15話 シスター
「おはようございます」
朝早くから部屋を出て、昨日受けた教室に向かう。なにも言われなくとも、今日もシスターエディの授業がある。
「おはようございます」
目元まで覆った黒いヴェール、黒いシスターの服。そして、柔らかな笑みを浮かべる。
「今日も授業をして、祈りを捧げましょう」
優しそうな声でシスターエディは、そう言う。それが、私には洗脳のように聞こえてならない。でもここで変に態度へ出してしまえば、疑われる。
嫌悪感をぐっと堪えて、私もにこやかな表情を作る。イレナにもらった鏡で、自然な笑顔かどうか直前に確認をしたのだ。
昨日は、第二章までの授業を受けた。きっと今日は、第三章。
人間の罪を奴隷の子どもへ……という心苦しい章の次は、一体どんなことが描かれているのか。どうしてもページを捲る手は重たくなる。
「今日は、簡単なはなしをするわ」
第三章と書かれた扉ページを開く。
「シスターと女神……そして女王との関係性について……」
女神も元は、人間。そして女王の立場は、いちばん女神に近い存在。そう言われてきた。
でも実際はこうして特別授業を受けた、金の髪を持つ少女が洗脳をされてできあがったもの。
それを悟られまいと、シスターは笑みを絶やさない。不自然すぎるのに、洗脳というのはそれを信じてしまうほど恐ろしいのだ。
なんとなく気づいているからなのか、最初から不信感を抱いていたからそう感じるだけなのか。
どちらにせよ、私はこのシスターエディのことを信用できない。
「シスターたちは、あなたがたを歓迎しています」
それも、使い捨てのコマとしてでしょう? そう心の中でつぶやいてしまう。ムスッと顔に出さないように、唇に力を入れる。
チラリと横目でエレーナを見れば、嬉しそうな顔をしていた。彼女は純粋だから、シスターの言うはなしを真に受け入れられるのだろう。
「どんな悩みでも、私たちが助けてあげますよ」
両手を軽く広げるシスターエディは、嬉々としている。私たちが、こうすれば喜んで尻尾を振ると思っているに違いない。現に、エレーナはパチパチと手を叩いていた。私も同じように拍手をして、自然に振る舞う。
女王という大役に、私たちのような年齢の子どもが務めるには荷が重い。だから、支えてくれる存在は心強いのだ。それを悪用されているようで、胸が締め付けられる。
――私は私の願いを叶えるのみ。
「さぁ、今日も祈りを捧げましょう」
そうしてシスターエディに続いて、今日も祈りの場に足を運ぶ。私と同じ背丈の女神像の前には、昨日は見かけなかったシスターたちがいた。シスターエディと同じ黒いヴェールで目元を覆い、黒いドレスを身にまとっている。スッと頭を軽く下げられた。
ここにいるシスターが全員なのかは分からないが、かなりの人数が並んでいた。
シスターの列にシスターエディが加わり、くるりと反転をして女神像の前で膝をつく。祈り開始だ。
日中で御信託が降りる可能性は無いが、私とエレーナは離れて膝をついて祈る。
私の頭の中は、この人たちを跳ね除けるためにはどうしたらいいのか……でいっぱいだった。女王としてやりたいことはひとつだけ。だから、それ以外はシスターたちの言うことは聞ける。
「さぁ! 今日は、ここまでにしましょう」
その声に私は、顔をあげた。昨日とは違って、祈り時間は一瞬で終わった。私とエレーナは、顔を合わせた。
「昨日はできなかったから、館内を案内します」
普通なら、初日にするものなのに。来た日は、自力で部屋を探さなくてはならなかった。
シスターエディだけが残り、他のシスターは身をひるがえして祈りの部屋から出ていった。エレーナが先に立ち上がり、シスターエディに近づいた。
痺れもないのですぐに動けるが、知らないところでこれだけのシスターに見られていたのか。と思うと、居心地が悪い。さらに昨日のことについてなにも言及してこないあたり、より気持ち的に重たい。
「過去の女王さま候補の方が、よく利用していたところを案内します。まずは、図書室……」
明るいトーンで、案内が始まった。昨日見たパイプオルガンの部屋の前を通る。3人の足音だけが廊下に響く。
なんの説明もなく、シスターエディはスルーをした。
やはり、あのパイプオルガンの女神像にはなにかある。どんなことが、隠されているのだろうか。それとも、隠したい理由があるのか。
いずれにせよ、気になって仕方がない。




