36.覚悟
「今更だがすまない、おそらく園芸部の活動にも影響が出るだろう。僕も仕事量については声を掛けた後に知ったんだ。」
生徒会室に戻ると窓辺に立つ王子に謝られた。
「しばらくは水やりや脇芽取りとか時間がかからない作業だから問題ないよ。」
「学園祭が終わるまでは放課後も忙しくなるだろうから、勉学に支障が出るかもしれない。」
「夜勉強できるから大丈夫。さすがに日が落ちた後は帰ってもいいだろう?
だが生徒会の仕事も引き受けた以上は中途半端なことはしないから安心してほしい。」
「そうか、それならいいんだが。
…。
…なあ、それならなぜ初めから生徒会に入らなかった。
今のお前見ていると不思議でしょうがないんだ。
十分両立できるだろう。将来を考えると恩恵だって大きいはずだ。」
「…。」
「国には仕えるが僕には仕えたくないということか。
僕の側にいるのは嫌か。
皆は国のため王のために喜んで、と口を揃えて言うぞ。
ルシオは王のためには働けないのか、それとも僕には王となる素質がないというのか…。」
俺はこんな悲しい顔をさせたいわけじゃない。
誰よりも責任感が強く皆の理想の王を目指す彼がただただ報われて幸せになってほしい。
それは王子だからではなくアダルベルト個人に対しての気持ちだ。
「やはり昔俺の前で泣いたのは…。」
俺が何も言わないため肯定と受け取ってしまったようだった。
幸を願う俺が今彼を苦しめている。
本当に彼のことを想うのであれば言えるはずだ、この今にも泣き出しそうな顔をした王子を安心させる言葉を。
腹心?
なればいいではないか。
それが彼の望みなら。
以前俺が憂いた未来はもう来ないのだから。
…気づいたら王子のことを抱きしめていた。
「俺は全く嫌じゃないよ、アダル。
それにアダルは誰よりも王となるにふさわしいと思うし、きっと良き国にしてくれると信じている。
アダルが本当に必要とするのであれば俺も腹心として支えることを誓うよ。」
アダルは何も言わなかった。
今どんな表情をしているのだろうか。
もう悲しい顔をしていないといいが…。
「…今まで俺が関わることで全部が悪い方向に行く気がして向き合うことから逃げていたんだ。本当にごめん…。」
勢いで動いてしまったはいいものの、我にかえると猛烈に恥ずかしくなってしまった。
なぜだろう、やはりひどく感情的に動いてしまう気がする。
居た堪れなくなってしまった俺はそっと王子を離すと、そのまま部屋から脱兎の如く逃げ出していた。




