道ばた拾い話 退屈を楽しむ方法
イオリは癒庵での治療を終え、ようやく守攻機関の宿に戻された。
とはいえ、しばらくの間は訓練も見回りも禁止され、記録書や報告書の整理など、地味な雑務に追われていた。
アオイは北東の森でアイカたちと訓練中。
役場にはシアン、北門にはユサ。
セイスは大部屋でイナトに傷の手当をしてもらっているらしく、ちょっかいをかけに行く相手もいない。
退屈な時間が、静かに過ぎていく。
ぐぅぅぅ
イオリのお腹が勢いよくなった。
(そう言えば……朝から何も食べていませんでした)
イオリは、お腹に視線を落とし、ようやく思い出した。
「たまには外で食べるものいいですね」
イオリは思いついたように笑顔で呟き、市場の近くにある、炊所やちい飾りなどが並ぶ、賑の小路へと足を進めた。
◇
賑の小路には、作った膳を出す炊処や茶処、首飾りや髪飾りを扱うちい飾りなどが並んでいた。
(あそこにしましょう)
ふらっと目についた炊処に入る。
中は右側に高い椅子がずらり、左奥には焚処があり、数人の村人が膳を食べていた。
「こんにちは、空いてる机にどうぞ」
十六歳くらいの少女が気づいて声をかけてくる。
イオリはにこっと笑ってうなずき、空いていた机に腰を下ろした。
少女が記し札と墨木を手に近づいてくる。
「何を食べますか?」
「そうですね……では、この“彩り飯”でお願いします」
膳書きを一通り見たあと、イオリは明るく言った。
少女は「はい」と返事をして記し札に書き、焚処の方へ向かった。
しばらくして、彩り飯と一緒に小さな器を持って戻ってくる。
「お待たせしました。香搾と辛芽は、お好みでどうぞ」
「ありがとうございます」
彩り飯は、麦米の上にクフロ、アユラ、ヌルイ、そして粒状のアユラの卵が乗り、目にも鮮やかだった。
(きれいですね……)
香搾をひと回しかけ、箸を口元へ運ぶ。
(……これは。とても美味しい。リグラムで食べるのとはまた違った味わいです)
あっという間に食べ終え、支払いを済ませて炊処を出た。
(本当に美味しかったです。明日は茶処にでも行ってみましょうか)
そう思いながら、イオリは満足そうに笑った。
そして、残りの療養も、彼なりに楽しんで過ごした。
道ばた拾話 退屈を楽しむ方法
お読みいただきありがとうございました。
次回からは、いよいよリグラム編に入ります。
引き続き楽しんでいただけたら嬉しいです!
……ちなみにイオリは、療養中ほぼ毎日、賑の小路に足を運んでいたそうですよ՞•・•՞




