川辺での一日目
明刻の始め。
アオイは川辺で出会った子どもたちとともに、粗末な天幕の下に身を寄せていた。
地面には薄い敷物が張られ、その上に低い木の台。椅子代わりであり、夜は寝床にもなるのだろう。
アオイと年少の二人の少年がそこに腰を下ろし、地面には十歳前後の少女と、年長らしい少年少女が並んでいる。
十歳前後の少女は年長の少女の袖をぎゅっと握り、怯えた目でアオイを見ていた。
少し離れたところには、サレックが腕を組んで立っている。
天幕の内側を見回すと、毛布が大小いくつも折り重ねられ、隅には水を張ったバケツ。罅の入った食器や古い衣類、ぬいぐるみや小さな玩具まである。
質素ではあるが、アオイが想像していたよりは生活感に満ちていた。
(思ったより……ずっと整ってるんだな)
考えていると、黒髪の少年が手を叩き、仲間に声をかける。
「よし、今日から仲間が一人増える。大変になるかもしれないけど、みんなで頑張ろう」
「うん!」
「うん!」
年少の二人が揃って元気に返事をした。
「私はカンラ。……あなたの名前、聞いてもいい?」
年長の茶髪の少女が、手のひらを差し出すようにして尋ねる。
「アオイ」
偽名を使うべき場面かもしれなかったが、即興で名を偽れるほど器用ではない。アオイは素直に自分の名を口にした。
「ぼくはカスタ! よろしくね、アオイおにいちゃん!」
右隣の金髪の少年が、人懐っこい笑顔を向けてくる。
「ぼくはカスルだよ」
左隣にいたもう一人の少年が、兄の後を追うように自己紹介した。
「二人は兄弟なんだ。よく見れば顔が似てるでしょ?」
カンラが笑いながら補足すると、確かに兄弟は同じ輪郭と瞳を持っていた。
「ぼくがおにいちゃんで――」
「ぼくがおとうと!」
重なる声に、思わずアオイは目を細める。カンラがさらに説明を添える。
「カスタは四歳で、右目の下に黒子。カスルは五歳で、口元の左側に黒子があるのが見分けの印よ」
言われて見れば、確かにその通りだった。
「ちなみに私は十四歳。……で、この子が八歳」
カンラは隣に座る少女へ視線を向ける。少女は俯いたまま小声で「エリア……」と名乗り、すぐに顔を逸らした。
続いて、黒髪の少年がアオイに手を差し出す。
「僕はチアー。十四歳。よろしく、アオイ」
握手を交わしながら、アオイは短く返した。
「……よろしく」
チアーは頷くと、振り返ってサレックへ声を投げる。
「サレックも挨拶したら?」
「こんな奴に、誰がするかよ」
棘のある声。チアーは苦笑して肩をすくめる。
「サレックは十三歳。僕とエランの一つ下なんだ」
どうやら年齢順でいうとサレックが次に年長らしい。アオイを露骨に拒絶する態度に、アオイはふと一人の顔を思い出した。
(……セイスに似てる)
荒っぽい言葉、鋭い視線。その粗野さは、確かにセイスを連想させた。
そのとき、袖をくいくいと引っ張られる。
「ぼく、おなかぺこぺこ」
カスタが甘えるように言い、反対側からは弟のカスルも同じように掴んでくる。
「ぼくも……」
両袖を引っ張られ、アオイは思わず目を瞬かせた。
(お腹が空いたのか……でも俺は何も持ってない)
「魚を獲りに……木の実を探した方がいいのか」
戸惑いながらつぶやくと、チアーとカンラが笑い、カンラが外を指差す。
「魚なら、さっき獲ってある。焼いて食べよう」
指差した先には、すでに魚の入ったバケツが置かれていた。
「じゃあ、みんな準備しよう」
チアーの掛け声に、子どもたちは一斉に動き出す。カンラが袋を抱え、エリアは小枝を集め、サレックは食器と布を運び、弟たちははしゃぎながら川の方へ走っていった。
(……俺はどうすれば)
アオイが立ち尽くしていると、サレックがぎろりと睨みつけた。
「お前も座ってないで準備しろよ」
「何をすればいい?」
「あっちで火をおこせ」
顎で示されたのは、焚き火用の石組みの場所だった。
「分かった」
