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神血の英雄伝  作者: 小豆みるな
第三章 孤獣と氷華

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任された役目

 癒庵での診断を終えた六人は、それぞれ異なる結果を告げられた。


 ほぼ外傷のなかったネシュカとアオイは、舟を待つ待機期間中に十分休めていたこともあり、翌日から通常通りの勤務となる。

 セイスも、なぜか医師や看師と揉めていたものの、大きな問題はなかったようで、同じく翌日からの勤務を言い渡された。


 切り傷や擦り傷を負っていたレイサと、両足を打撲していたアイカも、医師が確認するとすでにほとんど完治している状態だった。


「神血は治癒力を活性化してくれるので、通常の人間よりも傷の治りが早いんですよ」


 理由が分からず、目を瞬かせた二人にイオリがそう教えてくれた。

 そのため、アイカとレイサも翌日からの勤務開始となった。


 ただ一人、右足を捻挫し、未だ完治していないハナネだけは例外で、七日間の療養期間が与えられることになった。


 シアンがハナネを家まで送り届けている間、大部屋ではイナトを中心に、アイカとレイサの組み合わせについての話し合いが行われていた。


 本来であれば、三か月の間、先輩が新人につき指導を行う予定だった。

 だが、突然の襲撃によりセイスとイオリが負傷し、その指導は途中で中断されてしまった。結果として、座学や礼儀作法はイナトが、訓練はアオイが一人で引き受ける形になっていた。


 そのため、改めてしっかりとした指導体制を組み直す必要があった。


「ネシュカは任務の後始末があるから、今回は難しいとして……」


 イナトは顎に手を添え、視線を落としながら呟く。


「なるべく、まだ関わりの少ない組み合わせがいいと思うんだ」


 そう前置きしてから、イナトは頭の中でこれまでの任務や訓練の様子を思い返した。


(イオリとアイカ。アオイとレイサは前回組ませたし、セイスとレイサだと……色んな意味でレイサが疲れそうだな)


 それぞれの肉体面、技術面を考慮しながら、イナトは思考を巡らせる。


 自分が組まれないと分かっているネシュカは、瞼を閉じ、静かに話し合いが終わるのを待っていた。

 セイスは誰と組もうが面倒なのか、興味なさげに視線を逸らしている。

 イオリは楽しそうに微笑み、アオイは無表情のまま静かに立っていた。


 この場で、わずかな緊張を抱えているのは、アイカとレイサだけだった。


「よし……」


 数秒の沈黙の後、イナトが小さく頷く。


「今回は、イオリとレイサ。セイスとアイカの組み合わせでいこう」


 その言葉に、アイカとレイサは互いに、そしてそれぞれの組み相手へと視線を向けた。


「レイサ君と組めるなんて嬉しいです。短い間ですが、どうぞよろしくお願いしますね」

「あ、はい。お願いします」


 両手を合わせ、にこにこと微笑むイオリに対し、二次試験の頃からどこか苦手意識を持っているレイサは、ぎこちなく言葉を放つ。


 一方、セイスと組むことになったアイカは、部屋の隅に立つ彼へと視線を向けた。

 セイスは相変わらず不機嫌そうな表情を浮かべていたが、それはアイカとの組み合わせへの不満ではなく、クレムに勝てなかった悔しさと、この話し合いから早く解放されたいという感情が滲んでいるようだった。


