七年越しの謝罪
その声と顔を認識した瞬間、アイカの全身に驚きと鳥肌が走った。
――忘れたことなど、一度もない。忘れられるはずがない。
背は伸び、幼い輪郭は面影を残しつつも大人びている。
さきほどは咄嗟のことに加え、羽織の帽子を深く被っていたため気づけなかった。だが今、こうしてはっきりと姿を見れば否応なく思い出してしまう。
脳裏に蘇る光景。
――七年前。
炎に包まれる家、崩れていく村。襲撃者たちが現れ、人が次々と斬られ、連れ去られていく。
泣きじゃくりながら、震える手で必死に自分へと伸ばしてきた少女。
その手を、掴み取ることができなかった。
自分の弱さのせいで救えなかった、女の子。
その子が今――成長した姿で、自分の目の前に立っている。
生きていた。確かにここに。
けれど……どうして。
なぜ、ここに。
どうして今なのか。
七年も――どこで、どうやって生き延びてきた?
なぜ自分の前に? 敵なのか? 味方なのか?
頭が追いつかない。疑問が雪崩のように押し寄せて、思考がばらばらに散っていく。
理解できない。わからない。――それでも、確かに目の前に立っている。
思考が追いつかず、アイカはただ立ち尽くした。
そんな彼女を見据え、少女はゆっくりと唇を開く。
「なんでそんな顔してるの? ……お姉ちゃん、私のこともう死んでると思ってたでしょ?」
声は冷ややかで、感情を押し殺すように平板だった。
「無理もないよね。あんな状況だったんだから。――死んだか、どこかで飼い殺しになってるか。誰だってそう考える。
本当はね、私、売られるはずだったの。でも違った。あの人が言ったの。『売るんじゃなくて、君を僕のそばに置いて……いつか青目ちゃんの前に見せたら面白い』って。それで私は、ずっとあの人のそばにいた」
少女の瞳が、真っ直ぐにアイカを射抜く。
「ねぇ、お姉ちゃん。少しでも罪悪感ある? 申し訳ないって思ってる?」
首を傾げ、目を細め、問いかける。淡々とした声音が、逆に心臓を締めつけた。
そして――。
「もし思ってるなら……大人しく、死んでね」
刹那。
少女は地を蹴った。疾風のように距離を詰め、剣を振り下ろす。
(……しまった!)
混乱で反応が遅れた。だがアイカは咄嗟に斬槍を構える。
火花が散り、刃と刃が噛み合った。軋む音。全身に伝わる衝撃。
全力で押し返すと、少女の身体は軽やかに後方へ飛んだ。まるで最初から弾かれることを想定していたかのように、柔らかな着地。すぐさま姿勢を立て直し、無表情でこちらを見据える。
アイカも斬槍を構え直し、必死に呼吸を整える。
(生きててくれた……)
胸の奥が震えた。
ほんのわずかに、日常の合間に「もしかして」と思ったことがある。もし奇跡があるなら、生きていてくれればと。
だが――。
(……この子は、敵だ)
レイサとハナネを吹き飛ばし、自分を崖へ突き落とし、そして先ほどは確かに殺意を向けてきた。
(リイトと手を組んでいるの……? この子も子攫いに関わってる……? もしそうなら――驚いている暇じゃない)
胸がざわつき、喉は砂を流し込まれたように渇いていく。頭の中で言葉がぐるぐると回り、まとまらない。
だが――止まってはいけない。
アイカは深く息を吸い込み、吐き出した。
(私には、やらなくちゃいけないことがある)
子攫いに関与しているのなら、たとえ誰であろうと見逃すことはできない。守攻機関の隊員として。
斬槍先が、かつて救えなかった少女をまっすぐに射抜いた。
アイカが斬槍を構えた瞬間、少女は再び飛びかかった。
先ほどよりも、速い。
「くっ……!」
届く寸前、地面がうねり、勢いよく土壁がせり上がった。
少女は止まりきれず、剣先が壁へ突き立つ。
その隙を逃さず、アイカは壁を回り込み、左から斬槍を振り抜いた。
少女は反射的に腕を引き、刃と刃が再び火花を散らす。
だが、そこで違和感に気づいた。
――足元。
咄嗟に跳び退く。直後、いたはずの地面が盛り上がり、土柱が突き上がった。
(危ない……これが神選者の力)
少女は荒い息を吐き、後方へと跳ねる。
だがアイカの狙いは執拗だった。移動のたび、足元から壁や突起が生じる。少女はかわすが、その隙にアイカは距離を詰め、斬槍を突き込む。
剣と斬槍が打ち合わされるたび、少女の苛立ちは募っていった。
攻撃は単純。しかも手加減しているようにすら見える。
(なんで……本気で来ないの!? 見下してるの!?)
