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 「お父ちゃんの夢は、あんたが真鍋さんと結婚して、店を継いでもらうことだったんだよね」

その夜、ふたりだけになったとき、母が父を偲んでつぶやいた。


 驚くべき告白だった。

それをもっと早く知っていたら……。

頭の中で繰り広げられる、自分に都合のいい夢物語をしばし楽しんだ。そして現実の幕が下りる。

知っていたって何も変わらない。肝心の真鍋にその気がないのだからどうにもならない。


 「それなのにあんたは店に寄りつかないし、真鍋さんは見合いして、あっという間に結婚しちゃうし……」小さなため息をこぼした。


 「ごめん」辻丸不動産を避けていた謝罪だ。


 母が首を振る。

「あんたはいい人と結婚して、かわいい孫を抱かせてくれたじゃない。お父ちゃんは喜んでいたよ」


 孫を抱いてはしゃいでいた父を思い出したら、涙が込み上げてきた。


 「だからさ、あんたはこれまで通り正さんと暮らしたらいい。お店は真鍋さんにお願いするから心配いらないよ」


 とたんに泣いてる場合じゃなくなった。

これまで店を避けておきながらの勝手だが、その案には賛成しかねる。


 父の跡を継ぎたいと思い研鑽を積んできた。真鍋と結ばれることは叶わなかったが、店まで諦めたわけじゃない。それを目の前で、真鍋にかっさらわれようとしている。


 「私が跡を継ぐから」きっぱり言い切った。

これ以上、感傷に浸り人生を狂わせてなるものか!今度こそ臆病風を吹き飛ばし、真鍋と対峙しなければならない。

この際、夫ともしっかり向き合うべきだ。


 「あんたが継いでくれたら私はうれしいけど、正さんはどうするの?あんたはいいとして、正さんはこんなところまで引っ越してくれるの?」


 「あの人には、私より大切な人がいるの」これまで誰にも内緒にしてきた秘密をぶちまけた。


 母は絶句している。

まさか、娘夫婦がそんな深刻な事態に陥っていたとは思ってもみなかったのだろう。


 「証拠は掴んでいるの。だから、親権は絶対に渡さない」

闘う覚悟はできた。あとは行動あるのみ。


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