表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女神の涙  作者: 白崎なな
13/13

ep.13 女神像

 私はエレーナの腕を引いて、祈りの部屋をあとにする。どこに向かうのか、と聞かれると明確にはできない。それでも、ここで立ち止まっているわけにはいかないのだ。



「もういちど聖書を読みましょう。しっかり読み込むことで、分かることもあると思うのですわ」



 

 ニコニコとしたエレーナは、大きく頷いた。シスターエディは、各自の部屋をと言っていた。それなら、部屋でゆっくりと読み込むのもいいかもしれない。


 まずは、自分の部屋を探す必要がある。シスターエディがここまで案内をしてくれた。ほかにシスターも見ていないことから、この特別授業棟の案内はしてもらえない可能性が高い。




 案の定、祈りの部屋を出てから誰ともすれ違いをしない。キョロキョロとあたりを見渡して、与えられた自室を探す。




「リシェルは、どこに向かっているの?」

「先ほどシスターエディがおしゃっていた、自室を探していますわ」



 エレーナの唸る声が、うしろから聞こえてきた。私はその声に振り返ると、彼女は少し俯いて考えごとをしているようだ。どうかしたのか心配になる。



 俯いた彼女を覗こうとして、膝を軽く折った。




「どうかされましたか?」

「こんなにも誰もいないなんて……おかしくはないのかしら?」




 エレーナが疑問に思うのも無理はない。私もエレーナも家柄的に、たくさんの使用人を抱えている。廊下を歩いていて、こんなにも静かなのは違和感でしかないのだ。


 


 

 それになによりも、私たちはここにきて初日。はじめての場所なら尚更、案内人をつけるべきだろう。




 ともなれば、これは罠?




「うぅん……でも、私たちはあくまで自室を探している。それだけですわ!」



 自室を探している過程でなにか発見できたら、棚からぼたもちだ。それに、なにか言われても堂々たる口実がある。むしろ、胸を張って歩いていた方が自然に見える。




 案内人がいないというのは、ある意味好都合。




 シスターエディがはなしはじめ、重厚感のあるパイプオルガンの音が聞こえてきた。その時に聞こえてきたパイプオルガンが、通り過ぎた部屋の隙間から一瞬見えた気がした。




 私はハッとなり、少し引き返す。



「どう……」

「お静かに!」



 エレーナが話しはじめたのをサッと止めた。扉を開き、中に入る。木の香りに包まれた室内は、癒し空間となっていた。しかし私は、ドキドキとした気持ちでいっぱいだ。



 金と銀で出来た美しいパイプオルガンは、壁に取り付けられている。私の隣では、エレーナが目を輝かせていた。



 パイプオルガンの中央に女神像が埋められている。その女神像は、普段見る姿とは違った。私たちが祈るように、膝をついて祈りを捧げているのだ。こんな姿の女神像は見たことがない。




「女神さまが、祈りを?」




 目を輝かせていたエレーナも気がついたようだ。セシル家は宗教に関わる家。私が思うよりも、エレーナの方がきっと不思議に思っているに違いない。




 女神さまは祈りを捧げ()()()側であって、祈る側ではないのだから。この祈る仕草は、あまりにも不自然だ。



 しかも表情は悲しみに満ちていて、今にも涙が流れそうな表情をしている。このパイプオルガンは、なにを意味しているのだろうか。不思議に思い、さらに一歩近づいた。



 コツンッと自分の足音が室内に響く。音を立てて歩いたつもりはないが、どうやらこの部屋はよく響くようにできているらしい。小さな足音がこだまして、大きな音になっていく。

 きっとそうして、他の部屋にいた私たちの元に音楽を届けたのだろう。




「うぅん、これは……一体どういう、」



 エレーナは、自分の世界に入り込んでいた。腕を組んで悩み、顎に手を持ってきては悩み。頭を必死に回転させているように見える。






「ここで考えていても、答えはきっと出ませんわ。どこかにヒントがあるかも……探し出しましょう!」

「確かに、そうかもしれないわ」



 この部屋を見渡しても、壁一面のパイプオルガン、女神像。それから、演奏者が座るための椅子のみだ。



 木製でできた椅子の座面に、なにか文字が書かれている。私は、エレーナに手招きをして椅子の方へと近づいた。




「さいだん?」

「えぇ、そうみたいですわ」




 辿々しい読み方で椅子の文字をエレーナが読み上げた。全くピンとこない、私とエレーナは顔を合わせて首を傾げた。



 祭壇と言われても、どこのことか分からない。いつも祈りを捧げていたあの広場だろうか。それとも今日、祈りを捧げた祈りの場だろうか……。





 解明させなくてはいけない問題が増えてしまった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