全力で力を振るえば勝てるはず。それをしない理由がわからない。
少女は唇を噛み、怒りに燃える目でアイカを睨んだ。
一方のアイカも、胸の奥で葛藤していた。
(任務のために止めなきゃいけない……でも、傷つけ合いたくない。なるべく傷つけずに保護できたら……)
その思いが、少女の怒りをさらに焚きつけた。
「九番って子を助けたの……お姉ちゃん?」
少女の言葉に、アイカの顔がかすかに歪む。
九番――傷だらけで怯え、自分を数字で呼んでいた少年。
アイカが助け、チタという名を与えた。
その反応を、少女は見逃さなかった。
「当たってるんだね……。あの日から、私はずっと地獄だったんだよ!」
振り抜かれた剣が火花を散らす。怒声が夜気を震わせる。
「痛くて、苦しくて、誰も助けてくれなくて……! 死んだ方がマシだって思うくらい、毎日が地獄だった!」
悲鳴にも似た叫びと同時に、剣と槍が衝突する。
金属のきしむ音が耳を裂き、衝撃が腕を痺れさせた。
「――っ!」
押し込まれ、アイカは歯を食いしばった。
必死に斬槍を払い、地面を隆起させる。だが少女は壁を蹴り砕き、跳び上がり、怒りを込めて剣を振り下ろしてきた。
「こんなに強いなら……なんであの時、助けてくれなかったの!?」
刃が迫り、火花が飛び散るたびに、少女の言葉が鋭い針のようにアイカの胸を貫き、心臓を握りつぶされるような痛みが走った。
(私のせいだ……! あの時、私は怖くて……動けなかった……弱かった……)
「九番は助けたのに、なんで私はダメだったの!? 答えてよ!!」
声が震えていた。怒りよりも――泣き出しそうな、孤独と絶望の色が濃く滲んでいた。
その瞳は、刃より鋭くアイカの心臓を貫いていった。
アイカは必死に耐えながら、かすれた声を絞り出す。
「……ごめん。あの時、助けられなくて」
「ごめんって言うなら……死んでよ!!」
剣が再び叩き込まれる。怒りと悲痛が混ざった声が、刃よりも鋭く胸を貫く。
アイカは息を荒げながら、それでも首を振った。
「それは……できない」
「なんで!? 自分が大事だから!? 結局変わってない! 私を捨てても、自分だけは無事でいようとした!」
少女の声は怒鳴りというより嗚咽だった。
刃を振るう手も震えている。
「違う!」
アイカの声が、裂けるように響く。胸の奥が痛みに引き裂かれる。
「……確かに、七年前は……怖くて、動けなかった」
唇を噛み、血の味を感じながら悔恨を吐き出す。
「でも――今は違う!」
槍を握る掌に力を込める。
砕けそうな心を奮い立たせるように、瞳に揺るぎない光を宿す。
「私は今度こそ、誰かを救う人間でありたいから、ここにいる! だから……!」
斬槍が空気を裂いて唸る。
「今は――きみを止める!」
アイカは斬槍を構え、少女へ駆け出した。
全身の力を込める。対する少女も、渾身の剣を振りかざして突進してくる。
――その刹那。
少女の足元の地面が、突如として大きくへこんだ。先ほどまで壁が生えてくるばかりだったはずだ。予想外の揺らぎに、少女は思わず視線を落とす。ほんのわずかな一瞬――。
そこを、アイカが突いた。
斬槍と剣が激突する。火花が散り、互いの腕が痺れるほどに力を込める。
アイカはなおも全力を振り絞り、叫んだ。
「いっけぇぇーーっ!」
絶叫とともに槍にさらなる力を込める。刃がずれ、少女の剣は弾き飛ばされた。
銀の軌跡を描き、宙へ舞う。
「そんな……」
少女は目を見開き、手を伸ばしかけたが届かない。
視線が剣を追う間に、アイカはすでに体勢を立て直し、迫っていた。
(……終わった)
敗北を悟り、死を受け入れ、少女は瞼を閉じる。
だが数秒後――。響いたのは鋼の落ちる乾いた音と、身体をやわらかく包む温もりだった。
「え……?」
息をのむ。死んでいない。
それどころか、アイカが自分を抱きしめていた。
どうして? 殺さないの?
