21.顔合わせ
学園入学まで後1年となった春のある日、俺は王城に来ていた。
王子と同年代で入学することになる貴族の子女十数人が改めて顔見せや事前説明のために集められていた。
流石に見知った顔ばかりだ。
学園では裕福な家が多いとはいえ生徒の大半が平民であり、王子を含め学年内ではあくまでも相互平等に接することや、従者の規則、入寮の際の注意事項といった内容だった。
そういえばゲームでは女の子で別の寮だったが、今回は別室とはいえ同じ寮になる。
年齢制限がつくようなことは起きないよなと一瞬不安になる。
自意識過剰かもしれないが鍵だけはしっかりかけておこう。
実はもっと根本的で大きな不安がある。
それは聖女についてだ。
正式な王太子になった王子の妃となる聖女。
魔法が存在しない世界ではあるが、聖女は特別であり神の加護により奇跡をもたらす存在として祀られる。
ゲーム中では確か…どこか下級貴族の家で聖痕を持った女の子が生まれたはずで、今日この場に似た姿の令嬢もいないのは不自然だ。
…今思い返してみると、そもそもこの世界で聖女について聞いたことがないかもしれない。
存在しないのか、隠されているのか、まだ見つかっていないのか。
「ルシオ、またなんか辛気臭い顔しているな!」
王子が俺の背中をばんばんと叩きながら話しかけてくる。
普段は鬱陶しく感じるけど、今はいてくれてちょうどよかった。
「殿下、実は…
「今は公の場か?…いやそうか、どちらかといえばそうだな…いやでも終わったから関係ないだろう。」
前言撤回、やはり鬱陶しい。
「アダル、実は王城内の図書館で調べ物をしたいんだけど、いいかな。」
「ああ。それじゃ行こう。」
「許可さえあれば自分で調べられる…
「そんなの面倒くさいだろ、歩く許可証がここにいるからな、あっはっは!」
肩を掴まれたまま引きずられていく。
「…今日は随分と機嫌が良いようで。」
「で、何を調べるんだ。」
図書館についた。
「神殿とか国の歴史について。」
「なんで今更。具体的には?」
「例えば過去の王妃についてとか。」
聖女、という言葉はあえて出さないようにした。
聖女は王妃となるのが慣習のはずだから王妃について調べれば何かわかるだろう。
「ルシオ、王妃についての勉強とは…王妃になりたいなら僕にそう直接いえばいいだろう。なぜそんな遠回しなことをするんだ。」
「とんでもない、純粋に知りたいだけだよ。」
「ふん、素直じゃないな。で?王妃の何を知りたいんだ。」
「王妃になった経緯かな。」
「お前、俺を揶揄ってるのか、やっぱり王妃になりたいんじゃないか。」
「いやだからなりたいわけじゃないんだって。そもそも男だし。どういった方がこれまで王妃になったのかなと。」
「過去に男の王妃がいたかを調べればいいんだな?」
「…やっぱり今日は帰る。」
「なんだ、怒ってるのか?」
「王妃を目指していないから調べる必要がないと気がついただけだよ。」
無駄に疲れただけだった。
…帰って家の蔵書を探すか。
あとはカルロにも聞いてみよう。




