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神血の英雄伝  作者: 小豆みるな
第三章 孤獣と氷華

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静かな報告

 朝刻の半ばを過ぎた頃。


 守攻機関の本部には、これから見回りに出るアイカたちの姿があった。

 セイスとアイカ、イオリとレイサ。決められた組同士で、互いに隣り合うように並んでいる。


 イオリは相変わらず上機嫌で、柔らかな笑みを浮かべていた。一方のレイサは、どこか落ち着かない様子で、無意識のうちにイオリから半歩ほど距離を取っている。

 セイスはといえば、跳ねたままの寝癖を気にするでもなく、大きくあくびを噛み殺していた。


 アイカは昨夜、クリグラムで体験した出来事を家族に夜遅くまで話していたせいか、まだ眠気が抜けきらず、瞼が少し重い。

 それでも、家を出る前にかけられた「行ってらっしゃい」という久しぶりの声を思い出し、胸の奥で小さく気持ちを切り替えた。


「それじゃあ、今日の見回り場所の担当を発表するね」


 四人の前に立ち、指導官として見回りの担当を告げるため、そして見送りのために集まっていたイナトが、明るい口調で言った。その声に、四人の視線が一斉にイナトへ向けられる。


「イオリとレイサは南側を担当。セイスとアイカは、東側をお願いするね」

「また南側ですか?」


 前回も南側を担当していたレイサが、思わず声を上げた。


「東側……」


 一方、アイカもきょとんとした表情を浮かべる。

 せっかくなら、まだ見回ったことのない場所がいい。そう考えていた二人は、示し合わせたわけでもないのに、不思議そうにイナトを見つめた。


 その視線に気づいたイナトは、少しだけ困ったように笑って説明を始める。


「えっとね。ハナネもそうだけど、二人は前回の見回りから約二ヶ月半、間が空いてるでしょ? 前回の見回りも途中で終わっちゃったからね。まずは流れを思い出してもらうために、あえて同じ担当にしたんだ」


 穏やかな口調でそう告げるイナトに、アイカとレイサは互いに視線を交わした。


 前回、初めて見回りに出たあの日。


 途中で襲撃者が現れ、見回りは中断された。イオリとセイスは療養に入ることになったため、アイカたちは、見回りを最後まで経験できていない。


 二人が抜けた状態でも、アオイと新人三人で再度見回りに出ること自体は不可能ではない。

 しかし、襲撃者が現れたばかりの状況で、万が一再び何かが起きた場合、今のアイカたちでは対応が難しい。

 アオイの動きを妨げてしまい、最悪の場合、村人にまで被害が及ぶ可能性もある。そう判断された。

 そのため、見回りは主にユサやシアンが担当し、状況次第でアオイが加わる形が取られていた。

 その事情を、アイカたちに直接説明されることはなかったが――今回、あえて前回と同じ担当になった理由は、そこにあるのだろう。


「なるほど……」


 話を聞き終え、レイサが小さく頷いた。


「そう。もちろん、後日ちゃんと別の場所も回ってもらう予定だからね」


 和やかにそう付け加えたイナトだったが、次の瞬間、表情を引き締める。


「もし異変を感じたら、すぐに先輩に伝えること。そして、独断で判断して行動しないこと。何より、村の人たちの安全を最優先に。いいね?」


 それは、前回の出来事を踏まえた、はっきりとした戒めの言葉だった。

 二人は思わず背筋を伸ばし、肩に小さな緊張が走る。


「はい!」

「はい!」


 二人は即座に答え、真っ直ぐな視線をイナトへ向ける。

 その瞳には、前よりも確かな覚悟が宿っていた。


「良い返事です」


 会話を聞いていたイオリは、満足そうにこくこくと頷きながら二人を見た。


「うっさ」


 一方でセイスは、ぶっきらぼうに吐き捨てるように呟き、視線を逸らす。


「よし。じゃあ、行っておいで」


 そう言って送り出すイナトの表情には、穏やかな微笑みが浮かんでいた。




◇◇◇




「……今回の新人たちは、元気が有り余っていますね」


 本部の外では、四人が見回りに出ようとしている最中だった。

 隊長室でユサと向かい合っていたネシュカは、ふと窓の方へ視線をやり、静かにそう口にした。


 先ほどのアイカとレイサの大きな返事は、この部屋にまで届いていたようで、ネシュカはもう一度、窓へと目を向ける。


「そうだな」


 ユサも同じように窓の方へ視線を向け、短く応じた。


 二人はしばし無言のまま、外から聞こえる気配に耳を澄ませていた。

 やがて、先に口を開いたのはユサだった。


「それで……」


 一拍置いてから、ユサはネシュカへと視線を戻す。

 その動きに合わせるように、ネシュカも向き直った。


「改まって二人きりで報告したいことがあるとは、どういう用件だ?」


 普段は、情報共有を兼ねて、報告は人の集まる場で行うネシュカが、わざわざ二人きりを選んだ。

 それは、他の誰にも聞かせるべきではない話だという、無言の意思表示だった。


 ネシュカは、瞳に力を込めてユサを見据え、口を開いた。


「今回の任務で、新人たちがサクヤ・クオネと、風の神選者に接触したようです」


 その言葉に、ユサの瞳がわずかに細まる。

 空気が、目に見えないほどに重く沈んだ。


「新人たちには、子攫いに関与している可能性のある人物を探るため、リグラム中央学院へ潜入させていました。その過程で、アイカがサクヤ・クオネと、レイサとハナネが風の神選者と対峙したとのことです」


 ネシュカは淡々と続ける。


「二人の詳しい行方は不明ですが……サクヤ・クオネは、アイカに伝言を残したそうです」

「伝言……?」


 ユサの眉が、わずかに動いた。


「『これ以上探るなら、次は七年前とは比べものにならないものを見せる』——そう言っていたと」


 声を落として告げるネシュカに、ユサは即座には返事をしなかった。

 視線を少し落とし、何かを思案するように沈黙する。


「なお、風の神選者については、ハナネの見立てでは女性の可能性が高いとのことです」

「……そうか」


 ユサは短く答え、低い声で呟いた。


「風の神選者はサクヤ・クオネの側にいたか……」


 その呟きが消えきらぬうちに、ネシュカはさらに言葉を続けた。


「今回の任務では、私からサクヤ・クオネに関する新たな情報は得られませんでした。ただ……もし七年前と同じことが起きれば、村は取り返しのつかない事態になります。少し、慎重になるべきではないかと」


 ユサはその言葉を受け、少しの沈黙のあとに答えた。


「一度、タイガ村長と相談してから決める」

「……分かりました」


 静かな返答とともに、隊長室には再び重い沈黙が落ちた。


 そして、次の嵐が避けられないことだけを、静かに示す静寂だった。

神血(イコル)の英雄伝 第90話

お読みいただきありがとうございます。

次回も読んでくださると嬉しいです૮꒰ྀི⁔.⸝⸝⸝⸝.⁔꒱ྀིა


やっと90話いきました!


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