23.料理人
今日はカヴール侯爵領に来ている。
ジェローラモから新作歌劇を観に行こうと招待を受けたのだ。
半年前の告白の後、2度ほど観劇に来ている。
行きつけのレストランで食事をした後に観劇し帰るというのがすっかり定番コースとなっている。
料理も演目も毎回違っており、季節が楽しめる配慮は流石である。
今では荒んだ心を癒してくれる貴重な機会のため楽しみにしている。
「今日の料理もとても美味しかったです。」
「それは良かったです。実は今日の料理のいくつかは新しい料理人が作ったのですよ。」
「新しい料理人ですか。」
「ええ、実は隣国の元宮廷料理人なのですが、亡命後に雇われたお店でタダ同然で働かされていたようで保護したんです。」
「それはそれは…。亡命ということはヴィゴーレ王国の方でしょうか。これほどの腕であれば、ご自身でお店を出しても繁盛するでしょうね。ヴィゴーレの料理もあれば…。」
「ええそうです。私も彼には期待していますので、彼が独立する際には支援するつもりです。ただし過労の憔悴が癒えきっておらず長い時間はまだ厳しいため、もうしばらくはここのお手伝いをしていただくことになりました。」
「そうだったのですね、そのお店は今はどうなったのですか。」
「人気があるお店だったようですが、店主は賭博による多額の借金があったようで今回の件で廃業となりました。
ところで、今回このお話をしたのには理由がありまして…。
彼がお店を出せるようになった場合はアルタヴィラ侯爵領での営業をお許しいただけないかと。カヴールではヴィゴーレの店も既に何店舗かありますしせっかくなら。」
「承知しました。父に通しておきます。」
リカルドも故郷の料理が食べられたら喜ぶかもしれない。
「ありがとうございます。」
「そろそろ向かいますか。そういえば今日はどのような内容なのですか。」
「秘密です、今日が初演なので。他の方々と同じように楽しみにしていてください。」
観劇後の帰り道。
「今日の歌劇は当初お互いに片想いしている主人公達が、些細なすれ違いで別の方と結婚しそうになってハラハラしましたが、最後は一途な気持ちが無事届いて良かったです。」
「私も主人公のようにいつかは気持ちが届くと信じていますよ。」
「ははは…。」
肯定も比定もできず反応に困り、乾いた笑いしか出てこない。
「まだまだ絆されてくれそうにはありませんね。」
正直、食事や観劇を楽しみ会話をするこの関係は、今の俺にとって心地良いものなってきている。
最低限の敬語は保っているがお互いの口調も以前に比べ砕けて柔らかくなっている。
しかしそれは相手の好意の上に成り立っているのであって、ただの友情として享受し続けることはできない。
「まだ…時間をください。」
「ええ、もちろんです。待つと言いましたから。意識してもらいたくて意地悪してみただけなので気にしないでください。」
こうして考えているだけでも十分絆されている気がするが、「嫌じゃない」と「好き」は違う。
否定的な感情で受け入れるのは相手にも自分にも失礼なのでしたくない。
ゲームのジェローラモルートTrueエンドはオペラの「愛の妙薬」がモデルという裏設定があり、今回2人が観たのもそれです。15話で観た群像劇のオペラは「ラ・ボエーム」でどちらも実在します。分かりやすいストーリーで、オペラってなんか難しそう!という方にもおススメです。




