1.幼馴染
俺は乙女ゲームが好きだ。
とはいっても恋愛シミュレーションゲームが好きというだけなのでギャルゲーも好きだ。
子供の頃から隣の席の子や同じ部活の子を好きになっては「優しいとは思うんだけど…」「友達として…」と振られ続け、連敗続きの現実の恋愛に疲れてしまい、だんだんゲームに没頭、気がつけば恋人いない歴=年齢を現在も更新中である。
今ハマっているゲームは「あなたの心に灯火を」という、ヒロインの侯爵令嬢が学園生活の中で攻略対象と仲を深めて救う(=心に火を灯す)ことで対象と結ばれるよくある学園モノの乙女ゲームで、例に漏れず悪役令嬢や聖女といったキャラクターも登場する。
ルートによって対立することはあれど理不尽な悪は登場しないためストレスフリーなのも個人的には評価が高いポイントだ。
そのほかにも同性としても憧れるような魅力的な攻略対象、豊富な選択肢で変わるヒロインの性格による没入感、マルチエンディングのためやり込み要素満載という売りがあり、実はまだ1人目の王子ルートのエンディングとスチルを回収中。
ピコン♪
「誰からだ?」
スマホの通知の内容を確認する。
--今度の連休飲み行こう--
幼馴染からの連絡だった。
小学生からの付き合いで気づいたらかれこれ20年以上になる。
ゲームのためすっかり出不精になってしまった俺のことをこうして定期的に誘ってくれる数少ない存在だ。
肯定の返事をして、その後はまたゲーム攻略に戻った。
「アキラ!」
「ヒロ、ごめん!ゲームの余韻に浸ってたらそのまま寝ちゃってて…」
「大丈夫だよ、予約の時間ぴったりだし。とりあえず店入ろう。」
「本当にごめん…」
「だから大丈夫だって。とりあえずなんか頼もうよ。」
「じゃあ俺はレモンサワーで!あとだし巻き卵と刺し盛りと…」
ヒロは昔から聞き上手で俺のゲームの話も退屈そうな顔ひとつせずよく聞いてくれる。
よく飲み、よく食べ、よく笑う健康優良児って感じのヒロだが、今日はあまり酒が進んでいない。
「なんかあった?」
「いや特に、なんで?」
「いつもだったら4、5杯は飲んでるのにまだ2杯目じゃん。」
「…なにもないって、昼飯食うのがちょっと遅かったからかも」
「なんだよーそっちが誘ってきたのに。」
「ごめんごめん。そういえば今日このあとどうする?家来る?最近来てなかったよね。」
「うーん、どうしよっかな…連休中にゲームも進めたいしな。」
「そっか、年末には終わる?」
「流石に年末までには攻略も出尽くしてるだろうしフルコンプは余裕だと思うよ。」
「それなら年末は泊まりにおいでよ、初詣も行こう。」
「いいね、大丈夫だよ。ヒロだけだよ、俺のことを誘ってくれるの。」
「ははは、俺も誘うのアキラだけだよ。」
「え?! いやいやそんな口説き文句じゃあるまいし、ドキッとしちゃうじゃん。」
「…そうだね。あ、そろそろ席の時間みたいだから出ようか。」
会計を終え、最寄りの駅まで歩く。
なんだか店を出てから口数も少なく少し気まずい。
「…年末だけど、蕎麦とかおせちとかどうする?」
「事前に解凍必要だし俺が買っておくよ。何か希望とかあった?実は作れるとか。」
「なます?酢漬けとかなら作れる…かも。」
「ははは、冗談だよ。買っちゃおう、その分ゆっくり過ごそうよ。」
「そうだね、それじゃ俺はお酒とかつまみ系買ってくよ。」
「いいね。あー楽しみだ。早く年末にならないかな。」
ふと横へ振り向くと、楽しそうに笑いながらこちらを見ていたヒロと目と合った。
半月のように綺麗なその目は、お酒のせいか赤く潤んで熱を帯びて見えた。
そして俺がヒロを見た最後だった。