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第一章:完璧な悪役(を演じる私)と、誤解が深まる推し

 三度目の転生。

 私は覚悟を決めた。


 前世、いや、前々世では「善行を積んで断罪回避」を試みて失敗した。


 前世(二度目の人生)では「シナリオ通りの悪役」を演じたら、なぜか王子たちに好かれてヒロインルートに入りかけてしまった。

 あの時は本当に頭を抱えたものだ。まさか、悪役令嬢が王子と聖女に囲まれて「セシリア様は不器用だけど愛らしいですね」などと囁かれるとは、一体どこの悪役令嬢物語だと!

 そのせいで、カイン様は救われることなく闇落ち寸前だったのだから、まさに悪夢だった。


(くっ……今回は絶対に間違えない。最高の悪役になって、カイン様を幸せにしてみせる!)


 私は、まずカイン様との接触を徹底的に避けることにした。


 彼と会えば、私の推しへの情熱が抑えられなくなり、悪役としての冷酷さが揺らいでしまうかもしれない。

 しかし、学園で彼と顔を合わせる機会は避けられない。


 ある日、図書室の片隅。


 カイン様は、いつものように誰にも気づかれないように、ひっそりと分厚い古書を読んでいた。

 窓から差し込む光が、彼の黒髪と憂いを帯びた横顔を照らし出し、あまりの尊さに私の心臓は高鳴る。


(だめだ、セシリア! 今こそ、彼を突き放すのだ! 彼を孤独にすることが、彼の未来の幸せに繋がる!)


 私は、震える足を叱咤し、カイン様の隣の席にドンッと音を立てて座った。

 そして、わざとらしく大きなため息をつき、聞こえよがしに呟く。


「まったく、こんな薄暗い場所で、いつも陰気な顔をして。あなたのような方がいらっしゃるから、この図書室まで暗く澱んで見えるわ」


 完璧だ。我ながら、悪役令嬢として非の打ち所のないセリフだ。

 カイン様は、ゆっくりと顔を上げた。

 その瞳が私を捉え、私は内心で(お願い! 嫌って!)と叫んだ。


 しかし、カイン様の口から出た言葉は、私の予想とは全く違っていた。


「……そうですか。あなたも、この場所が『薄暗い』と感じますか」


 彼は、ふっと、儚い笑みを浮かべた。


「この図書室は、私にとって唯一、心が安らぐ場所でした。誰にも邪魔されず、自分の世界に没頭できる。

 ……しかし、確かに、孤独を愛する者にとって、この薄暗さは心地良いのかもしれません。

 あなたも、同じ孤独を抱えているのですね」


(は!? 何を言ってるのこの方は!? 孤独!? 私が!?)


 私は心の中で絶叫した。

 私は悪役令嬢としてわざと嫌味を言っただけで、孤独など感じていない。

 むしろ、周りから嫌われることこそ望んでいるのだ。


「馬鹿なことを言わないで! 私はただ、あなたが目障りだと言っているだけよ!」


 私は、さらに冷たい言葉を浴びせる。顔が引きつりそうだ。


 しかし、カイン様は、私の言葉にも動じなかった。


「……そうですね。私が目障りであることは、重々承知しております」


 彼は、また静かに目を伏せた。


「ですが、あなたの言葉は、不思議と耳に心地良い。

 誰も私のことを顧みない中、こうして声をかけてくださる方は、あなたしかいませんから」


(うそでしょ!? 私、突き放したつもりなんですけど!?)


 その日から、私の「完璧な悪役計画」は、カイン様の前でことごとく空回りすることになる。


 私がわざと彼の本を高い棚にしまい込もうとすれば、彼は「私が届かない場所まで本を取ってくださるとは、何と優しい方なのでしょう」と、逆に感謝の言葉を述べた。

 私が彼が座っていた椅子を蹴り倒そうとすれば、彼は「私が休憩するための気遣いでしょうか? ありがとうございます」と、座り直して微笑んだ。


(なぜだ!? なぜ私の悪役ムーブは、こうもポジティブに解釈されるのだ!?)


 私は日々、頭を抱えた。

 ヒロインの隣で、カイン様が癒やされ、本来の力を発揮してくれる未来のために、私は悪役として彼の心を徹底的に凍らせなければならないのに。


 そんな私の状況を、光の王子アベルや騎士団長、天才魔術師たちは、相変わらず「セシリア様は、不器用ながらもカイン殿を気にされているのですね」と、的外れな解釈をしていた。

 彼らの善意ある、しかし私にとっては邪魔でしかない視線が、私の完璧な悪役計画をさらに狂わせていく。


(ああ、カイン様……どうすれば、あなたは私を嫌ってくださるの!?)


 私は、今日もまた、推しのために嫌われようと奮闘する悪役令嬢の皮を被った私と、その努力を全く理解しない推しキャラとの、奇妙な日常に苛まれていた。

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