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私らしい、って何?彼の考える私ってどういうの?
真鍋に真剣な告白を子ども扱いされ、傷ついていた。彼にとって、私はまるで眼中にないとわかり希望が潰えた。
もう辻丸不動産には行けない。彼を見ることに耐えられない。
燿子は涙を拭って鏡をにらんだ。
涙に汚れた顔は悲惨だ。化粧ははがれ鼻の頭が赤い。
どうにか真鍋の前で泣くのはまぬがれたが、ファミレスを飛び出してからはボロボロだった。
そのせいで、すっかり両親を心配させてしまった。
ふたりには失恋したとだけ話し、相手のことは言わなかった。
真鍋に迷惑がかかるといけないし、実際、彼は何もしていない。
私が空回りしただけだ。
その後、燿子の目標は、真鍋を忘れることになった。
だが永い間、彼を思い続けてきたのにそう簡単に変われるものではない。
思った以上に傷が深く、辻丸不動産に近づくこともできない有様だ。
それ以外は念願通り宅地建物取引主任者試験に合格し、無事大学を卒業できた。
燿子は地元を離れ大手の不動産会社に就職した。
それなのに、母から真鍋が結婚したことを聞かされたとたん痛みが蘇った。未だ彼を乗り切れていなかったことがショックだった。
燿子の足はさらに辻丸不動産から遠のいた。
真鍋を思い切ったことを証明するためにその当時、付き合っていた相手と結婚さえした。
そんな理由で結婚するなんて本当に馬鹿だったと思う。
心に他の男性を宿しているのにうまくいくわけがない。
会社の会計事務をやっていた長沢正は無口で、燿子の話をよく聞いてくれる優しい男性だった。
すでにその時点で寡黙な真鍋のイメージを彼に重ねている。
ところが結婚してみると、聞き上手どころかしゃべるのが苦手な頼りない夫だった。
そこまではいい。どこの夫婦だって多少の問題はあるものだ。
だが正の場合、妻といるよりも居心地のいい相手を見つけた。本人はばれてないと思っているが、ネタは挙がっている。
それでも子どももいるし、負い目もあるので気づかないふりをしていた。
そんなとき父が亡くなった。