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「好きです。付き合ってください」
まぶしいくらい真っ直ぐな目が光平を見つめ、ためらいもなく言い切った。
辻丸燿子と仕事帰りに待ち合わせたファミレスでのことだ。
いつもなら、女性の誘いはきっぱり断るのだが――ストーカー被害にも遭えば、用心深くもなる――社長の娘だし、真面目な彼女のことだから何かの相談だと思っていた。
それがどうだ?
『好きです』?『付き合ってください』?
高校を卒業したばかりの小娘が、のぼせ上がってばら色の夢を見てやがる。下手をするとまたストーカーにつきまとわれかねない事態だ。
「燿子ちゃん」
かわいい姪っ子に話しかけるように呼びかける。
「どうしたんだ?燿子ちゃんらしくもない」
燿子の若々しい顔が不安に揺れる。
大人ぶって化粧などしているが、光平に言わせれば子どもの背伸びだ。
「こんなことやってる場合じゃないだろう?ご両親が知ったら悲しむよ」
「でも私、ちゃんと――」
「迷惑だ」
彼女が何か言いかけるのをさえぎった。
確かに燿子ちゃんはいい子だ。
だが彼女は子どもだし、好感を持っていたとしても、社長を裏切るようなことは絶対にしたくない。
ここは厳しくともはっきり断った方が彼女のためになる。
「俺には子どもの相手をする趣味はないし、燿子ちゃんはそういう対象じゃない」
一瞬で燿子が凍りついた。赤かった頬から血の気が引き、固く唇を引き結んだ。
傷つき見開いた目が痛々しいほどだ。
「だから、ごめん」
かわいそうだがどうしようもない。
「えへ」
気づまりな沈黙を経て、燿子がヘラッと笑った。
「私、暴走しちゃったみたいですね?すみません」
涙ぐましい努力で感情をねじ伏せた。
だが、顔色は蒼いままだ。
「これは会社とは関係ないことですから、辞めないでくださいね?」
高校を出たばかりの娘とは思えないほどの気配りで釘を刺す。経営者としての資質を垣間見たようだ。
自分の方が八つも年上なのに返す言葉もない。
どう声をかけたものかと迷っているうちに、燿子がソワソワと立ち上がった。
「お時間を取らせて、すみませんでした」勢いよく頭を下げた。
「いや……、こっちこそ――」
光平が言い終わらないうちに、燿子が千円札をテーブルに叩きつけ駆け出した。
途中、店員にぶつかりそうになりながら店を飛び出していく。
それを光平は呆然と見送った。
彼女は泣いていたようだった。