24.貴族
「背がまた伸びたな、エリオット。」
今日はバルベリーニ男爵の屋敷、エリオットの家に来ていた。
昔から元々エリオットの方が色々とデカかったが、最近はさらに大きくなった。
一足先に大人になっていくようで悔しくて羨ましくて寂しかった。
俺は日本人としては普通だと思うが、周りと比べると3年は遅れて成長しているような感じがする。
「ルシオも伸びてるよ、多分。」
「多分ってなんだよ!もう、適当言うなって、一応伸びてはいるからな。」
「ははは、拗ねるな拗ねるな。」
いつもの明るく元気なエリオットだ。
誕生日の出来事以来あの時のような表情は見ていない。
王城での顔合わせで久々に会った時もいつも通りすぎて驚いた。
「入学準備は終わったのか。」
「ああ、俺は1人だし着替えとか最低限しか持って行かないからな。」
バルベリーニ男爵領は広大ではあるものの痩せた土地で、規模の割には収入が多くない。
そのため使用人も最低限で学園に連れていくのは厳しいのだ。
「向こうでは飯は一緒に食うだろ?エリオットの分も用意するよ。」
「それは正直ありがたい。食堂はほとんど平民らしいし馴染めなかったら地獄だ。」
「エリオットならすぐに友達もできるだろ。」
「俺にはルシオがいるから。」
顔は笑っているのに、雰囲気があの暗い表情の時と同じ気がする。
俺はまた地雷を踏んだか。
話を逸らさないと。
「そっか、洗濯とかも一緒にしてもらうから遠慮せず言ってくれよ。」
「すまんな!リカルドにはお世話になりそうだ。お礼しないといけないな。」
「そうだね。父に言って給金は上乗せしてもらうからそこは安心して。」
「侯爵閣下さまさまだ。」
よかった、いつものエリオットだ。
俺は純粋にクラスメイトと仲良くして欲しかっただけだが、新しい友達になすりつけて俺が逃げようとしたと思わたかもしれない。
思春期男子は繊細だからな、気をつけよう。
「子供のうちは恩恵は最大限に利用しないとね。」
「そういえば進路はどうする考えてるのか?」
「ひとまずは官僚目指そうと思ってるよ。」
「すごいな、ルシオなら大丈夫だろう。俺も家を出られたらよかったな。」
「エリオットは長男だし、弟はまだ3歳だからどうあがいても無理だな。」
「ああ、俺もそれは理解してるよ。でもこのまま没落してしまえば…
「冗談でも滅多なこと言うもんじゃないよ。エリオットのお父さんだってそうならないように代々引き継いだ家を守ってるだろう。」
「…実は冗談じゃないんだ。」
「どういうことだよ」
「ルシオも知ってる通り家はうまく回ってない。父も頑張ってるけど借金は減ることがない。現状維持だけでも大変だ。もちろん貴族として続けていくことはできるが、方々で頭を下げてお金を借りてまで頑張らなくて良いと言われたんだ。
正直、貴族という地位に執着はないし社交も向いてない。爵位返上して精算すれば一家で不自由なく生活することはできるんだ。」
「そうだったのか、何も知らないで偉そうに言ってごめん。」
「こんなこと知られたらそれこそ恥だからね、侯爵様には言うなよ。」
「ああ、わかった…。」
「貴族として腹を括るか、平民として再出発するかは俺の卒業までには決めることになってる。」
…そっか、様子がおかしかったのはこれが原因だったのか。
「俺も全力で応援するから、できることがあったらなんでも言ってくれ。」
「ありがとう。…ってなんでそんな暗い顔するんだよ。むしろ俺は色々なしがらみから解放されるかも知れなくて嬉しいんだぜ。もちろんご先祖様に申し訳なさもあるし他にできることはないか勉強は続けるが、漠然と生きるよりよっぽどいい。だからお前はそんなに気にせず横にいてくれたらいいんだ。
学園では食う飯にも困らないことが確約されたし、むしろこれからが楽しみだ。」
エリオットの笑顔に、俺も笑顔で返した。