 アイカは一歩、また一歩とセイスへ歩み寄る。


「セイス! よろしくねー」

「……調子乗って刃向かったら、容赦なく潰したるからな」


 明るく声をかけるアイカに、セイスは鋭い視線と尖った口調で返す。


「うわー、まだキレてる」

「あ?」


 だが、アイカは気にする様子もなく笑い返した。その態度に、セイスの低い声が漏れる。


 そのやり取りを見て、シアンとネシュカ、レイサ、そしてアオイまでもが「またか」と言いたげにため息をついた。

 イオリは、面白そうにその様子を眺めている。


 そんな中、一人だけまったく違う反応を見せている人物がいた。


「……」


 イナトだけは呆れも面白がりもせず、セイスを静かに見据えていた。





 暮刻ぼこくの終わり頃。


 研修の組み合わせも無事に決まり、この日はここで解散となった。


 ネシュカ、セイス、イオリ、アオイはそれぞれ自室へと戻り、アイカとレイサもまた、久しぶりの自宅へ戻ろうと歩き出した、その時だった。


「アイカ」


 踏み場へ向かう二人の背後から、高めで、どこか幼さを含んだ男の声がかかる。

 呼び止められ振り返ると、そこには穏やかな笑みを浮かべたイナトが立っていた。


「ごめんね。帰る前に、少しいいかな?」


 眉をわずかに下げ、声量を落としてそう言うイナトの瞳は、どこか心配そうで、それでいて大事な話があるのだと静かに告げているようだった。


「……?」


 突然のことに理由も思い当たらず、アイカはきょとんとしたままイナトを見つめる。

 その様子を見て、レイサは何かを察したのか、軽く肩をすくめて笑った。


「じゃあ俺、先に帰ってるわ」

「あ……」

「また明日なー」


 軽やかな足取りで去っていくレイサの背に、アイカは小さく声を漏らす。

 レイサは振り返ることもなく、片手をひらりと上げ、そのまま大部屋を後にした。


 広い空間に残されたのは、アイカとイナトの二人だけだった。

 向かい合うように椅子へ腰を下ろす。


(私、なんかした……?)


 一人だけ呼び止められたという事実が、胸の奥に小さな引っかかりを残す。

 ナサ村へ戻ってきてからの短い時間を思い返してみても、注意されるような覚えはない。

 だとすれば任務中のことか。それとも、セイスへの態度がまずかったのか。


 答えが出ないまま眉をひそめていると、イナトが口を開いた。


「あ、ごめん。ごめん。注意するとか、そういう理由で呼び止めたわけじゃないよ」

「え……? じゃあ……」


 両手を軽く上げ、申し訳なさそうに笑うイナト。

 それを見て、なおさら理由が分からなくなったアイカは、ぽかんとした表情を浮かべた。


「セイスのことで、アイカにお願いがあって」

「セイス……?」


 “お願い”という言葉にも、その名前が出たことにも驚き、アイカは首を傾ける。


「この前の襲撃で、セイスが背中に怪我をしたの、アイカも覚えてるよね」

「あぁ……覚えてるけど」


 新人として初めての見回りで起きた襲撃。

 イオリは毒の影響でひと月ほど意識が朦朧とし、セイスは子どもを庇ったことで背中に深い傷を負った。


「その怪我なんだけど……どうやら、悪化してるらしいんだ」

「え……」


 あれから約二ヶ月半。

 イオリも回復し、セイスも普段と変わらない様子で過ごしている。

 だからてっきり、順調に治っているものだと思っていた。

 思わぬ言葉に、アイカは目を見開く。


「少しずつ良くはなってたんだけど、任務中にまともに手当もしないまま動いたせいか、治りが遅いんだ。癒庵で医師にも療養を勧められたんだけど……もう平気だって聞かなくてさ」

「あー……」


 肩を落としため息混じりに語るイナトの言葉で、医師や看師と揉めていた理由に、ようやく合点がいった。


「だから、この一ヶ月。セイスが無理をしようとしたら、止めてほしいんだ」

「私が!?」


 思わず身を乗り出し、自分を指差す。


「うん。お願いできる?」

「んー……でも、私が言っても聞いてくれるかなぁ」


 セイスの性格を思えば、素直に従う姿はなかなか想像できない。

 それに後輩から言われたとなれば、なおさらだ。

 腕を組み、アイカは渋い表情を浮かべる。


「もちろん僕や隊長たちからも言う。でも、一番近くにいるのはアイカだ。それに何人からも言われ続けたら、さすがに意地も張り続けられないと思うんだ」

「……確かに」


 妙に納得できてしまい、アイカは小さく頷いた。

 少し間を置いてから、顔を上げる。


「うん。分かった!」

「ありがとう、アイカ」


 まっすぐなその返事に、イナトはほっとしたように、柔らかな笑みを浮かべた。



 ――だがその約束は、思っていたほど簡単ではなかった。そしてアイカは、セイスの荒々しさの奥にある悲しみを知ることになる。



神血の英雄伝 第八六話

読んでいただきありがとうございます。

次回も読んでくださると嬉しいです



暮刻の終わり頃→十九時前ごろ

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