①土の中から蘇れ!マイコニドのマイコ(舞妓)はん!
『しいな ここみ』様(https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/2175055/blogkey/3449778/)の『梅雨のじめじめ企画』参加作品になります!
──美しく咲いた花は、土に還らず。
無念と情熱が、キノコとなりて蘇る──
これは、ひとりの舞妓の魂が、白塗りの怪異へと姿を変えた、哀しき伝承 (たぶん)
※「マイコニド(Myconid)」は、ファンタジーに登場するキノコのような姿をした人型生物。特に有名なのは『ダンジョンズ&ドラゴンズ(D&D)』というテーブルトークRPGに登場するクリーチャーです※
はてさて、勢いに任せて連載にしてみたけれど、どーなることやら?(;´・ω・)<いちおう、ある程度は書けてます(不安)
・・・それは、季節外れの豪雨の夜だった。
春の名残を引き裂くような黒雲が空を覆い、世界は湿り気と沈黙に沈んだ。
ぬかるむ山裾の斜面。
そこにあるはずのない、小さな瘤が、ぬちょりと脈打った。
──ぐちゅり。
土の下から、不気味な呻きと共に、ぶよぶよと湿り気を帯びた手が伸び出た。
指先には、風に朽ちたままの古びた舞扇が握られている。
土から芽吹くように立ち上がる影。
雨は容赦なく降り注ぎ、ぬめる泥と混ざって、その身体を濡らす。
──ゴロゴロゴロ──!
稲光に浮かび上がった影は、150センチほど。
頭には伝統的な島田髷のような菌糸の房。
胴体はふっくらしたキノコの幹のような肉体・・・もとい、肥満体。
それは着物のように見える胞子膜を纏っていた。
「・・ん、んぅ・・ここ・・・どこや・・?」
顔全体がふやけた豆腐のようにぶよぶよしており、赤すぎる口紅のような唇。
甲高いおっさんの様な、野太い声が漏れる。
濡れたように濁る、腫れぼったい黒目。
お世辞にも、『美しい』、とは真逆の存在。
白い粉のような胞子が雨に溶け、
やがてキノコの甘ったるい匂いが大地から立ち上る。
「・・ウチは・・ウチの名は・・ま・」
その名を言いかけた時、
──バリィィィィィィィン!!
一閃の雷が、真っ黒な空を裂いた。
「ぎゃーーっっ!!??」
ずぶ濡れの身体に、電撃が突き刺さる。
──バチバチバチ・・ブスブスブスっ!!!
地響きのような雷鳴が鳴り響いた直後、
空の下に黒焦げのひとつの影が横たわっていた。
モクモクと白い煙が立ち上り、周囲に香ばしいニオイが立ち込める・・
醤油つけたい。
白塗りの顔は泥に汚れ、髪はほつれ、和服風の着物もずぶ濡れ。
まるで地に溶けるようなその姿。
ぐち…っ、ぐちっ…
それでも『それ』は、まだ動いていた。
豪雨にぬかるんだ地面の上を、ゼラチン質のような腕がずるりと這う。
ひとつ、またひとつ、白く膨れた手が地面に吸い付き、全身を引きずる。
「・・ッ、う、ウチは・・まだ・・・」
白塗りの化粧が半ば剥がれ、ぐにゃりと歪んだ顔。
それでも、その目だけは、異様な執念で爛々と光っていた。
這いずる塊がぬるりと顔を向けた。
眼下に広がるコンクリートの街、その灰色の無機質を睨むように見つめる。
「・・ウチは・・まだ・・終わってまへん・・・」
低く、かすれた声が、口の奥から漏れる。
ずるっ、ずるっ…
まるで土中から這い出す虫のように、前へ前へと進む。
やがて、焦げ臭さを撒き散らしながら、ぐらりと立ち上がった。
「ウチはまだ・・舞ぉ・・極めてへんのや・・チキショー!!!」
そして、雨の中、『ソレ』は東京の中心へ歩き出した。
*****************
雨が降っていた。
原宿の夜は、ネオンの海に濡れている。
人波の流れる交差点。
傘が咲き、スマホが光り、誰もが“誰でもない顔”で歩いていく。
次第に視線が集まり、スマホが向けられ、ぽつりとつぶやいた。
若者たちが歩くその歩道の隅、誰かが気づく。
「やば・・なにアレ・・え、CG?、コスプレ?」
誰かが動画を撮り始めた。
違う。
画面越しのほうが“怖くない”だけだった。
──それは“間違ってる”姿だった。
白塗りの顔。
びしゃびしゃと湿った和装の裾を引きずり、
ぶよぶよと肥大した何かが、人混みの隙間を滑るように進んでいた。
実物は近づくにつれて、“湿気”がまとわりついてくる。
空気が重い。
匂う。
カビと白粉と、雨のにおいが混じる。
どこかで、干からびた和菓子のような甘さも。
何処かの誰かがつぶやいた。
「あれって・・『舞妓(まいこ』さん・・?」
そして──始まる。
右手に持つ、朽ちた扇が、ひとひら動いた。
チャ…… チャ……
カラン……カラン……
靴音が止まり、人々の足が鈍る。
ソレはただ、舞う。
原宿の中心、交差点の真ん中で。
雨に濡れた異物が立った。
泥にまみれ、濡れ鼠のような髪を垂らしながら、
誰にも頼まれていない“舞”を始めた。
扇はびしょ濡れ。
足は滑る。
しかし、その舞は、雨粒の中で静かに、確かに揺れていた。
周囲の人々に浮かぶ、最初は失笑と哀れみ。
ぶよぶよの指を飾る掌を、伏せて滑らせるように、指先が風の流れをなぞる。
触れないままに何かを掬い取ろうとする、見えぬものへの祈りのように。
・・・濡れたアスファルトに、傘の輪がゆっくりと広がる。
この世の音とも思えぬ調べが、聞こえぬはずの耳を伝い、脳を揺らす。
その舞には、重力がない。
TikT○ker「えぐい、逆にバズるかも」
動画のタイトルは、
『【謎の舞】原宿で突然始まった“黴の舞”が意味不明すぎて逆に泣けた』
→ タグ:#ぶよぶよ舞妓 #幻覚きのこ舞 #ちょいチキショー?
