14.手紙
誕生日から数日経ったある日、一通の手紙が届いた。
送り主は…Gだ。
花付きの封蝋に薔薇の香水まで振ってある。
なんでこうも立て続きに、と頭を抱える。
一旦手紙を机に置き一息ついた。
精神統一で心を無にし、躊躇なく封蝋を手で剥がし開封する。
文面は意外に丁寧な文字で、手短に用件がまとめられてていた。
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親愛なるルシオ様、
いかがお過ごしでしょうか。
誕生パーティでのお約束の通り、次の休日を私にお預けください。
10時にお迎えにあがります。
それでは当日楽しみにしております。
愛を込めて、
ジェローラモ
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は?
手紙の裏や封筒の中に何もないことを確認し、再度手紙を確認する。
見間違いではなかった。
パーティでの挨拶で延々と呪詛を唱えていると思っていたが本当にそうだったのかも知れない。
話を全て聞いていなかった俺にも落ち度はあるが…完全にしてやられたな。
手紙を引き出しにしまい大きくため息をついた。
承知した旨の返事をした後の連絡はなく当日を迎えた。
今日は連れ出された後どこに行くのか何をするのか何も知らない。
「ルシオ様、ジェローラモ様がいらっしゃいました。」
リカルドが呼びに来たので馬車の停まっている表門に向かう。
「ジェローラモ様、本日はよろしくお願いいたします。」
「こちらこそよろしくお願いいたしますね。それでは早速出発いたしましょう。」
Gの実家であるカヴール家の馬車や従者のようだった。
Gは現在20か21歳。
普通なら後継でもない三男は既に実家を出て独立していておかしくはないのだが、まだ実家に身を置いているということなんだろう。
「失礼ながらルシオ様、実は今日来てくださらないのではと思っておりました。」
「ふぇ?」
今日のGは静かだなと思いながら車窓の外を眺めていたところ、ふと話しかけられて驚いたせいで少し間抜けな声が出てしまった。
「私がお話していた時、特に興味を持っていらっしゃらなかったようなので。パーティでの挨拶の最後も相槌か返答かわからなかったため、思い切って断られる覚悟で手紙を送ったのです。」
全部わかってやってたのか。
今日はなんか殊勝な態度だが、大人の男女はこうやって押したり引いたりして駆け引きをするのか。
こういった駆け引きを前世も含めて経験がないため俺は圧倒的に不利だ。
そもそもあの手紙は選択肢のないただの決定通知だった。
「そうだったのですか、無礼な態度を取ってしまい失礼いたしました。」
「とんでもないです、今日はこうしてご一緒できておりますので問題ございません」
断っていたら問題になったのか?
ジェローラモの呼称をGから呪詛ーラモに変更しようか悩みました。




