応に落ち着いているとは言われていたけど、いずれ家を出る身だし、社交向きの性格でもなかったから最低限で参加していただけだよ。」


「ふん、まあそれは僕にはどうでもいいことだ。

ルシオ、お前の本心はただの腹心でいいのか?妙な駆け引きで俺の気を引きたいのか。

王妃になりたいとはやく…


「俺は成長途中とはいえ男だから!アダルはもうアンナ様がいるだろう。」


思わず言い終わる前に口を挟んでしまった。


「アンナは幼馴染で、お前にとってのエリオットのような存在だ。まあ、もちろん俺が言えば拒否はしないだろうが。アンナは二重の意味でそれを望んでいない。」


「二重?」


「ああ、アンナは僕に望む相手と結ばれることを願ってくれている。アンナ自身も自分が望む相手と結ばれたいと思っている。」


…これでは王子の望む相手が俺だと言っているようなものではないか。


「そうか。でも今俺が返せる返事は先に伝えた通りだ。」


「…わかった。卒業が近くなったら改めて聞こう。僕が納得する答えが聞けることを楽しみにしているぞ。」

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