32.試験
入学からひと月が経過し最初の試験の日がやってきた。
語学、算術、理学、歴史、地理の5科目で、歴史や地理を除くと前世から変わりがない。
通常、官僚など国家の主要職業は数度の試験を経て採用となるが、学園で成績上位は推薦枠で面接のみになる。
さらに極めて優秀な場合は直接勧誘の声かけすることがあり、その場合は全ての試験は免除され1年間は衣食住が保障される。
俺はこの推薦枠以上を目指していくため勉強しているのだ。
俺は無難にテストを終えエリオットと届いた資材の確認に向かった。
「思ったより量があるんだな。」
「元の土に肥料以外の全部を鋤き込んでいくんだ。日の光を遮らないように背丈の順番に並ぶようにして、植えるものは記録していく。次回以降は今回とは違うものを植えるんだ。」
「植えるとどうなるんだ?」
「病気になりやすくなる。今回植える4種類は全部違う種類だから来年植えるとしたら1畝ずつずらすだけでも大丈夫。きゅうりはカボチャ、ピーマンはトマト、ナスという感じで一見違うように見えても同じ種類だったりするからね。」
「そうなのか。小麦畑って毎年小麦だけど大丈夫?」
「春に桃色の畑になっているのを見たことない?あれは蓮花草という花で土壌中の養分を増やすだけじゃなくて、植物ごと土に鋤き込むとそれ自体も養分になって連作による影響も軽減されるんだ。花の蜜も蜂蜜になるしね。」
「さすが、もう農学博士だな!こんなに知らないことばっかりとは…。これからは食べ物を見る目が変わりそうだよ。」
「ルシオは昔からなんでも残さず食べてるじゃないか。」
「いやまあそうだけど、よりありがたみを感じるよね。」
「実はこの規模でしかも3年だと気にしなくてもいいんだけどね。せっかくだし色々育ててみた方が楽しいと思うんだ。部としても活動実績になるしね。俺の勉強も無駄にならずに済みそうだ。」
一週間後。
試験の結果が掲示されていた。
俺は…満点で1位か。
中学校レベルの問題を2回目の人生の俺が間違えるわけにはいかなかったのでよかった。
2位は王子、3位はアンナだった。
エリオットは…6位か、でも歴史と地理以外は満点なのはさすがだ。
「ルシオ、さすがだな。この僕ですら相当勉強したのに勝てなかった。」
掲示板から離れようとしたところ王子に話しかけられた。
「俺も毎日勉強してたよ。」
「それは知ってる。お茶に誘っても来なかったもんな。」
「それは…。」
「冗談だ、真面目に勉学に励むことはいいことだ。ところで今回ルシオには話がある。」
「ど、どういったお話で…。」
「生徒会に入れ。」
周囲がどよめく。
「もう園芸部に入っているので…」
「それは知っている。だが嫡男ではないとはいえ侯爵家の子息、しかも学年主席となれば生徒会にいない方が不自然だ。」
「ですが…。」
「週に一度の集まりには参加してもらうことにはなるが、それ以外はもちろん勉学や園芸部の活動優先で問題ない。書類仕事の諸事は手伝ってくれるものも多いからな。」
こちらの事情も全て分かった上で譲歩してくれているのだ。
将来を考えると生徒会という肩書きは利点しかない…。
「それに厳密には俺もまだ正式には生徒会ではない。今は引き継ぎ期間で正式任命はまだ先だ。心の準備はいずれできるだろう。」
「…わかった。生徒会に入るよ。」
「よしよし。では詳細は追って連絡する。」
…なかなか自分に都合のいいようにはならないものだ。




