道ばた拾い話 かわいい報告書
飯箱を食べ終えたアイカ、レイサ、そしてハナネの三人は、木刀を持って北東の森へ向かうため、第二部隊室を出た。
ちょうどそのとき――隣の第一部隊室から誰かが出てきた。
三人の目の前に、不意に姿を現したのはアオイだった。
「うわっ、びっくりした……」
アイカが思わず小さく跳ねる。
予想外の登場に、目をぱちくりさせながらアオイを見た。
「休憩はもう終わりか?」
アオイはまったく動じず、無表情のまま問いかけてくる。
「はい。アオイさんは……?」
レイサが元気よく答えると、つづけてアオイにたずねた。
「俺はこの前、養屋で子羊が逃げたから捕まえてほしいって依頼をもらってな。それの報告書を、今からユサ隊長に提出しに行く」
そう言うとアオイは、手に持った紙をちらりと見せた。
三人の視線が、自然とその紙へと引き寄せられる。
「え、見てみたい!」
アイカが声を弾ませた。レイサもすぐに続く。
「俺も気になります!」
言葉には出さないものの、ハナネもそっと首をかしげながら報告書に視線を向けていた。
アオイは、三人の様子を見て一度小さくうなずくと、報告書を広げて見せた。
「ちょうどいい。三月もすれば、三人も自分で依頼をこなすようになる。報告書の書き方も、そのうち覚えてもらうことになるからな」
紙の端を持って開いたアオイは、無言で三人にそれを差し出した。
三人は、ぐっと顔を寄せ、興味津々で覗き込む。
だが、そこに書かれていたのは――三人の想像とは少し違う、いや、かなり違う文章だった。
この前
子羊が逃げてしまったので
東の森に探しに行きました。
子羊は すーすー 寝てました。
起こさないように そっと連れて帰りました。
アオイ
「…………」
一瞬、沈黙が落ちた。
三人は目を丸くしながら顔を見合わせた。
“報告書”という言葉からイメージしていたものと、あまりにも違っていたからだ。
(え、えっ……これでいいの?)
「どうした? 難しかったか?」
アオイは三人の沈黙を見て、ちょっとだけ不安そうに眉を寄せた。
「いや……難しいというか……」
アイカが困ったように言葉を濁し、レイサとハナネの方に視線を向ける。
「すごく……分かりやすいです」
レイサが気を遣うように、でも正直な気持ちをにじませて答えた。
ハナネも、こくんと小さくうなずいた。
「見せてくださって、ありがとうございます」
「別にいい。なにかあったら、また言え」
アオイはそっけなく言うと、報告書を折りたたみ、すたすたと踏み場のほうへ歩いて行った。
その背中を見送りながら、三人はどこか妙に印象に残った“報告書”を思い返していた。
「……あの報告書、いいのか」
アイカがぽつりと漏らすと、横からハナネがそっとささやいた。
「……すーすー、ねてました……」
レイサは一瞬きょとんとしたあと、くすっと笑った。
そのあと三人は、北東の森でイナトにそれとなくアオイのことを尋ねた。
「ああ、アオイ? 前から文を書くのはちょっと苦手でね」
イナトはどこか優しい顔で笑いながら言った。
「……そうなんだ」
アイカは目を細めながら、ほんの少しだけアオイに対する見方が変わった気がした。
いつも無表情で、少し冷たそうにすら見える先輩。
……だけどその報告書は、不器用だけどまっすぐで、少しだけ子どもみたいだった。
意外で、だけどちょっとかわいらしい一面。
三人は、またひとつ小さな発見を心にしまった。
その後、アオイは役場へ行き、報告書をユサに提出した。
報告を読み終えたユサは、しばらく沈黙したのち、ぽつりとつぶやいた。
「……アオイ」
「はい。不備がありましたか」
アオイはまじめな顔で問い返す。
だが、ユサは首を横に振りながら、ふっと笑った。
「いや……人それぞれだ。そのままでいい」
それだけ言って、報告書を受け取ったという。
――アオイの書く報告書は、今日も変わらず、すーすーと眠る子羊の夢のように、どこかやさしく静かだ。
道ばた拾い話 かわいい報告書
読んでいただきありがとうございました。
次回も読んでくださる嬉しいです!
アオイは、記録書や報告書をまとめるのが苦手で徹夜して考えるときもあります。




