26.贈り物
今年も誕生パーティの時期がやってきた。
俺にとっては最後の誕生パーティだ。
俺は今日で15歳になった。
来年からは俺も招待客のほとんどが同じ学園にいる。
わざわざ自領に呼不必要はないし、本来の社交目的は不要になるということだ。
卒業後は家を出るため、個別に招待でもされない限りは仕事や身内以外のパーティに参加することもないだろう。
これまでは家と家の繋がりのきっかけ作り、関係性強化と意味合いがあったため、プレゼントは絵画など家に贈るための美術品が多かった。
俺個人に対して贈ったところで将来に繋がりにくいからだ。
だから俺とエリオットのように昔から懇意にしている間柄を除くと個人間の贈るのは珍しい。
大抵が意中の相手への接触目的がほとんどだ。
比較的親しい王子やアンナからも個人間でのプレゼントはない。
一通り挨拶を終え歓談をしていると主役の俺が明らかに霞むほどキラキラとした男に話しかけられた。
ジェローラモだ。
今年はきちんと招待した。
「ルシオ様、改めて少しお時間をいただいても?」
「ええ、もちろんですよ。」
「実はこちらをルシオ様に、と準備させていただきました。」
そういうと手元の小箱を開けてみせた。
「これは…。」
「金細工のカフスですよ。指輪やブローチといった華美なものはあまり好まれないかと思いまして。」
身につける貴金属はプロポーズに等しい。
衆目の前で受け取るのは合意と見做されるだろう。
「これは純粋なお祝いですよ。
もし、少しでも気に入ってくださったのなら受け取っていただけると私も作った職人も喜ばしい限りです。」
俺が逡巡していることを悟ったのか、そう言葉を付け足した。
「見事な細工をありがとうございます。裾から時折覗くカフス、さすがジェローラモ様はセンスが素晴らしいですね。このお礼はいずれ…。」
俺はそう言ってカフスを受け取った。
「よかったです。他意がないことを信じていただけたことが、何にも勝るお返しでございます。」
満足そうに言うと軽くお辞儀をして離れていった。
すると入れ替わりで王子がやってきた。
「おい、なんで受け取ったんだ!」
「なんでって、ただのお祝いでたいはないと言うから…。」
「そんなの建前に決まってるだろう。よりにもよってあんな遊び人に誑かされるとは。」
「いや本当に…。」
だって約束してるから、と言いたかったがジェローラモとの約束を知られるわけにいかず、言葉を濁してしまう。
「それなら俺からも贈ったら受け取るよな。」
「それは…。」
物によるとしかいえない。
「あいつは良くて俺はダメだと言うのか。」
「アダルは次期国王なんだからそう簡単な話じゃないよ。下手すると王子から下賜されたってだけで大ごとになるよ。」
「…。」
急に黙ってしまった。
「…。」
「…そうだな、悪かった。」
そう言うと王子は帰っていった。
助かりはしたが急に物分かりが良くなったのは不気味で嫌な予感がする。
…そして嫌な予感は的中、後日差出人不明の金細工のカフスがいくつも届いたのだった。