・・・そして数日後。
その動画は、
100万再生を超えて、海外の言語にも翻訳され、拡散されていた。
動画の中のソレは、
白粉のような粉を撒きながら、
ぶよぶよした身体で、
確かに**伝統芸能の型”を踏んでいた。**
──しかし、今は──
「はい、そこの人・・通行の妨げなんでね〜・・」
「え?・・なんや、ずいぶんと、ご恰好が違ごうてますなぁ・・前は・・もっと軍人さんみたいな制服を、お召しやったような気ぃしますけどなぁ・・」
流暢な京コトバを話す異物。
「ちょっと交番まで・・・」
ソレを呼び止める警察官。
「ちょっと、お巡りさん、待っておくれやす!?・・いま、えぇとこやったやろ? うち、まだ・・まだ舞えますえ〜!?・・・」
甲高く、野太いおっさんの声で、京コトバで叫ぶ異物。
床はびしょ濡れ。
足は滑る。
転倒。
持ってた扇子が折れ、白塗りが半分ハゲる。
静まり返る原宿。
傍にいた誰かが、思わず後ずさる。
人々が見つめる中、
雨砂に塗れた顔が、くしゃっとゆがみ──
「うちは・・ウチはまだ、終わってへんのどす・・」
──通りには、もう誰もいなかった。
ただ、濡れたアスファルトに、
「だから交番へ行こうか」
「イヤァァァァァァ!!!」
濡れたソレと警官だけが、ぽつんと残されていた。
*****************
・・・昼下がりの、久方ぶりのお日様が照らす交番の前で。
「おおきに、ようけご迷惑おかけいたしました・・ほな、失礼さしてもらいますえ」
ぶよぶよしたお腹を震わせ、白塗りの顔が深々とお辞儀をする。
しかし、腹の肉がつっかえて、思うよりも浅いお辞儀となったが。
下げた髷から、ハラハラと胞子が落ちる。
警官が何度問いかけても、ぶよぶよの中から返ってくるのは、
妙にゆっくりした口調と、異様に丁寧な礼の仕草。
ただ「舞ってしまいましたのえ」と繰り返すのみで、どうにも常識が通じず、
暴れたわけでもなく、器物損壊もない。
『反省の意思あり』と見なされたのだった。
交番の扉が閉まる音と共に、外の世界が、まばゆく目に飛び込んだ。
天にも届きそうな無数のガラスが嵌め込まれた建物の群れ。
「ほんま、わて・・どこにも居場所、ないんどすか・・?」
道路を行き交う、見たこともない無数の車。人のざわめき。
(・・なんやろ。風がちゃう。・・匂いも、音も・・せわしなくて、冷たい・・)
しばし、その場で立ち尽くす。
「・・はいはい、うん。で、なんか知らんけど”舞って捕まったヤツ”?・・あー、出てきたわ・・はいはい、どもー・・」
釈放された。
やがて、ひとりの男が通話していたスマホを持ちながら近づく。
「キミ、すげえイケてるじゃん。俺のプロデュースで世界に出ようぜ?」
茶髪、白い歯、香水の匂い。白いジャケット。
「『マイコちゃん』?・・だよね?、やっば・・動画の舞、マジ、バズってるわ!」
ぶよぶよの物体のことを『マイコ』と呼ぶ男。
名は、『レン』と名乗った。
「舞妓だから、マイコ・・ちゃん、どすか?。・・なんか、おかしな響きやけど・・」
行く当ても無く、縁もゆかりもない自分・・その身元を引き受ける人。
「せやな・・『マイコはん』って呼んでもろても、かましまへんえ・・」
曖昧な記憶しかないソレは、自分の名も思い出せずにいた。
「レンはん、言われましたか・・・よろしゅうたのんます・・」
名前が無い存在なのかも知れぬと思いながらも。
何故か『マイコはん』という名が、しっくりと嵌る様な気がした。
はい、第一話はこんな感じでありんす~!
後書きになってしまいましたが、幻邏様(https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/1850894/blogkey/3451353/index.php?p=2)のおかげで、この様なキャラになりました(笑)(´∀`*)<ネタありがとうございます!
これからの『マイコニドのマイコはん』、どうぞ宜しくお願いしますどすえー!m(__)m<マイコはんの京言葉でおかしい所があれば、どんどん指摘して下さいませ!