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神血の英雄伝  作者: 三坂 恋
第一章 守攻機関
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二次試験 終

 守攻機関の本部では、合格発表の紙が貼り出されるのを待つ志願者たちが、固唾を飲んで集まっていた。


 アイカとレイサは肩を並べて立ち、ハナネは人混みの後方、壁際に身を寄せていた。

 三人の顔には、どこか影が落ちていた。空瓶を守れなかった失敗、そしてアオイとイオリという圧倒的な実力者にまったく敵わなかった敗北感が、全身に重くのしかかっていた。


 それは彼らだけではなかった。他の志願者たちの表情も沈んでいる。誰もが敗北の味を知った。誰一人、あの二人に勝てた者はいない。


「今回は……誰も受からない」


 そんな諦めにも似た空気が、本部全体にじわじわと広がっていた。


 しばらくして、見張り人が紙を手に姿を現した。

 ざわめく空気を感じたのか、どこか申し訳なさそうに小さく肩をすくめながら、伝達板に紙を貼りつける。


 その瞬間、静かだった場が――


「え、合格者いるじゃん」

「うそ、本当?」


 ざわっと、ざわめきが広がる。


 アイカ、レイサ、ハナネの三人は、はっとして顔を上げた。

 心臓が大きく跳ねる音が、胸の奥で響く。


 そして目にしたのは――信じられない名前だった。



 レイサ・ハリス

 アイカ・カコエラ

 ハナネ・ノセラ


《以上三名を第二部隊へ配属する》



 紙には、ただそれだけが簡潔に書かれていた。

 だが、その意味の重さに、三人は言葉を失った。


「え、なんで……?」

「失敗、したのに……」


 頭が追いつかない。空瓶は割れ、奪われ、敗北は明らかだったはずだ。

 周囲の視線が、徐々に三人へと集まっていく。



 戸惑いの中、見張り人が他の志願者を下がらせ、三人を守攻機関の本部――隊長室へと案内する。


 室内には、ユサがいた。そしてその左右には、アオイとイオリも並んでいた。

 三人が緊張しながら立ち尽くすと、ユサが言葉を発する。


「まず……第二試験、合格おめでとう」

「これより君たちは、守攻機関の隊員として――人々のために全力を尽くしてくれ」


 その一言に、空気が一瞬だけ静止した。

 アイカは、目を見開き、驚きを隠せないでいる。


(……夢じゃない?)


 敗北の記憶、傷の痛み、あの無力さ。

 それでも「合格」と言われた。

 信じたい。でも、信じるのが怖かった。


 レイサは、握った拳の中に、まだ力が残っていないことに気づいていた。


(なんで俺が認めされたんだ……)


 サユの笑顔を守ると誓い敗北した自分。

 何もかも足りなかった自分が、それでも――ここに立っている。


ハナネは、わずかに眉をひそめたまま、じっとユサを見ていた。


(選ばれた理由が知りたい……)


 胸の奥が静かに疼く。

 敗北したはずの自分が「選ばれた」という現実に、心が追いつかない。


 三人の視線が交錯する。

 言葉にすべきか、それとも黙って受け入れるべきか――その狭間で、わずかな戸惑いが胸をゆらしていた。



 そんな空気を見透かすように、ユサが淡々と説明を始める。


「試験内容は覚えているな。森から出ること、獣に攻撃を加えること、そしてアオイやイオリに致命的な攻撃をした場合は、失格と伝えていた。

……だが、空瓶を“守れなかった場合”については、失格とは言っていない」

「……え?」

「……は?」

「……はい?」


 三人の顔が、そろってぽかんとした表情になる。

 その様子に、イオリが柔らかな笑みを浮かべながら続けた。


「“命”が自分の手に委ねられたとき、どう動くか。……それを、私たちは見たかったんですよ」

逃げる者、怯える者、自惚れて無謀に突っ込む者。――その中で、君たちは、確かに命を守る覚悟を見せました」


 冷静な口調で、アオイも補足する。


「自分たちより強い相手だと分かっていても、それでも立ち向かった。逃げずに、怯まずに自分の想いを背負って、命に届く距離まで来た。――その意志を、俺たちは見届けた」

「……意志……」


 アイカがぽつりとつぶやいた。空瓶の意味は今、ようやく腑に落ちた。だが“意志”とは――。


「試験中に聞かれませんでした? 守攻機関を目指す理由」


 イオリの声に、三人は、はっとしたように目を見開く。


(……あれも、試されていたんだ)


 ユサは無言で立ち上がり、部屋の片隅に飾られていた剣を手に取った。

 それは、守攻機関の初代が携えていたと伝わる剣――“誓剣せいけん”と呼ばれる、正義と覚悟の象徴だった。


「膝をついてくれ」


 三人は、ゆっくりと膝を折った。緊張に手が汗ばむ。


 ユサは、一人ずつ名前を呼びながら、左肩へとそっと剣を置く。

 その動きには、歴史の重みがあり、命を預ける覚悟があった。


 まだ未熟。けれど、誰かを守りたいという想いは、誰よりも真っ直ぐだった。


 この瞬間、三人の人生は大きく動き出した。


 三つの誓いが、静かに芽吹いた。

 後に人々はそれを、「新たな風が、守攻機関を揺らした日」と呼ぶことになる。

神血の英雄伝(イコルのえいゆうでん) 第十八話

読んでいただきありがとうございました。

次回も読んでくださると嬉しいです(՞ . .՞)︎


今回で二次試験が終了しました!

次回からアイカ達は第二部隊になります₍ᐡ ˃ ⁻̫ ˂ഃᐡ₎

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