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③引っ越し準備だ!マイコニドのマイコ(舞妓)はん!

初めて長屋の前で出会った、ぶよぶよの舞妓・マイコと、瓶底メガネのリリィ。

思い出の一枚としてリリィがセルフィーを撮った――はずだった。

挿絵(By みてみん)

「オーマイガー!? Why? 二人とも……まるで80年代のアニメキャラみたいデース!?」

リリィは目をぐるぐるさせて叫んだ。

「もしかして…セルフィーが…セルフィーが…セル!? そういうことデスかーッ!?」

マイコはきょとんとしながらも、ぽつりとつぶやく。

「…ウチは、何やよう分かりまへんけど…リリィはん、こういう時はアレやで〜?」

「オー、アンダスタ!……チキショー!!」

そんなチグハグなふたりの、はじまりの一枚だった。


・・今回、リアル?な『マイコニドのマイコはん』のイラストがありますので、ご注意下さい!(。-人-。) ←え?


――築70年の長屋――



時代の風をまといながら、今も息づく、昭和の面影を残した木造建築。


「ふぅ・・これぞ、わびさびどすなぁ・・」


引っ越してきたばかりのマイコの部屋は、畳と天井の裸電球だけ。


家具も布団も何もない。


「・・何もあらへんのも、まぁ心は落ち着きますけど・・」


静かに畳に正座しながら、引っ越したての長屋102号室。


どこか懐かしさの漂う木の香り・・と、ほどよい湿気が心地よい。


キノコだから。


「ウソ!?ナッシング?ナンモナイ!?ビックリ、ですヨ!?ノー布団、ノー冷蔵庫、ジャパニーズゼンの修行デスカ!?」


そんな湿気を吹き飛ばすような勢い・・テンションの高いカタコトの日本語。


長屋の101号室に住む異国の少女、リリィー・ジューンブライド。


マイコよりも先に住んでいるということで、この長屋を案内してくれた足で、マイコが住むことになる部屋まで一緒に来たのだった。


左右に結んだ金髪のツインテールが夕暮れに揺れて光る。


「ホントに引っ越し荷物、ナッシングナンデスね!?・・マイコはん、イママデどーしたデスカ!?」


瓶底メガネをかけた顔が、驚きと共にマイコを見つめる。


座布団一枚もない畳に、マイコとリリィが座って話をしていた。


「はぁ~・・それがようわからへんのどす・・土ん中から出てきた思たら、お空から雷はんがバリバリって・・」


リリィの勢いに戸惑いながらも、正直に語るマイコはん。


「その時、なんや頭の中がぱあっと真っ白んなってしもて・・せやさかい、何処から来たんかも・・ほんま、よう思い出せへんのどす・・」


小首を傾け、頬に手を当て、思案顔のマイコ。


「・・気ぃついたら、見知らん街で、着物もボロボロで・・」


ふと、指先を見つめながら。


「・・ウチは、どこに行きとうて、出てきたんやろうなぁ・・」


しかし、何も思い出せず、ほぉっと出るのはため息だけ。


「ト・ツ・ゼ・ン、地面から生える!?え、まさか、あなた・・マイコ菌の化身!?Japaneseにはマイコはんが生える山がアリマスカ!?ワーオ!?ベリー・サプライズ!?」


リリィは目をぱちくりさせた。


マイコは困ったように笑い、ぶよぶよの手を合わせて言う。


「・・でも、ほんまにようわからんのどす・・」


リリィはマイコをしばらく見つめて考え込み・・それから胸を張った。


「オーケー!わかりマシタ!ワタシ、ホストのレンからもらったお金、あるデス! マイコはんの生活に必要なもの、いろいろ準備シマース!オフトゥンとかhome appliansesとか!、あと・・着物モ?」


