18.狩猟祭
冬、俺は領内の狩猟祭会場に来ていた。
昨年までは兄が出ていたが、今年は忙しいことと俺が弓を持てる年齢になったからだ。
前世では高校の時に弓道部だったためそこそこは役に立つと思う。
こちらでは短弓が主流だったが俺は長弓にしてもらった。
今回は鳥を射って仕留めるわけではなく、剣での戦闘がメインで弓は補助的な役割となる。
熊など冬眠せず凶暴化し襲ってくる動物達を事前に森で倒し、領民への影響を防ぐのが今回の目的だ。
そんな獲物は弓では倒しようがない。
獲物がいない年もあるが、それはそれで安全に冬を過ごせるため問題ない。
2〜3人1組で分かれて森に入り、獲物を見つけたら笛を吹き威嚇しつつ、それを合図に逃げた獲物を追いかけるという流れだ。
俺は護衛のダンテと組んで森に入る。
リカルドは会場で待機だ。
森では常にダンテが先行する。
領内の森はそこまで大きくなく、森の終わりとなる湖まで徒歩でも2、3時間程度。
落葉している木が多いため見渡しもよく、不意に襲われる可能性も低い。
気をつけるのであれば落ち葉に隠れた…
ズサッ
「…うわぁ!」
「ルシオ様!」
痛てて。俺は落ち葉に隠れていた穴に落ちてしまった。
1メートル程の深さで幸いにも落ち葉がクッションになって助かったが、変な姿勢で落ちたせいで足を捻ったようだ。
「ダンテ、すまないが引っ張り上げてくれないか。足を捻って自力で出るのは難しそうだ。」
「大変申し訳ございません、足元の警戒が不十分でございました。ルシオ様はそのままで。私が降ります。」
そう言うと軽鎧を外し降りてきた。
「なぜ鎧を外した。」
「ルシオ様が痛がるかと思いまして…それでは失礼いたします。」
ダンテはそう言うと、俺を両手で横抱きにした。
…つまりお姫様抱っこだ。
軽々と穴から出ると来た道を小走りで戻る。
「すまない、背負う方が楽じゃないか?」
「いえ、問題ありません。まだ森の浅い場所でよかったです。ひとまず急いで戻って治療し代わりを探してもらいましょう。」
背負う方が楽だろうに…。
背も高く筋骨隆々、コワモテで常に愛想は無いのだが粗雑さはなく、こうして間近で見ると彫りが深く整った顔をしている。
男が憧れる男というものかもしれない。
筋肉に抱かれながらそんなことを考えているとすぐに会場に戻ってきた。
俺の姿を見つけたリカルドがすぐに駆け寄ってきた。
靴を脱ぐと少し腫れてはいたが折れてはいなさそうだ。
濡らした布を当て冷やしておく。
ダンテは代わりの手配もすぐに終えそばに控えていた。
「…せっかく弓も練習したのにな。」
「癒えたら改めて狩りに行きますか、ちょうど鴨の時期です。」
「弓で獲れるかな。」
「網の方が良いでしょうね。」
結局この日何も見つからず平和に終わった。
家に帰ると両親に呆れられはしたが、誰も怒られなかったのが救いだ。
リカルドが次は絶対同行すると言っていた。
これまでの護身用短剣の鍛錬に加え、これからはダンテと剣の鍛錬も始めるらしい。
ますますリカルドが万能執事になっていくな。
コンコン
寝室で目を閉じ今日の出来事を振り返っていると小さな音でノックの音が聞こえた。
「どうぞ。」
灯りも持たないダンテが暗いままの部屋に入ってくる。
「ルシオ様…起きておいででしたか。少々よろしいですか。」
「ああ、どうした?足のことは俺の自業自得だから気にしなくていい。」
「そうは言いましても…やはり護衛が最優先…、…怠ったのは間違いなく私の…。…穴の中…。」
元々寝る直前だったから意識が…。
「うん…次回以降はお互い気をつけよう。…それでいいじゃないか。」
「…ルシオ様も…、ご自身を責めないで…。」
「…ああ。」
「…」
そのまま俺は寝落ちしてしまったようだ。
エンディングまでは基本的に主人公の主観で進める予定なのですが、次回は例外としてダンテ目線の話を挟みます。
あと2、3キャラは1回ずつ挟むと思います。




