30.園芸部
「そういえば俺、見学も何もせず決めたけどさ、活動内容、頻度、部員がどのくらいとか何も知らないんだよな。何か聞いた?」
カルロが帰った後、夕食の時間まで俺の部屋で今後のことを話してた。
「一応部員は何人かいるみたいだけど、何も活動はしてなかったらしい。今ある花壇の手入れは用務員さんがやってるそうだ。」
「そっか、じゃ実質俺らだけってことだな。」
「ああ、しかも部用の花壇や畑はないからゼロから始めないといけない。その代わり必要な資材とかは申請すれば全部用意してくれるって。」
「なるほど、思った以上にやりがいがありそうだな。まさか植えるより前の工程から始めることになるとは思わなかったよ。」
「何か植えたいものあるか?それに合わせて花壇とか畑の設計や土づくりをしようと思う。」
「植えるものでそんなに違うものか?」
「全然違う。例えば芋類と葉物野菜では好む土の性質が違うものが多い。知らずに植えると育ちが悪かったり枯れたりすることもある。」
「すごいなエリオット。もう専門家だね。」
「農業しかやってないような領地だったしね。で、何かあるか。」
「実は特にこれっていうのはないんだがしたいことはある。
…できれば作った野菜をバーニャカウダで食べたいかな。」
「芋類、かぶ、きゅうり、ピーマン辺りは今から植えられるし収穫時期も揃えられるかな。
きゅうりやピーマンは毎日収穫できるから食べ放題になるぞ。オクラもいいな。
…あ、でも収穫が夏季休暇中になりそうだな。どうする?」
「家は定期的に顔出すつもりだから夏季休暇中もこっちに残るよ、大丈夫だ。」
「そっか、じゃあ花は?」
「花か、俺は野菜だけでも十分な気がしてきた。」
「特に希望がなければひまわりにしようかな。切り花でも日持ちするし、種子も食べられる。パンに入れてもお菓子にも使える。油も採れる。」
「へぇ、観賞用かと思ったけど結構実用性あるんだな。」
「そうだ。初めはあまりあれこれ植えずにやってみようか。」
「ああ。」
収穫の時を想像しながら計画を立てるのは思った以上に楽しく、気が付いたら夜になっていた。
「ルシオ様、エリオット様。夕食の準備が整いました。」
「そういや昼は軽めだったからお腹すいたな。」
「夜のためにあえて軽めにしてたそうだ。」
テーブルに料理が運ばれてくる。
部屋の大きさに似合う大きなテーブルが埋まりそうな量だった。
「これは…壮観だ。リカルド、すごく頑張ったな。これを全部1人で?」
横にいるエリオットは口を開けたまま固まっている。
「いいえ、ダンテ様にもお手伝いいただいております。心ばかりではありますが私たちからの入学祝いでございます。」
「ダンテの料理は久しぶりだな。…2人とも本当にありがとう。2人も一緒に食べよう。いいよな、エリオット。」
「んぁ、もちろんだ…。それにしてもすごいな、晩餐会でも始まりそうだ。」
見た目通りの大食漢が2人いてようやく食べきった。
なかなか動けずにいると本日3人目のお客様がやってきた。
ドンドンドン
ノックというより殴っているような音だ。
リカルドが慎重にドアを開けると、そこには王子がいた。
「ルーシーオー!なぜ挨拶に来ないんだ!
学園でも気づいたら帰ってるし、部屋に来るかなと思ってお茶も準備していたんだぞ。」
「それはごめん、挨拶はしようと思ったんだが他の生徒に囲まれていたから明日改めようと思っていたんだ。」
「すぐそこなんだから部屋に来ればいいだろう。」
「さすがに王族の居室は気軽に行けないよ。」
ひとまず王子に立ち話をさせるわけにもいかないので急いで片付けてお茶を出すことにした。
ダンテは自室に戻りエリオットも帰った。
「ふん、まあ挨拶のことはいい。ところでこの部屋はどうだ、気に入ったか。」
「それはもう。広さはもちろん家具も上等で設備も全て整っていて、従者用の部屋も…。」
「そうだろうそうだろう。なにせ元々2部屋だったのを僕の部屋と同じに作り替えさせたのだからな。家具も同じだ。」
豪華で広くてまるで王族かと思っていたが、まさか本当に王族仕様だったとは…。
「…驚いたよ、なぜそのようなことを?」
「僕の友人を粗末な部屋に置くわけにはいかないと思ってね。」
友人という言葉に安堵する。
「そっか、ありがとうアダル。」
ありがとうで済ませていいレベルではない気がするが、エスカレートしそうなので最低限のお礼に留める。
「ああ。くつろいでるところ悪かったな、また明日学園で。」
王子は満足したようで、自分の部屋に帰っていった。