アオイは立ち上がると、焚き火のために石で組まれた場所へと歩いていった。エリアが持ってきた枝がいくつも置かれている。彼は迷うことなく二本を手に取り、ぎゅっと両手に握りしめた。
──それだけ。
次にどうすればいいのか分からないのだろう。眉を寄せて枝をじっと見つめ、少し首をかしげる。やがて試しにこすり合わせてみるが、もちろん火などつくはずもない。
両手で枝を大事そうに持って、どうしたらいいのか迷っている姿は、小さなリスが木の実を抱えて困っているようで──思わず笑みがこぼれるほど愛らしかった。
彼の横に、すっと影が差す。いつの間にか隣に座り込んだ人物が、その様子を眺めながら小さく息を漏らした。
エリアだ。小さな箱を差し出し、蓋をずらす。中には赤い先端を持つ細い木の棒が整然と並んでいる。
「火をつけるなら、マッチを使うといいよ」
そう言って一本を取り出すと、箱の側面に擦りつける。ぽっと小さな炎が咲いた。エリアはそれを枝の束へ投げ入れ、瞬く間に火は広がり、焚き火が燃え上がった。
「ありがとう」
アオイが声をかけると、エリアは焚き火をじっと見つめたまま、肩をわずかにすくめて「……うん」とだけ答えた。頬にわずかな赤みが差しているのを、アオイは見逃さなかった。
(……暑いのか……)
焚き火の熱か、それとも陽光のせいか。アオイは首をかしげながら、静かに彼女の横顔を見つめた。
◇
それから約四十分ほどが過ぎていた。
細い枝に串刺しにされた魚は、じっくりと焚き火で焼き上がり、エリアとサレックはそれぞれ自分の魚を手に取り、カンラのもとへ持って行った。
カンラは持ってきた袋を開くと、白い粒――塩が入っていた。二人の魚に塩をふりかけ終えると、カンラはアオイの方を向いた。
「アオイも塩をかけるから、こっちに持ってきて」
「ああ」
アオイは残っていた魚の中から一匹を手に取り、カンラのもとへ運んだ。
塩を振ってもらうと、ふわりと香ばしい匂いが鼻をくすぐる。
チアーは小さめの魚を二匹選び、俎の上に置いて包丁で細かく切っていく。
その様子を、腕と匙を持ったカスルとカスタが、目を輝かせて見つめていた。
まだ小さい二人は、食べやすいように魚を整えてもらっているのだろう。
切り終えるとチアーは二人の腕に魚をのせ、上からカランが塩をふった。
残りの作業を終えたチアーとカンラも、自分たちの魚を整え、子どもたちは声を揃えて「いただきます」と言う。
「おいしぃー!」
カスタが満面の笑みで口に運ぶと、その隣でカスルも、夢中になって匙で魚の身をほぐしながら食べていた。焼けた香ばしい匂いがふんわりと立ち上り、焚き火の煙と混ざって、川辺にゆるやかに漂う。
「……いただきます」
アオイも少し遅れて口に運ぶ。塩を少しふっただけの焼き魚。熱でほぐれた白身はやわらかく、所々に焦げ目がつき、ほのかな苦味が広がる。噛むたびに焚き火の煙の香りが鼻に抜け、舌の奥にじんと残った。
(苦い)
周りでは子どもたちの笑い声が混じり合い、匙の音や魚をほおばる小さな咀嚼の音が絶え間なく続く。その向こうで川の流れがさらさらと音を立て、焚き火のはぜる音と重なって、静かな川辺に心地よいざわめきを生んでいた。
子どもたちが黙々と食べ終えると、エリアは立ち上がり、魚の入っていたバケツを手にした。冷たい水を焚き火にかけると、じゅっと白い蒸気が立ちのぼり、辺りに焦げた煙のにおいが漂う。小さな宴の終わりを告げる合図のようだった。
チアーとカンラ、エリアが腰の埃を払いながら立ち上がる。
「それじゃ、僕たちは行ってくるから」
「また夜にね」
「またね」
三人の背中に向かって、残った子どもたちが口々に声をかける。
「いってらっしゃい!」
「がんばってね!」
明るく響く声が川辺に広がり、流れの音に溶けていった。
アオイはその様子を見送りながら、何気なく問いかけた。
「どこか行くのか?」
振り返ったチアーが笑みを浮かべて答える。
