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騒がしい女子高生の背後でガラス扉が閉まると、辻丸不動産はまた元の落ち着きを取り戻した。
いつもなら辻丸社長のひとり娘はひとりでやって来るのだが、今日は友だちを連れてきた。
最初こそ静かに応接室を使っていたのだが、ときどき高い笑い声が上がるようになり、燿子がふたりの手を引っ張って無理矢理店外に連れ出した。
さすが社長の娘だ。会社の迷惑にならないよう気を配っている。
真鍋光平は女性客に視線を戻し、物件説明の続きを始めた。
彼女に勧めた物件は三件。この後、案内に行くことになっている。
物件の間取りもろくすっぽ見ないでこちらを見ているが、熱っぽい視線には気づかないふりをした。
下手に愛想を振りまいたら、大変なことになる。
前の職場ではそれが原因で、会社を辞めざるをえなくなった。
厄災となった女性客はふたりきりになった案内先で迫ってきた。
断ると、会社に『触られた』と苦情を申し立てたのだ。
その挙句つけ回され、裁判沙汰にまでなった。
彼女のストーカー行為が証拠になり裁判には勝てたが、その後遺症は再就職に響いた。不動産業界で噂が広がり、行き場がなくなったのだ。
そんな彼を救ってくれたのが、辻丸洋一だった。
社に温かく迎え入れ、単独の女性客の対応と案内時の極意を教えてくれた。
それ以来、光平は事務的な態度と、案内先での玄関扉を開けっ放しの説明を心がけている。
扉を閉めるよう言われると、『会社の規則で』を通した。
辻丸社長にはいくら感謝してもし足りないくらいだった。