16.夕陽
「本日はいかがでしたか。」
「料理も歌劇も今までにない体験ばかりで本当に感動いたしました。」
「それはなんとも喜ばしい、私も招待した甲斐があったというものです。今回の演目は私の1番のお気に入りなのですよ。」
「演目だけでなく演者や衣装、舞台に至るまで非常に素晴らしかったです。とても優れた方々が集まっているのでしょうね。
…ところで実は、その…申し上げにくいのですが、ジェローラモ様のお噂のこともあり少し避けていたところがあったのです。これまでの失礼な態度について改めてお詫びいたします。」
「なるほど、それはそれは。ルシオ様は本当に素直な方でいらっしゃる。噂については心当たりがございます。節操がないと避けて当然のことですしお詫びは不要でございますよ。」
夕陽が差し込み黄昏の色に染まった車内を少しの間沈黙が支配した。
「あの…噂について、少し私の話を聞いていただいてもよろしいでしょうか。」
「はい。」
「私は…噂の通り多くのご子息ご令嬢と逢瀬を重ねてきましたが、実は私からお誘いしたことはなく、今まで誰とも恋仲にはなっていないのです。本日のように食事や観劇等を共にするだけで…もちろん相手方から想いを告げられることもありましたが、丁重にお断りいたしました。」
「そうだったのですか。」
誰彼構わずという表現は間違いではないが、手を出したというのは噂でヒレがついた結果というわけか。
「それに、私の家は金銭的な理由で埋もれている才能のある方々を支援しており、本業で忙しい父や兄に代わり各地を見て周っているのです。本日のレストランやオペラも支援している方々の一部で…。
時折父や兄へ報告も兼ねて家に帰るのですが、それが外から見ると放蕩息子が金の無心に帰るように見えるのでしょう。正当な対価だとは思っておりますが、家の手伝いでお金をもらっていることは事実でございます。
次兄が婿入りしたカロリング公爵家も支援に協力いただいている恩義から色々とお手伝いさせていただいております。」
放蕩生活にはそういった理由があったのか。
動機は全く違うが、目に見える部分だけをみると事実と言えなくもない。
「これまでご一緒した方々は皆私のことしか見ていなかったのです。私と一緒にいることが目的であり、どれだけ素晴らしい料理や歌劇等もただ一緒にいるための口実でしかなかった…。
私は私自身が素晴らしいと感じた感動を、同じ目線で一緒に楽しんでいただける方を探しております。
…逢瀬について広まった噂は、私を求める方とそうでない方を見分けるために都合がよかったのです。」
まあ見た目は青王子とも称されるほどで、三男とはいえ侯爵家だ。
それだけで寄ってくる人も多いのだろう。
…と、ここで俺は窮地にいることに気がついたが、もう遅かった。
「そんな最中、初めは義妹を迎えに行ったルシオ様の誕生パーティ、あの時はまだ私のことを見ていない方々の1人という認識でした。
そして先日義妹から王城のお茶会でのルシオ様のことを耳にしたのです。純粋に目の前の物事に向き合い楽しむ方だと。そして本日、こうして1日ご一緒してお話通りの方だとわかりました。…勇気を出してお誘いして本当によかった。」
これは間違いなく「あなたの心に灯火を」でジェローラモの心に火を灯しルート入りするイベントだ。
まだ学園入学前なのに。
今さらあなたに興味がないだけですと伝えても状況は変わらないだろう。
そっと俺の手を取り見つめてくる。
夕陽に照らされた顔が宝石のように光っている。
「どうか…私の横に居ていただけないでしょうか。」
想定外のことに言葉が出てこず、ただただ見つめ返すことしかできない。
「…急なことで驚かせてしまいましたでしょうし、今は私のことをよく思っていないことも理解しています。ですから今すぐ返事する必要はございません。」
「…あの。」
「ルシオ様もまだ14歳ですし、学園卒業の際にお返事いただいてもよろしいでしょうか。」
「学園の卒業…4年ありますがずいぶんと先なのですね。」
「もちろん、4年間何もしないということではありませんよ。私自身のことをこれから知っていただきます。きっと4年後ルシオ様が“一緒に居たい”と言わずにいられないようになっているでしょう。」
1番遠そうに見えた(と思っているのは筆者だけでしょうか)Gルートに入りました。
しかし他ルートも同時進行可能で早い者勝ちではありません。