答えを探す前に、少女の混乱をかき消すように、耳元で声が震えた。
「……あの時は、本当にごめん」
「謝って許されることじゃないけど……今の私には、それしかできない」
息切れが混じる声。かすかに震える響き。
「いっぱい辛い思いをさせて、ごめん。
でももし今、何かに苦しんでるなら……助けたい。今度は、絶対に助けるから
生きててくれて……ありがとう」
その言葉に、少女の奥で張りつめていた何かが崩れ落ちた。
理解はできない。だが胸を突き破るような衝動が、涙と共に溢れてくる。
少女は残る力を振り絞り、腕をゆっくりと持ち上げる。
「……お姉ちゃん、わたし――」
声が途切れた瞬間、アイカの腕の中で、少女の背へ生ぬるい感覚が広がっていった。
「な……に……?」
アイカはゆっくりと少女の背を見下ろした。
突き立てられた矢の尾根が鈍く光り、そこから黒く濁った線が衣を滲ませている。血がじわりと溶け出し、布を赤く染め、触れた空気まで湿らせた。指先に伝わる温度が、どうしようもなく現実を突きつける。
「弓矢、どこから……」
問いかける声が小さく震える。頭の中が真っ白になり、時間が薄く引き延ばされる。矢が、今ここにある理由がすっと胸に落ちてこない。
そのとき――聞き覚えのある声が、森の方からすり抜けてきた。皮膚を這うような軽さで、どこか楽しげだった。
「驚いた顔してるね」
アイカは反射的に声の方へ顔を向けた。樹間の陰が寄せて、二つの人影がゆっくり現れる。先に見えたのは、少女と同じ羽織を深く被った細身の影。もう一人は、日差しに黒髪が揺れ、翡翠の瞳が陽を受けてきらりと光る男だった。その瞳は、子どもの好奇心のように澄み、しかしそこには苛烈な冷たさが同居している。
――そして名前が、自然と口をついて出た。
「サクヤ・クオネ……」
アイカはその男を見据え、息を呑んだ。
その顔――忘れられるはずがない。
七年前、村を襲った惨劇。炎と絶叫の夜。
目の前に立つのは、あの地獄を導いた男だった。
サクヤ・クオネはにこりと笑った。似つかわしくない柔らかな笑みだった。だが、その口元には残酷な手触りがあった。
「僕を覚えていてくれたんだね。嬉しいよ」
言葉は軽く、剥き出しの悪戯のように響く。足元の落ち葉がかすかに震えるだけで、森全体が息をこらしたように静まる。
「何が起こったのか、まだ分からないでしょ? 教えてあげる。――あの子を仕向けたのは僕だよ。あ、それから! 弓矢を放つように言ったのも、もちろん僕」
その声を聞いた瞬間、アイカの血の気が一気に引いた。
胸の奥がぎゅっと縮み、心臓が一拍遅れて脈打つ。
「な、んのために……?」
絞り出した声は震え、自分でも頼りなく聞こえた。
だが、サクヤ・クオネは気にも留めない。肩を揺らし、楽しげに笑った。
「面白そうだから、だよ」
サクヤ・クオネは当たり前のように口にした。
「青目ちゃんにも、他の誰にも助けてもらえなかった子をさ……じっくり時間をかけて強くして、また君の前に立たせたら。最高に面白い――そう思ったんだ。
……でも、もう用済みかな」
その声音には悪意も憎しみもなかった。ただ純粋な娯楽を語る子どものように、瞳をきらきらと輝かせている。
――だからこそ、背筋が凍る。
アイカの胸は、氷の手でわしづかみにされたように冷たく締めつけられた。
――そんな理由で。
ただの「面白さ」のために。
七年分の苦痛と孤独を、あの子は背負わされてきたのか。
戦いの最中に聞いた叫びが、耳の奥でこだまする。