「え、ええと・・おおきに、リリィはん・・でも、どこで、どないして・・?」


「わたしのスマホでデリバリー!インターネット・ショッピング!すぐ来るヨ!」


リリィはスマホの画面をマイコに見せる。


「・・まあ・・こない便利な世の中になってるんどすなあ・・」


ピッと押せばすぐ荷物が届く仕組み――マイコにはまるで魔法のようだった。


マイコは目をぱちくりさせたあと、小さく手を合わせた。


「なんや、ウチは・・ようわからへんことばっかりで・・すんまへん、ほんまに・・」


リリィは満面の笑みで親指を立てた。


「ノープロブレム〜☆!これは“友情アシストモード”デス!トラディショナル・ガールinモダン・ジャパン、フルサポートしマスよ〜!」


リリィはスマホを握りしめ、目を輝かせていた。


「・・ウチ、自分のこと、よう思い出せへんし・・もしかして・・どこにも居場所なんて、ないんかも・・そう思うてしもうたけど・・」


文字通り右も左も分からぬマイコ、少し寂しそうに縮こまる。


「マイコはん、Here is your place!この長屋、あなたのニューホーム!あたし、保証するデス!」


「おおきに、リリィはん・・こない優しゅうしてもうて・・」


マイコの目元が、ほんの少し潤んだように見えた。


「・・ほんまに・・なんにもお礼できへんけど・・・」


マイコはそっと立ち上がり、両手を胸の前に重ねる。


「せやけど、ひとつだけ、忘れんもんがあるんどす」


リリィがゆっくり顔を上げ、マイコの方を見る。


「・・ウチは、舞いの者や・・」


そのぶよぶよな白粉の顔にさえ、どこか神聖な気配が漂っていた。


「・・もし、良ければ・・ここで、ひとつ、舞わせてもろても、よろしおすやろか?」


リリィは一瞬ぽかんとし、それから笑顔になって頷いた。


「Yes please!マイコはんのダンス、ミー want to see!Here is your ステージ!」


頷くとマイコは一歩、畳の中央へと進む。


静かに一礼すると、ぶよぶよの足をすっと引いて、独特のリズムで身を揺らし始めた。


ぶよぶよで、たるんだ右手を胸元へ。


いつの間にか、そこにはシンプルな扇が握られている。


雨の音が、ぽっ、ぽっ、と、拍子を打つ。


左の指先が、空をなぞるように滑らかに広がる。


挿絵(By みてみん)


その瞬間、リリィは言葉を失った。


マイコの舞には、旋律がない。


けれど、そこには流れている”調べ”があった。


雨粒が木の葉を打つ音。


地面が湿る音。


遠く水の溜まるアスファルトの響き。


それらすべてが舞の一部に溶け込んでいく。


手の甲を返し、空を見上げる。


畳の上、ほんの数歩分の空間。


舞台ではない。ただの、古びた一室。


けれどそこに、確かに“舞台”が生まれた。


絢爛豪華な装束も飾りもない。


だが、彼女は確かに――()()だった。


外膜がふるふると波打ち、そこからこぼれるように、銀のような微粒子がふわりと舞った。


見た目は異様だが、その動きには確かに舞妓の伝統的な所作の名残があり・・


そして――何よりも、感情がこもっていた。


「……っ……」


リリィはただ、呆けたように見つめていた。


けれど――その時。


ピピッ! ピピッ! ピーーー!


