12.青王子
アンナとの挨拶では改めて誤解であったことと心配をかけたことをお詫びした。
「殿下のことで困ったことがあれば相談してくださいませ。わたくしでしたら殿下に釘を刺しても何も言われませんわ。」
「本物の釘ではないですよね。」
「うふふ、ではこのあたりで失礼いたしますわ。」
…否定しなかった。冗談なんだけど、ゲーム内での狂気を知っているせいかどこか本当に刺しそうな気がしている。
「ご機嫌よう、ルシオ=アルタヴィラ様。お誕生日おめでとうございます。」
アンナの次に居たのは招待した覚えのない顔だった。
「ご機嫌よう、ジェローラモ=カヴール様。本日はどうなさったのですか、いらっしゃると思わず驚ました。」
「アンナの付き添いで来たのですよ。昨年も今年も招待状を待っていましたが配達ミスなのか届いていなかったようなので。…あ、もしかしてどの家にいるかわからず送り先に迷っていたのでしょうか。それでしたらカヴール侯爵家でもカロリング公爵家でも私が受け取れるようになっているから大丈夫です。それと今回手ぶらではないので安心してください。」
相槌を打つ間もなく話し続けるGに卒倒しそうになる。
「ルシオ様、こちらをお受け取り下さい。」
…あ、話を聞いていなかった。
後ろ手で隠していたのか突然目の前に真っ赤な薔薇の花束を差し出されてまた固まってしまった。
「薔薇の花束は本数によって意味が変わることをご存知でしょうか。例えば…12本であれば交際のお申込み、とか。この花束の薔薇の本数を数えてみますか。」
「…え。」
ぱっと見絶妙な本数だ。
1、2、3…
…10、11、12、13、14本、よかった。
「14本あるように見えるのですが、こちらはどのような意味があるのでしょうか。」
「ルシオ様の年齢の数ですよ。」
青王子とも称されるその端正な容姿でパチンと音がしそうなウインクまでかましてきた。
こういうキザなところが若い子達には魅力的に映るのかもしれない。
「そうでしたか、香りもよく美しいですね。ありがとうございます。」
出来るだけ無感情に返す。
これには俺の恨みと嫉妬心と迂闊にもかっこいいと思ってしまう自分自身への戒めも込められている。
あらゆる手練手管を弄して籠絡してくるため油断してはならない。
「次は是非私も招待してくださいね。行きつけのレストランがあるため食事でしたらこちらからもお誘いできますので都合の良い日を教えてください、いつでも迎えに伺います。ちなみにどういったものがお好みですか。苦手なものがあれば事前に料理人に…。」
決して早口ではないのだが、相変わらず一方的に話してくる。
元々こういうタイプなのか、目の前にいる俺が思った反応と違っていたため焦っているのか。
延々と話してくるためだんだん呪詛でも唱えているのではないかと思い始めた。
「…というわけですが、よろしいでしょうか。」
「…えっ、はい?」
また話を聞いていなかった。
「それではまた改めて伺いますね、ご機嫌よう。
「あっ、はい。ご機嫌よう。」
勢いに押され反射的に返事をしてしまった。
ようやく解放された安心感で、彼が言い残した言葉を気にも留めていなかった。




