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女神の涙  作者: 白崎なな
15/16

15話 シスター

「おはようございます」


 朝早くから部屋を出て、昨日受けた教室に向かう。なにも言われなくとも、今日もシスターエディの授業がある。



「おはようございます」



 目元まで覆った黒いヴェール、黒いシスターの服。そして、柔らかな笑みを浮かべる。



「今日も授業をして、祈りを捧げましょう」




 優しそうな声でシスターエディは、そう言う。それが、私には洗脳のように聞こえてならない。でもここで変に態度へ出してしまえば、疑われる。


 嫌悪感をぐっと堪えて、私もにこやかな表情を作る。イレナにもらった鏡で、自然な笑顔かどうか直前に確認をしたのだ。





 昨日は、第二章までの授業を受けた。きっと今日は、第三章。




 人間の罪を奴隷の子どもへ……という心苦しい章の次は、一体どんなことが描かれているのか。どうしてもページを捲る手は重たくなる。




「今日は、簡単なはなしをするわ」




 第三章と書かれた扉ページを開く。




「シスターと女神……そして女王との関係性について……」

 


 

 女神も元は、人間。そして女王の立場は、いちばん女神に近い存在。そう言われてきた。

 でも実際はこうして特別授業を受けた、金の髪を持つ少女が洗脳をされてできあがったもの。



 それを悟られまいと、シスターは笑みを絶やさない。不自然すぎるのに、洗脳というのはそれを信じてしまうほど恐ろしいのだ。




 なんとなく気づいているからなのか、最初から不信感を抱いていたからそう感じるだけなのか。





 どちらにせよ、私はこのシスターエディのことを信用できない。




「シスターたちは、あなたがたを歓迎しています」




 それも、使い捨てのコマとしてでしょう? そう心の中でつぶやいてしまう。ムスッと顔に出さないように、唇に力を入れる。




 チラリと横目でエレーナを見れば、嬉しそうな顔をしていた。彼女は純粋だから、シスターの言うはなしを真に受け入れられるのだろう。




「どんな悩みでも、私たちが助けてあげますよ」




 両手を軽く広げるシスターエディは、嬉々としている。私たちが、こうすれば喜んで尻尾を振ると思っているに違いない。現に、エレーナはパチパチと手を叩いていた。私も同じように拍手をして、自然に振る舞う。




 女王という大役に、私たちのような年齢の子どもが務めるには荷が重い。だから、支えてくれる存在(シスター)は心強いのだ。それを悪用されているようで、胸が締め付けられる。



 ――私は私の願いを叶えるのみ。




「さぁ、今日も祈りを捧げましょう」



 そうしてシスターエディに続いて、今日も祈りの場に足を運ぶ。私と同じ背丈の女神像の前には、昨日は見かけなかったシスターたちがいた。シスターエディと同じ黒いヴェールで目元を覆い、黒いドレスを身にまとっている。スッと頭を軽く下げられた。



 ここにいるシスターが全員なのかは分からないが、かなりの人数が並んでいた。





 シスターの列にシスターエディが加わり、くるりと反転をして女神像の前で膝をつく。祈り開始だ。

 日中で御信託が降りる可能性は無いが、私とエレーナは離れて膝をついて祈る。




 私の頭の中は、この人たちを跳ね除けるためにはどうしたらいいのか……でいっぱいだった。女王としてやりたいことはひとつだけ。だから、それ以外はシスターたちの言うことは聞ける。




「さぁ! 今日は、ここまでにしましょう」



 その声に私は、顔をあげた。昨日とは違って、祈り時間は一瞬で終わった。私とエレーナは、顔を合わせた。




「昨日はできなかったから、館内を案内します」




 普通なら、初日にするものなのに。来た日は、自力で部屋を探さなくてはならなかった。




 シスターエディだけが残り、他のシスターは身をひるがえして祈りの部屋から出ていった。エレーナが先に立ち上がり、シスターエディに近づいた。



 痺れもないのですぐに動けるが、知らないところでこれだけのシスターに見られていたのか。と思うと、居心地が悪い。さらに昨日のことについてなにも言及してこないあたり、より気持ち的に重たい。




「過去の女王さま候補の方が、よく利用していたところを案内します。まずは、図書室……」

 


 明るいトーンで、案内が始まった。昨日見たパイプオルガンの部屋の前を通る。3人の足音だけが廊下に響く。




 なんの説明もなく、シスターエディはスルーをした。




 やはり、あのパイプオルガンの女神像にはなにかある。どんなことが、隠されているのだろうか。それとも、隠したい理由があるのか。


 いずれにせよ、気になって仕方がない。

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