彼女に装着された銀色のデバイス――腕時計が鋭く鳴り響いた。


「!?……わーお!?ノーグッド!?ちょっと……Wait、ストップ、ストップ!!」


ぶよぶよとした動きを止め、マイコが戸惑いながら静かに振り向いた。


「・・ウチ、なんかおかしいこと・・?」


リリィは慌てて、ブカブカなダサいジャージの袖で装置を隠し、ぎこちなく笑う。


「ノープロブレム、ノープロブレム!ちょっと、えっと、Just watch problem!デバイス・アラームがね、バグ!Yes、バグです!」


彼女の笑顔はぎこちなく、どこか焦っていた。


「それより、今フロ!バスタイム!汗かいたネ?いいお湯入ってリラックス〜デス!」


マイコは少し不思議そうに見つめたが、深く追及しなかった。


「・・そうどすか。なんや、ウチの動きがあかんかったんかと・・・」


マイコはしばらく黙っていたが、やがて小さく頷いた。


「・・確かに、ウチの身体、なんや緑のコケみたいなの生えてますし・・」


どうやら着ていたのは、緑色の着物では無かった。


「ほな、そうさせてもろても・・おおきに、リリィはん」


リリィはパッと顔を輝かせた。


「Yes yes!バスルーム・タイム!!フロ・イズ・ジャパニーズ・スピリット!!」


「そのあいだに、ワタシ、ごはんと・・あと、ちょっとお部屋整えとくデス!」


マイコは小さく笑ってうなずいた。


「ほな、お言葉に甘えて・・おおきに、リリィはん」



――マイコが手ぬぐいを持って、長屋の簡素な浴室へと向かっていく。



なお、長屋の風呂は共用である。


「ほな、湯に浸かってきますさかい。リリィはん、戸締まり頼んますえ」


「オッケー!ゆっくりあったまって〜☆」


リリィはニッコリと笑顔を浮かべ、ぶよぶよの体が完全に消えるのを見送った。



・・と、リリィは急いでスマホを取り出し、”菌濃度測定アプリ”を開いた。


表示されたのは、「未安定舞胞子感応波:レベル2/最大7」。


そして、画面には英語でこう表示された:


“HOST INDIVIDUAL REACTION: POTENTIAL CROSS-DIMENSIONAL PHASE DETECTED.”


(ホスト個体の反応:次元をまたぐ位相変化の可能性を検出)


リリィは額に手を当ててため息をついた。


「マイコはん・・アナタ、たった今、()()()()()()()()()()()()()()()デスよ・・でも・・それでも・・」


リリィは表情を一変させる。


手慣れた動作でスマホの無線通信アプリを起動した。


リリィ声を潜め、


「Subject has been secured. Relocated to the target perimeter. Temporal dissonance stable. No signs of rejection.」


(対象を確保。目標区域へ移送完了。時間的乖離は安定。拒絶反応は確認されず。)


小声で英語を話し始める。


・・しばしの沈黙・・


リリィはふっと笑みを浮かる。


「――こちらGAIA日本支部所属、コードネーム《梅雨の花嫁》。


対象個体“舞鼓マイコニド”の一次接触、完了しました。精神・肉体ともに現時点での安定を確認。


外見は旧和装のまま、過去記憶の一部を保持していますが、現時点では確証なし。


その他、目立った異常はなし。


また、共生反応と思しき文化的順応性が高く、一般市民との接触も自然。


ただし、舞による波及効果は未観測につき、継続監視を推奨。


現時点での収容・隔離は非推奨。引き続き長屋での共同生活を継続し、自然観察を行います」


何処から見ても、日本人には見えない異国の少女。


その唇から紡ぎ出される、流暢な日本語。


――画面に返信なし。


・・ただ画面上部に一言だけ表示される。



"Observation authorized. Maintain proximity."


(観察を許可する。接近状態を維持せよ)



リリィは表示を確認すると、そっと画面を閉じる。


「いいバスタイムを、マイコニドの舞妓さん・・ふふっ、あなたが“世界を揺らす舞”だなんて、まだ信じらんないけどさ・・」


彼女はふと、マイコが舞った畳の上にうっすら残った銀の粒を見つめる。


薄暗い部屋に瓶底メガネが怪しく光る。


――しかし、その粒子は眼鏡越しでも、瞬く間に消えていってしまう。


まるで、そこには()()()()()()()()()()の様に。



リリィは静かに呟いた。


「それでも、あなたの舞は・・やっぱり、うつくしかったネ・・・」



雨の音が、そっと長屋を包んでいた。


@<マイコはんとリリィの絡みは書いてて面白いし、伏線いっぱい引いてたら、投稿遅くなったよ!チキショー!

ヒナタ「俺の出番はまだ先か・・・俺はチキショー!なんて言わないからな・・」

マイコ&リリィ「ほんまにそうどすか~?」「Is that so~?」


@<あ、しいな ここみ様、梅雨のじめじめ企画お疲れ様でした!、ありがとうございます♪

(https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/2175055/blogkey/3449778/)

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マイコはんの,セルフィーとりある(?)とのギャップにやられています…イイ!(≧∇≦)b リリィさんのキャラがすごい…でも世を忍ぶ(?)姿の方が素だったら,あまり関わりたくないかも(酷←賑やかすぎてつい…
マイコとリリィのやりとり、とても面白かったです。はんなりと畳の上に舞台を描き出すようなマイコの舞の描写に、リリィが「調べ」を感じたのも分かるように思いました。 でも彼女は…急展開に引き込まれ、画面表…
強烈なキャラ! ちょっとマツコさまを彷彿とさせます(*^^*)
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