痛かった。苦しかった――。
その断片的な言葉の一つひとつが、七年という歳月を地獄に変えた証だった。
助けもなく、逃げ道もなく、ただ生かされ、嘲られ、弄ばれ続けた日々。
それらすべてが、くだらない興味本位の、退屈を紛らわせるための遊戯にすぎなかったのか。
胸の奥で、怒りと悔恨と絶望が渦を巻く。
熱と冷気が同時に広がり、心臓を掴まれたように呼吸が途切れる。
声を上げることもできず、ただその事実の重さに押し潰されそうになった。
「ああ……いいね、その顔」
サクヤ・クオネの声は、ひどく甘やかに響いた。だがその奥に潜むものは、底なしの残酷さだった。
彼はためらいもなくアイカのそばまで歩み寄り、がしりとその顔を掴んで上へ向かせる。冷えた指先が、顎を固定する。
サクヤ・クオネの指先の力は確かにあるのに、仕草は滑らかで優雅だった。その掌から伝わるのは慈しみではなく、観察者の好奇心だ。
「怒りや悲しみや、色んな感情がぐちゃぐちゃになった顔。――僕はね、そういう顔を見るのが大好きなんだ。特に君の顔は、最高だよ」
不気味な笑みが、白い歯の間からのぞく。
アイカの胸に、怒りがぶわりと込み上げた。足元の大地がじりじりと震え、小石が跳ねる。
サクヤ・クオネはその揺れすらも愉快そうに眺め、さらに口元を吊り上げた。
すぐ後ろで羽織を纏った仲間が、反射的に構えを取ろうとする。だがサクヤはアイカの顔から手を放し、軽く手を上げて制した。その仕草一つで、仲間はすぐに動きを止める。
サクヤ・クオネは再び唇を開いた。声は妙に柔らかい。
「今日はね、君にもう一つ用事があったんだ。正確には――君たち全員に、だけど。
君たちがリイトに近づいたのは、トラーナ街の子どもが攫われている件を探っていたからだろう? あれ、僕も噛んでいたんだよ。リイトには随分と働いてもらった。でも、もう続けられそうにない。君たちのおかげでね」
彼は小さく肩をすくめ、楽しげに笑った。
「それだけじゃない。七年前、君たちの村を襲ったのも……僕たちには関わるな、という警告だったんだ。なのにまだ嗅ぎ回る。――困るんだよ。だから伝えておいて。もしこれ以上僕たちを探るなら、次は七年前とは比べものにならないものを見せることになるって。君の仲間にも、村長にも、忘れずにね」
言い終えると、サクヤ・クオネはゆっくりと背を向け、仲間のもとへと歩き出した。
「まっ……て……! 逃がさ、ケホッ――ゴホッ……!」
アイカは必死に立ち上がろうとする。だが身体は言うことをきかない。肺が焼けるように痛み、咳がこみ上げる。視界がぐるりと回り、吐き気に意識が揺らぐ。
それでも、腕に抱えた少女だけは落とすまいと必死に支えていた。
歩き去る背中に、力を振り絞った声が届くかどうか――その瞬間、サクヤ・クオネの唇がまた楽しげに動いた。
「君、さっき慣れもしないのに神選者の力を使いすぎてたでしょう。しばらくはまともに動けないはずだよ。──それじゃあ、伝言は頼んだよ」
アイカは咄嗟に少女の身体を強く抱き締め、指先に力を込めた。血の匂いが鼻の奥で渦を描く。湿った土と鉄の混じった匂いが、胸の鼓動を粗くする。
「お前は、この子以外にも大した理由もなく人を傷つけてんの?」
声は震えながらも真っ直ぐ。言葉の端に、七年分の怨嗟がにじむ。可哀想だとか正義だとか、そんな薄い言葉で片付けられない重さが、彼女の声を太くした。
サクヤは足を止めた。