「うん。僕たちはお金を稼ぎに行くんだ」
その言葉に、アオイはわずかに目を細めた。三人は他の子どもたちと違い、いつも別行動を取っているのか。もしかすれば、子攫いの件に通じる何かを掴めるかもしれない。
「俺も一緒に行っていいか?」
疑いを招かぬよう、できるだけ軽い調子で尋ねてみた。だが、返事はすぐに返ってくる。
「ダメだ。お前は俺たちと残って片付けをするんだ」
近くにいたサレックが、焚き火の残り火を見下ろしながら厳しい口調で告げた。その声音には、逆らう余地などない。アオイは僅かに眉を寄せ、逡巡した末に残ることを選んだ。
◇
三人の背中を見送ると、残った三人はすぐに動き出した。
カスルとカスタは、使い終えた腕と匙を水の残るバケツに浸し、手のひらでこすりながら汚れを落としていく。ぱしゃりと水音がはね、川の流れと混じる。
サレックは俎と包丁を抱え、茶色い布を手に川の方へと歩き出した。背を向けたまま、ぶっきらぼうに言い残す。
「お前は洗ったやつを拭け」
「おにいちゃん、あげる」
カスタが小さな手で匙を差し出す。
カスルが横から指を伸ばし、赤い布を指さした。
「それでふくんだよ」
アオイは黙って布を取ると、子どもたちが渡してくる食器を一つずつ丁寧に拭き取っていく。
やがて、川から戻ったサレックが俎と包丁を手に近づいてきた。滴る水をかすかに振り払いながら差し出す。
「次はこれだ」
アオイがそれらを拭いている間に、カスルとカスタは腕と匙を天幕へと戻し、サレックは空になったバケツを担いで水辺へ向かう。
天幕に入ると、先にいたカスルとカスタが一斉に顔を上げた。
「ここにおくんだよ」
カスルが指さした台の上には、きれいに拭かれた腕や匙が整然と並んでいる。
アオイが余白に俎と包丁をそっと置いた瞬間、左右からぎゅっと腕をつかまれた。
「アオイおにいちゃん、あそぼう!」
「あそぼう!」
期待に満ちた笑顔が真っ直ぐに突き刺さる。
「……何して遊ぶんだ?」
アオイの問いかけに、カスルは脇に置いてあった球を手に取った。
「ボールであそぼう!」
それを「ボール」と呼ぶ声に、カスタも元気よく続ける。
「サレックもだよ!」
ちょうど戻ってきたサレックの姿を見つけ、嬉しそうに叫ぶ。
「今日はボール遊びか!」
サレックは歩きながらにやりと笑ったが、アオイの姿を認めた途端、表情を曇らせる。
「……こいつもかよ」
「アオイおにいちゃんもいっしょなの!」
「なかまはずれダメだよ!」
二人の反撃に押され、サレックは小さくため息をついた。
「……わかったよ」
◇
四人は天幕から少し離れた草地に出る。カスルが球を掲げ、声を張り上げた。
「あてっこゲームしよ! ぼくはサレックといっしょ!」
「じゃあ、ぼくはアオイおにいちゃんと!」
カスタはアオイの腕にしがみついたまま、誇らしげに宣言する。
「ルールはね、ちゃんとあるんだよ」
カスルが胸を張って言った。目はきらきらと輝き、どこか誇らしげだ。
「てきにボールをなげて、とれなかったら……アウト!」
言葉を言い切ると同時に、カスルは小さな拳をぐっと握りしめた。
その仕草はまだ幼さが残るのに、得意げに胸をそらす姿だけは年上ぶって見える。
(あぁ、確かナサ村でも、子どもたちが広場で球を追いかけて遊んでいたな……)
アオイは、あのときの風景を思い出す。笑い声が飛び交い、時折転んで砂まみれになったりしながらも、楽しそうに走り回っていたあの光景だ。
今、自分の前に立つサレックとカスル、そして自分とカスタ――二組に分かれ、少し距離を空けて向かい合う。先行はサレックとカスルの組で、サレックがボールを構えた。
その視線は、間違いなくアオイを狙っている。ぎらりと光る瞳が、こちらを睨みつける。
(見てろ……すぐに当てて、二人にカッコ悪いところを見せてやる……)
サレックは小さく息を吸い込み、ボールに力を込めた。
(くらえ……!!)
