17.ジェローラモ
次の日。
俺は机に突っ伏して頭を抱えていた。
今俺を悩ませているのはもちろんジェローラモの件だ。
噂の真相を知り俺の彼を見る目は完全に変わってしまった。
そしてジェローラモのあの言葉。
元が乙女ゲームだったし、あの雰囲気から勝手に色恋的な話だと解釈してしまったが、俺は横に居て欲しいと言われただけなのだ。
好きとも愛してるとも言われていない。
…言ってほしい訳でもない。
ひょっとしたら言葉通りの意味で“友達”として横に居てほしいということかもしれない。
友情エンドに繋がるルートであれば俺は躊躇する必要はない。
きっと俺の考えすぎだと思いたい。
しかし、こういった状況は友達に報告したりするものだろうか。
元の世界ではこうした経験がないし、ゲームでは何度もやり直せるうえ狙った攻略対象以外との人間関係は二の次で、誰かを不幸にしようが主人公が破滅しようが全く気にしなかった。
あぁ、全部誰かに打ち明けて相談したい…。
言うとしたら幼馴染か。
昨日歌劇を観た、生魚を食べた、友達ができたとさらっと言ってしまおうか。
だが、ふと誕生パーティでの彼の姿を思い出した。
攻略対象である彼を変に刺激すると新しいフラグが立ちかねないな。
やはりやめておこうか。
アンナは聞いてはくれるだろうが…。
王城の件もジェローラモの件もトリガーとして関わっているようだった。
深読みのしすぎかもしれないが、仮にも悪役令嬢だし避けておこう。
後は…。
あ、いるじゃないか1人、兄のラウルだ。
兄は今年学園を卒業し本格的に父の仕事を引き継ぐ準備をしており忙しく、最近は夕食以外で顔を合わせることもほとんどなかった。
用件を書いたメモを兄に渡すようリカルドに頼んだ。
ジェローラモの件が衝撃的すぎて忘れていたが、最近様子のおかしい幼馴染や王子の件も相談しよう。
夕食の席でラウルから後で部屋に行くと返答があったため待っていた。
コンコン
「どうぞ。」
「急に驚いたよ、相談なんて。私を呼んだということは勉学や家のことじゃないんだろう。」
「うん、実は…」
ひとまず俺はジェローラモの件から話をした。
「なるほど、ルシオから恋愛相談されるとは感慨深いな。昔から妙に大人びたところはあったけどそういう話は聞かなかったよね。年相応の悩み、いいじゃないか。」
「いや別に恋愛相談というわけでは…。」
「誰がどう聞いても恋愛相談だよ。横に居てって、伴侶になってほしいってことだと本当はわかってるでしょ。だから悩んでる。」
「…まあ。」
「それで、事情はわかったけど相談の内容って?」
「一応プロポーズされたような状況だけど今後どう接したらいいのかなとか、エリオットとか他の人に言うべきなのかなとか。そもそも俺もジェローラモ様も男だし伴侶ってどうなのかなって。」
「相手は待つといってるわけだし接し方は別に今まで通りでいいと思うけど。エリオットは…やめておいた方がいいかもね。ジェローラモ様も自分から喧伝して回ることはしないだろうから気づかれる可能性は低いだろう。」
「そういえば兄さんはジェローラモ様の噂って知ってるの?」
「ああ、有名だからな。」
「なんでそういうことをしてるのかも?」
「そこまでは知らないけど、少なくとも悪い奴じゃない。
あそこの長兄とは次期侯爵家の跡取り同士で関わることも多いけど、弟達は優秀だとよく褒めている。
だから俺は噂通りの方だとは思っていない。」
「そっか。」
「卒業まで待つと言ってくれているのであれば、今はそれに甘えてゆっくり考えていいと思うよ。」
「わかった、ありがとう。…実はまだ相談あるんだけど、いい?」
「エリオットか。」
「そうだね、あと殿下。」
2人の件も簡単に説明した。
「はぁ、今はそんな感じなのか。エリオットは昔からルシオに対する執着がすごかったからな。」
「そうだっけ、ここ最近じゃなくて?」
「そうだよ、ルシオとエリオットが顔合わせの時からずっと。最初はなんか嫌ってるのかと思ったけど、ルシオのことしか見えてないって感じ。好意とも違う、私から見た感じでは執着って言葉がしっくりくるかな。」
「10年経つのに全然気づかなかった。」
「別に何かしたわけでもないからな。しかしまあ今そんな状況だったら尚更ジェローラモの件は徹底して隠すべきだろう。」
「わかった。」
「殿下の件は…特に気にしなくていいんじゃないか。立場もあるし、戯れだと周りも理解してくれるだろう。相手のペースに乗らないようにだけ注意しよう。」
「確かに。よかった兄さんに相談して。俺1人だと考えすぎて頭爆発するところだったよ。」
「頼ってくれて嬉しいよ。念のため私も3人の動向は気にしておくよ。」
「ありがとう、それではおやすみなさい。」
「ああ、おやすみ。」
心の中での呼び方がGから名前に変わりました。