ゆっくりと首をひねり、後ろへと顔を向ける。その動作はあまりにも自然で、まるで散歩の途中に花を見やるかのように緩やかだ。
視線がふと、アイカの方へ滑る。氷のような光を宿したその瞳が、ひたりと彼女を射抜いた。
そして、和やかすぎるほど柔らかな口調で問いかける。
「だとしたら?」
その一語に、空気がさらに冷たくなる。対峙する二人の距離が、無言のまま縮まる。アイカは目を細め、怒りと憤りの塊をこぼすように言葉を重ねる。
「……何も思わないの? 人を物みたいに使い捨てて、泣いてる姿も、苦しんでる姿も、全部見ないふりして……痛みも罪悪感も残んないの? なんでそんな普通に笑ってられるの?」
サクヤの笑みは崩れない。むしろ、唇の端がほんの僅かに上がると、その顔は猫のように満足げに見えた。
「思わないよ」
言葉は静かで確信に満ちている。
「興味のあるものだけに興味を持つ。それ以外は使えるものに使う。使い終わったら用済み──それだけだ。哀れみや情なんて、生憎僕は持ち合わせてないんだよ」
言葉の一つ一つが冷たい刃となり、アイカの胸を抉る。鼓動が耳鳴りのように高まる。少女の浅い呼吸が、抱きしめた腕の中で震えている。
「だとしても――それは君に関係あるの?」
「……関係は、ない」
「なら、君に言われる筋合いはないよ」
突きつけられた言葉に、アイカは一瞬、胸の奥を抉られる。
確かに、自分がその人たちの何かを背負っているわけじゃない。血も縁もない。
――それでも。
「でも……関係ないからって、誰かが傷ついているのを知っていて、見過ごすなんて――できるわけない!」
「それで?」
サクヤの声音は、ただ面白がる観客のそれだった。
だがアイカの声は、刃のように研ぎ澄まされる。
「だから、私がお前を止める! もう、誰も傷つけさせない!」
短い言葉。それでいて圧倒的な熱を帯びた宣言。
アイカの全身から迸る力が一点に凝縮され、大気を震わせる。
静かだが、確かに燃え広がる火種――その瞳は、決して揺らがなかった。
サクヤはその気配を愉快げに受け止め、ゆるやかに首を傾げる。
「へぇ〜。できるの? 君が?」
サクヤ・クオネは、まるで虫けらでも見下ろすかのように、笑みを浮かべて問いかける。
「確かに――七年前よりは強くなったみたいだね。でも、まだまだ弱い。それでどうやって僕を止めるの?」
挑発に、アイカは息を荒げながらも視線を逸らさない。声は震え、それでも刃のように鋭かった。
「弱いのなんで分かってる! でも――絶対に諦めない! お前を止めるやる!」
一瞬の静寂。
サクヤ・クオネは口の端を持ち上げ、にんまりと笑う。その笑みには残酷な愉悦しかなかった。
「そう。いいね! なら頑張って僕を止めに来てごらん。……でも覚えておきなよ。僕も君を、容赦なく潰しに行くからさ」
その声音は甘やかで、しかし死刑宣告のように冷たい。
そして、背を翻しながら軽く言い捨てる。
「今日はもう帰るよ。じゃあ――君がどこまで僕を止められるか、楽しみにしてる」
背を向け、仲間と共に森の闇へと消えていくサクヤ・クオネ。
その後ろ姿を、アイカは崩れ落ちそうな体で必死に支えながら、ただ睨み続けていた。
立ち上がる力はもう残っていない。だが――意志だけは、決して折れてはいなかった。
神血の英雄伝 第六三話
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次回も読んでくださると嬉しいです૮ ˶ᵔ ᵕ ᵔ˶ ྀིა