勢いよく飛んできたボール。アオイの顔目がけて、真っすぐに放たれる。サレックはにやりと勝ち誇った笑みを浮かべる。
(俺は周りより力があるんだ……さっきは油断していたけど、これなら――)
その瞬間、サレックの自信は一瞬で崩れた。
アオイは、力いっぱい投げられたボールを、片手でひょいと受け止めてしまったのだ。顔色一つ変えず、まるで何事もなかったかのように。
(は……? 嘘だろ……いや、嘘だろ……)
サレックは瞳を大きく見開き、唖然とする。自分の力に少し自信があったのに、こんなにも簡単に止められるとは――。
「アオイおにいちゃん、かっこいい!!」
「すごい!すごい!」
対照的に、カスルとカスタは目を輝かせ、心の底から声を上げて褒める。
そして、アオイの手に渡ったボールは再びサレックへ。
(これを投げれば……いいんだな?)
アオイは、程よい力加減で左腕を狙い、ボールを投げる。サレックも咄嗟にボールを受け止めた。
(簡単にやられるわけないだろ……!!)
少し苛立ちながら、サレックは即座にアオイへ投げ返す。アオイも、同じように受け返す――。二人の間で繰り広げられる熱戦に、カスルとカスタは声をそろえて応援した。
二十分ほど続いた二人の真剣勝負も、最後は体力が尽きたサレックがボールを取り損ね、カスルもカスタのボールを取れずにゲームは終了した。
カスルは興奮気味に「すごい!すごい!」と褒めたたえ、サレックは悔しそうに顔をしかめた。
その後、子どもたちは隠れ遊びやぬいぐるみで遊び、昼膳に木の実を食べ終えると、カスルとカスタは眠気に誘われ、すやすやとお昼寝を始めた。
残されたアオイとサレックは、川辺の小さな平地に並んで腰を下ろした。互いに言葉を交わすこともなく、視線も交わさない。
風に揺れる木々の葉のざわめき、少し先で静かに流れる川の音、遠くで虫が鳴く声――それだけが、二人を包んでいた。
アオイは足元の石をじっと見つめ、心の中で思った。
(これが、嫌われてるってやつか……?)
サレックと出会って、もう九時間ほどが経っていた。最初はただ気の荒い子どもだと思っていたが、その態度や口調には、確かに自分に対する嫌悪のようなものが滲んでいる。
(どうして嫌われてるんだ……)
特別悪いことは何もしていないはずだ。最初に川辺で見つめていたときからダメだったのか、それとも拳を掴んだことか――アオイは考えを巡らせていた。
そのとき、隣から小さく声がした。
「なぁ」
思考から引き戻され、アオイはサレックの方へ顔を向けた。サレックは足元の小石を川へ投げて、ゆらりと水面に波紋を広げている。
アオイの視線に気づくと、サレックはぽつりと口を開いた。
「なんでここなんだよ。川辺なら他にもあるし、ガキの集団もここと同じくらいあるはずだ」
言葉には以前ほどの棘がなく、ほんの少しだけ柔らかくなった口調だった。確かに、ここ以外にも同じような川辺があってもおかしくはない。
(ただ、ここを指定されただけだが……)
アオイは心の中でつぶやき、素直に口を開く。
「ここが一番近かったからだ」
嘘ではない。ネシュカからこの川辺に行くよう指示されており、建物から一番近かったのは事実だ。
言葉を聞いたサレックはゆっくりと顔を向け、目を細める。
「嘘はついてないな……?」
警戒の色は残るが、ここ数時間の接触で、アオイが仲間を騙そうとしている様子は見えなかった。任務中とはいえ、アオイは緊張しすぎず、自然体で接していた。
「じゃぁ、ここの奴には何もしないんだな?」
「しない」
「本当だな?」
「本当だ」
サレックの視線はまだアオイを捉えたまま。眉間に小さな皺が寄り、口元にわずかな緊張が残る。手の指先が軽く動き、何か確かめるように小石をつまむ仕草をした。
「……信じるからな?」
声は低く、しかし前よりも穏やかさを帯びている。視線はまだ鋭さを失っていないが、わずかに柔らかくなった気がした。
「ああ」
アオイは短く、力強く答えた。その瞬間、二人の間の空気が少しだけ変わった。沈黙の中で、川のせせらぎや木々のざわめきが、互いの呼吸をゆっくりと混ぜ合わせるように流れる。
サレックは少しだけ顔をそむけ、手をぽんと太ももに置いた。目はまだアオイから逸らさない。アオイも視線を外さず、肩の力を少し抜く。
静かな時間が一呼吸だけ過ぎた後、サレックが小さく息をつき、声をさらに低くして言った。
「……よし、わかった。お前はあいつらを傷つけない。俺もお前を信用する、な」
アオイはゆっくり頷く。言葉は必要なかった。互いの沈黙が、確認と約束の役割を果たしていた。
◇
夕刻の半ば。
川辺の天幕へとチアー、カンラ、エリアが戻ってくると、そこには朝とは打って変わった光景が広がっていた。
出かける前には、サレックは露骨にアオイを煙たがっていたはずだ。言葉少なに、刺のある視線ばかりを投げつけていた。
ところが今、天幕の中で彼は笑顔を浮かべ、身振り手振りを交えてアオイに何かを語っている。その横では、カスルとカスタも無邪気に声を弾ませ、輪の中で笑い合っていた。
アオイだけは真顔のままだったが、その瞳は鋭くも真剣で、相手の言葉を逃すまいと耳を傾けている。
「――あ、チアー! カラン! エリア! おかえり!」
最初に気づいたのはカスルだった。勢いよく立ち上がり、手を振る。
カスタも笑顔で「おかえり」と声を重ねる。遅れてサレックも、ぎこちないながらも柔らかな笑みを浮かべて「お帰り」と言った。
そして最後に、アオイが少し迷ったように言葉を選びながら――「……お帰り」と口にした。
四人の声が重なった瞬間、チアーは思わず目を瞬かせる。
「えっと……サレックとアオイって、いつの間に仲良くなったの?」
カンラも不思議そうに首を傾げる。その後ろでエリアが、ひそやかに「本当だ、仲良くなってる」と呟いた。
サレックはすぐさまアオイの首へ腕を回し、わざと大げさに抱き寄せる。
「色々あってさ、仲良くなったんだ!」
「色々って……?」とカランが首をかしげる。
サレックは一瞬言葉を探し、それからニヤリと笑った。
「それはな――俺たちの秘密だよな? アオイ!」
「……あぁ」
短く答えたアオイの横顔を、蝋燭の炎がかすかに揺らした。
「おとことおとこのやくそく!」
「やくそく!」
カスルとカスタが、楽しげに声を揃える。チアーとカンラは視線を交わし、苦笑しながら肩をすくめた。
「まぁ……二人が仲良くなったなら、それでいいけど」
「だね……」
そのやり取りを見ていたエリアも、安心したように小さく頷いた。
その後は、朝と同じように川魚を焼いて皆で分け合い、片付けを済ませて、順番に川の水で身体を拭った。頭は水をかけるだけの簡単な洗い方だったが、アオイの青髪は洗髪剤もなく、少しきしみを帯びている。
深刻の終わり頃。
台の上にはエリア、カスル、カスタが三人並んで小さく丸まり、すぐに寝息を立てた。チアー、カンラ、サレックは地面に布を敷き、枕代わりに丸めて寝転がっている。陽は落ちたが、まだ川辺の空気はほんのりと温かく、上掛けもいらなかった。
アオイは天幕の外に出て、太い木の根元に身を預けた。
川辺に来てまだ一日。最初は怪しい奴だと警戒され、次には仲間の輪へと迎えられ、一緒に昼膳を取り、子どもたちと遊び、笑い合った。守攻機関での任務に比べれば、はるかに気楽で穏やかな一日――それでも、なぜか胸の奥には重たい疲労が残っていた。
カスルとカスタは次から次へと遊びを見つけ出し、サレックも“あの約束”以来、ずっと距離を詰めてくる。心を許された喜びと同時に、慣れない熱の中で身を置くような、奇妙な倦怠感がアオイを覆っていた。
彼は半ば閉じた瞼の奥で、眠りについた六人の寝顔を見やった。
神血の英雄伝 第五八話
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